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E.O  作者: えむ
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第10章:アクマ

「“JWH”の、司令官……相馬……だと?」

『ええ、少し警告がありましてね。それをお伝えするためにお電話させて頂きました』

 その若く、優しそうな声の相馬という男は、さらに続けた。

『小野崎隼さん、あなたの家族の身柄は拘束させていただきました』

「な、なんだと!?」

 家族が人質に取られた、ということか?

 その優しそうな声は表面的なものだけで、その奥底には鋭いトゲがあった。

『それで、あなたと“魔女”の身柄を確保し次第、あなたの家族は解放する予定なのですが——』

「俺たちに出頭しろってことか?」

『それはそちらの解釈にお任せします。では、用件は以上ですので。懸命な判断を期待しています』

 そう言うと、相馬は一方的に電話を切った。

「くそっ!」

 俺は拳を握りしめる。

「隼」

 深刻な表情で桜花が俺の顔を覗き込んでいた。

「聞こえていたか?」

「ええ、厄介なことになったわね」

 桜花が眉間にシワを寄せながら聞いてくる。

「出頭する気?」

 俺は少し考える。

 これ以上、何も失いたくない。

 大和にも遥奈にも罪を償え、と言われた。

 俺はこの状況を望んでいたのではないのか?

「そうだな……」

 俺は口を開く。

「出頭するのもいいかもしれない」

「隼、あなた——」

 桜花が反論してきたが、俺は指で彼女の口をふさいで言葉を遮る。

「だけど、あの相馬って野郎をぶちのめしてからじゃないと腹の虫がおさまらない」

 そう言ってニヤリと笑って見せる。

 相馬。

 遥奈の人生を狂わせた男。

 遥奈だけじゃない、もっとたくさんの少年少女の人生を狂わせてきた男。

「あいつは全然関係ない俺の家族に手を出しやがったんだ。そんな奴のもとで罪が償えるかよ」

「わかったわ、協力する」

 桜花は笑いながら言った。

「おいおい、駒に協力するっていうのか? これは俺1人で——」

「いいのよ、私もそいつには用があるしね」

 桜花は複雑な表情を浮かべていた。

 俺たちは顔を見合わせた。

「決まりだな」

「ええ」


 俺たちは、例によってまたファミリーレストランで作戦会議をしていた。

 本当は家に帰って休みたかったのだが、家の周りは“JWH”によって完全に封鎖されて、近づくことも叶わなかった。

「ミラノ風ドリアとペペロンチーノでございます。ご注文の品は以上でお揃いでしょうか?」

 そう言って、店員は料理を置いて去っていく。

「だけど、そんな作戦で通用するのか?」

 俺は桜花に疑問を投げかけた。

 作戦概要は、今や“JWH”の部隊の駐屯地と化している例の研究所跡に出頭……すると見せかけて、相馬を襲撃。家族の居場所を聞き出た後に殺害、救出作戦に移る、というものだ。

「隼の能力次第ね」

「と、いうと?」

「最近、隼の能力が異常に肥大しているように感じるの。だから隼が望めば、作戦は成功する。そんな気がする」

「そんな気がするって……そんな曖昧な」

 だが、桜花の顔は真剣だった。

 単純かつ幼稚。

 そんな作戦だが、俺の能力次第では達成は可能……か。

 桜花は俺のことを信頼してくれている。

 そうでなければこんな作戦を提案したりはしないだろう。

 だったら、俺はその信頼に応えてみせなければ……。

「わかった、それでいこう」


 次の日、俺たちは行動を開始した。

 予定の時間通りに、研究所跡に到着した。

 研究所の門のところには、武装した“JWH”の兵が警護についていた。

「準備はいいか、桜花?」

「ええ、大丈夫」

 最初はあんなに気に食わなかった桜花が、今ではとても頼れる存在になっていた。

 側にいてくれるだけでこんなにも心強い。

 今なら、どんな望みでさえも叶えられる。

 そんな気がした。

 俺は覚悟を決め、警護の兵に声をかける。

「あの、俺、小野崎隼っていうんですけど。あ、こっちは遠藤桜花です」

 その名前を聞いた兵は、即座に手に持っていた携帯ブザーを鳴らし、仲間を呼んだ。

「……来たな」

 集まってきた兵の中に、1人だけ迷彩服ではなくスーツの若い男がいた。

 兵の中を1人悠々とこちらに歩み寄ってくる。

「ようこそ、小野崎さん。そして久しぶり、桜花」

 目の前まで来た男は口を開いた。

 電話で聞いた声だ。

 こいつが、相馬宗也か。

 相馬は、優しげな笑みを浮かべた。

 だが俺には、その顔からとんでもなく鋭いトゲが隠れているようにしか見えなかった。

 司令官自らお出迎えとは少し予想外だったが、この際ちょうどいい。

「言われた通りに出頭しに来てやったぞ、俺の家族を解放しろ」

「彼らはそう簡単に帰すわけにはいきません。何故なら——」

 相馬の優しそうな顔が凶気に歪む。

「——もう、人ではないのですから」

 彼の口からは信じがたい言葉が飛び出した。

 俺の背中に冷や汗が流れる。

「ど、どういう事だよ」

「だから、もう殺してしまったと言っているんです。別に私は生かしたまま拘束したとは言っていませんよ?」

 彼の口元は大きく歪んでいる。

 この男は人が絶望する様を見て、楽しんでいる。

 俺は、ショックのあまり言葉が出てこなかった。

 殺した? 俺の家族を? 父さんと母さんと、姉さんを?

「そういえば、お姉さんだけはかろうじて生きたまま回収したのですが、少し乱暴をしたらショックでプツンと逝ってしまいましたよ」

 こいつは、“悪魔”だ。

 最低の野郎だ。

 俺の心が闇に支配されていく。そんな気がした。

「許さない……」

 この男が家族を殺した。この男が遥奈を実験体にしていた。

 そうだ、こいつは……人間の皮を被ったナニかだ。

 もう躊躇いなんかない。こいつを殺して、罪を償わせてやる!

「桜花!」

 俺は叫ぶと、素早く両手に栓が抜けている手榴弾を出現させ、目の前の男たちに投げつける。

 桜花は素早く俺の後ろに隠れる。

「撃て!」

 相馬はとっさに後ろに下がると、部下たちに命令した。

 俺は、大きな盾を出現させ、銃弾と爆風に備える。

 大きな音を立て、俺が投げた手榴弾が爆発する。

 肉の焦げる臭いがする。

 悲鳴のような声も聞こえた。

 爆風が収まり、目の前には焼き焦げた肉が散乱していた。

 だが、その肉の中には、相馬らしき姿は見当たらない。

「逃げたのか?」

「そのようね」

 もう後には退けない。

 爆発音を聞いた他の兵たちが、俺たちのもとへ集まってきていた。

「突破しよう。援護を頼めるか?」

「ええ、もちろん」

 俺は、アサルトライフルと弾倉を出現させ、桜花に手渡す。

 そして、自分の分のアサルトライフルを出現させ、構える。

「行くぞ!」

 桜花に合図を出し、俺は敵の群れに突っ込んでいく。

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