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E.O  作者: えむ
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第1章:ニチジョウ

「ふぁぁぁあああぁ……」

 昨日夜更かししたせいか、とてつもなく眠い。

 俺は今日もいつもの高校への通学路を、いつものメンバーで歩いていた。

 俺の目の前を歩く2人。幼なじみの男女2人。

 栗山大和と坂木遥奈。

 そして俺、小野崎隼を含めた3人グループ。

 小学生の頃から今までずっと変わらない。

 前にいる2人が恋人同士になってしまったということ以外は。

「ねぇ、聞いてる、隼?」

 遥奈が立ち止まって俺の方を振り向いて聞いてくる。

「あぁ、悪い。ちょっとぼーっとしてた」

「なんだ? また夜更かししてゲームしてたのか?」

 大和が笑いながら聞いてくる。

「まあ、そんなとこだ」

 ゲームはゲームでもちょっと“イケナイ”ゲームではあるけれど。

「そうだ、マグジン持ってきてくれた?」

「ああ、持ってきたよ」

 俺は大和に分厚い漫画雑誌をかばんから取り出し、渡す。

「サンキュー!」

 昨日発売の少年週刊マグジン。大和に毎週頼まれているのだ。どうも親が厳しくて買わせてもらえないらしい。

 それでこうやって俺が買ったものを学校で貸してあげてるわけだ。

「いくら大和のお父さんが警察幹部だからってまだ買わせてもらえないの? 厳しすぎる気するけど……」

「うちの親父はカタブツだからさ、漫画なんて教育に良くないって今だに考えてるのさ」

 前の2人がそう言って前に向き直り、歩き出す。

「お、今日のグラビア遠藤桜花じゃん!」

「そういえばこの子アタシたちと同い年なんだよね、すごいなー!」

 俺は顔を寄せ合ってそんな他愛も無い会話をしている2人の少し後ろを空を見上げながら付いていく。

 小学生の頃からずっと変わらない。そう思っていたけれど、いつの間にか俺はこの2人と一緒に居づらくなっているのかもしれない。

 そんなことを思っていると、遠くの方に浮かぶ大きな黒い雲を見つけた。

「帰りは、雨かな……」

「ん、どうした?」

 大和が俺の独り言を聞いて振り向く。

「あ……いや、なんでもない」

 今日も平凡でつまらない日常になるのかと思うと、憂鬱で仕方がなかった。


 チャイムが鳴り、いつも通りのつまらない授業が終わり、あっという間に放課後になった。

 いつのまにか俺も高校3年生。

 そろそろ将来のことも考えなければいけないのだけれど、普通の大学を卒業し、会社員になって平凡に暮らすのもつまらない。

 今でさえこんな平凡な日々に飽き飽きしているのだからこの後、数10年そんな生活を送ることに耐えられるはずがない。

 何度か担任から進路指導を受けたが、将来のことなんか決まらなかった。

 まあ、何しろ俺には何一つ突出したところがない。非日常を望んでいたとしても所詮、ただの幻想に過ぎないのかもしれない。 

「……ゅん、隼ってば!」

「ん……ああ、ごめん。何?」

 自分の席に座ったまま考え事に没頭してしまっていたようだ。

 隣の席に座っていた遥奈に名前を呼ばれているのに気づき、俺は思考を中断する。

「今日さ、帰りに大和と映画見に行くんだけど、一緒に来ない?」

 そう言って彼女は『ハリィ・ボッチー』と書いてある3枚の映画のチケットをひらひらと見せてくる。

「孤独な魔法使いの戦いの物語……だっけ?」

「そうそう。どう?」

 彼女はニコニコしながら答えを待っている。

 俺は少し考える。

「隼、久しぶりに3人で行こうぜ、な?」

 いつ回り込んだのか、後ろから大和が肩を組んでくる。

「いつもマグジン貸してもらってるし、金が無いんなら特別にオレの奢りでもいいぞ?」

 大和が横でニッと笑う。

 だが、俺は……。

「ごめん、実は進路のことで先生に呼ばれててさ——」

 もちろん、嘘だが。

「そっか……なら仕方が無いね」

 遥奈は少し肩を落とす。

 カップルなんだから俺のことなんか気にせず2人で行けばいい、なんて言えるわけがない。

「じゃあ、また来週! 楽しんでこいよ!」

 俺は気まずさを感じて急いでかばんを掴み、教室を出て行く。

「おう、またな!」

 大和の声が聞こえてくる。

 俺は、悔しさがこみ上げてきて一気に階段を駆け下りた。

 そんなに、俺に気を使わないでくれよ……!


「うーん……」

 図書室で進路に関するいろんな本を探してみたが、しっくりくるものがない。

 教室を出た後、ノリで図書室に入ってしまったが、意味はなかったようだ。

 俺はマグジンの表紙を飾っていたアイドルのことを思い出す。

 あのアイドル、遠藤桜花は俺と同い年なのになんでこんなに差があるのか——。

 時々自分の才能の恵まれなさに切なくなる。

 勉強も運動も並、取り柄なんか何も無い。そんな人間は平凡に生きて地味に死ぬしか無いのか。

「……理不尽だ」

 俺はどこへともなく吐き捨てる。

「もうこんな時間か、雨降らないうちに帰ろ」

 外はいつの間にか薄暗くなり、空は黒い雲に覆われていた。

 俺は一応借りてみた本をしまう為にかばんを開けて、気付いた。

「あ、体育着教室に忘れた……」

 はぁ、とため息をつき、階段を上って教室に戻る。

 俺は誰もいない静かな教室のドアを勢い良く開ける。

 正確に言うと、誰もいないはず——だったのだが。

「お、来た来たー! 待ってたよ」

 誰もいないはずの、静寂のはずの教室では、どう見ても部外者な女の子が机の上に座っていた。

「遅いよ、小野崎隼。待ちくたびれちゃったじゃない」

 俺は、夢を見ているのだろうか……。

 あの遠藤桜花が、俺の目の前には、いた。

「ねぇ、私と“取引”しない?」

 目の前の非日常が、ニヤリと笑みを浮かべ、手を差しのべてきた。

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