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E.O  作者: えむ
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第2章:トリヒキ

 今、俺の目の前には非日常が手を差しのべて待っていた。

 俺は、驚きのあまりに思考が停止していた。

「ちょっ、いくらなんでも驚きすぎィー!」

 非日常——遠藤桜花はそんな俺を見て腹を抱えて笑い転げていた。

「なんで、ここに?」

 俺は、ようやく落ち着きを取り戻し、桜花に聞いた。

「なんでって……“取引”しようって今言ったじゃん?」

 彼女はそう言って意味ありげな笑みを浮かべた。

「“取引”? 何の話だ」

「そっか、説明しなきゃわかんないか! ごめんごめん」

 取引? 何なんだ、非日常の塊のようなこいつが凡人の俺に何の用だ?

 そう考えているうちに彼女は“取引”内容について説明を始めた。

「あなた、私の駒になってくれない?」

「……は?」

 俺は開いた口が塞がらなかった。

「だから私の命令に従う存在になってほしいって言ってるの」

「てめぇ、何様だよ?」

 いらついた俺は無意識に言葉を発していた。

「“てめぇ”じゃないわ。桜花よ、遠藤桜花」

「そりゃ知ってるよ。有名だもんな?」

「ありがとう、うれしいわ!」

 桜花が顔をパァッと輝かせる。

 皮肉っぽく言ってやったつもりだが、ただの褒め言葉になってしまったようだ。

「話を戻すわ、私に従うつもりはない?」

「なんで俺が——」

「もちろんただでとは言わないわ。あなたの望むものをあげる。例えば——」

 彼女の口元がニヤリと歪む。

「“非日常”」

 その単語は俺の心に突き刺さった。

「他の人には絶対にできない、そんな生活をさせてあげられるわ」

 ずっと……ずっと欲していた。人と違う生き方がしたかった。それを与えてくれると目の前の女は言っている。

「欲しいんでしょ、“非日常”?」

 気付くと彼女は俺の目と鼻の先にいた。

 怪しげな瞳が俺を覗き込んでくる。

 気を抜くとその瞳の中に吸い込まれてしまいそうだ。

 俺は慌てて少し身を引く。

 けれど彼女は俺に再び顔を近づけてきて、耳元でささやいてきた。

「私はその気になればあなたに超常の力を与えることができるのよ。まあ、あなたの意思次第だけれど」

 この女と“取引”すれば、“非日常”が手に入る。

 だが……そんな……

「――ッ!」

 俺は焦った勢いで彼女を突き飛ばす。

「痛っ! 何するの……ってちょっと待ってよ!」

 俺はそんな声を後に教室を飛び出した。


「なんだったんだ、いったい……」

 俺は今駆け下りてきた階段を振り返る。

 突然現れた、グラビアアイドル。

 それだけでもうすでに非日常だというのに、さらに非日常の生活をくれるだなんて……。

 そう思いながら昇降口から出ようとしたとき、俺の足は止まった。

 昇降口には先客がいた。

「そろそろ行こっか」

「そうだね」

 大和と桜花が、重ねていた唇を離し、手を繋いで昇降口から出て行く。

 幸い、俺のことには気づいていないようだった。

「欲しくなった? “非日常”」

 後ろを振り向くと、桜花が腕を組んで立っていた。

「いつの間に――」

「あなたはそっちの世界にいるべきじゃないわ。もっと素質を有意義に使わなくちゃ」

 そう言って彼女は笑いかけてきた。

「ね、“取引”しましょ?」

 もう何もかもがどうでもよく感じた。

 だったらもういっそ、こんな日常なんて……!

 この時の俺に迷う理由はなかった。

「——“取引”、成立だ」

「ありがとう」

 彼女はさらに顔を近づけてくる。

「何を……んっ!?」

 彼女は慣れた感じで俺の唇に彼女の柔らかいぷるっとした唇を重ねてきた。

 その瞬間、全身に電流が走った——ような気がした。

「これからよろしく、隼」

「……こちらこそ、桜花」


 気がつくと、俺は自分の部屋の床に座っていた。

「あれ、俺——」

(聞こえる、隼?)

 突然、声が頭の中に響いてきた。

「桜花か? どこにいる?」

(少し離れたところよ。今はテレパシーであなたに話しかけてる)

「テレパシーだって?」

 俺は動揺を隠せず、声が裏返ってしまった。

(私と“取引”したら私とテレパシーで会話できるようになるのよ)

「桜花、お前——何者?」

(そうね、今は“魔女”とでも言っておこうかしら?)

 桜花は少しおどけたふうに答える。

(それより)

「……なんだよ」

(早速協力してほしいことがあるの)

「もう駒になれってか……で、どうすればいいんだ?」

(今から言う場所に来てほしいの。動きやすくて汚れてもいい格好でね)


 俺は桜花にして指定された場所にたどり着いた。

 着いたらテレパシーで知らせてくれ、って言われたんだっけ。

(桜花、聞こえるか?)

(ええ、聞こえるわ。着いた?)

(ああ、だがこの後はどうすればいい? ここってただの住宅街なんだが……)

 時刻は22時を過ぎており、街灯が少ないせいで薄暗い。雨もシトシトと降り続いていた。

 そして、目の前には比較的大きな一軒家が建っている。

 不穏な静けさが身を包み、身震いしてしまう。

(その家の中に入ってきて)

(何だって!?)

(大丈夫、鍵は開いてるわ)

(いや、そういう問題では……)

 反論したが返事は返ってこなかった。

 恐る恐る家の門を開け、ドアを開ける。

 心臓が緊張でドクドクと高鳴る。

 本当に鍵はかかってなく、すんなりと家の中に入れてしまった。

 奥のほうにある部屋からなにやらギシギシという物音が聞こえてくるのに気付いた。

 まさかとは思うが……。

(入ったぞ。次はどうすればいい?)

(物音がするでしょ、その部屋の前まで来て)

 どういうことだ? 疑念を抱きながらも指示に従う。

(着いたぞ、次は?)

 ……。

 静寂が帰ってきた。

 返事は返ってこない。

 部屋の中からはギシギシという物音とかすかな喘ぎ声が聞こえてくる。

 心臓の鼓動がさらに速くなる。中が気になってしょうがない。

 俺は慎重にその部屋のドアを少し開けて中を覗き込んだ。

 中にはベッドが1つある。少し狭めの部屋のようだ。何人も人が入れるような部屋ではない。

 そしてそのベッドの上には、40歳くらいの中年の男と、若い女性が夜の情事を行っていた。

 若い女の方は……桜花か?

 男に突かれて喘いでいる。

 おいおい、まさか桜花のやつ、こんなモノを見せつける為に——。

(その男を殺して)

 突然、桜花の声が頭の中に響く。

 ビクッと自分の体が震えたのがわかった。

「な、何を言って——!?」

 と言いかけて慌てて俺は自分の口をふさぐ。

 しまった。思わず声を出してしまった。

「誰だッ!」

 中年の男がこちらを振り返る。

 気付かれてしまった……!

 そして、その男はベッドの脇に置いてあった黒い物を掴みこちらに向けてくる。

 ——拳銃?

 俺の頭の中はパニックに陥った。

 ここは日本だぞ、いったいどうなってる!

 俺は即座に逃げ出そうとする。

(逃げないで! ……もういいわ、私がやる)

 そう聞こえた刹那、俺の意識は吹き飛んだ。

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