壷に棲む
掲載日:2026/07/04
エントランスの壷から誰かがのぞいていると妻が言った時は、悪い夢でも見たのだろうと思った。築年数こそ経過しているものの静謐なマンションに置かれた丸い壷。傾いているわけでもあるまいに、わざわざのぞき込むからおかしな錯覚でも見たのかもしれない。
無人の部屋に帰宅して気に入りの惣菜を並べ、一人晩酌する。……一人分としては多く買いすぎたようだ。
単身者には広すぎる部屋には前の居住者の残置物がやけに多い。業者に任せた方が手っ取り早く片付きそうだ。
出勤時、誰かに呼び止められて振り返ると壷の中身と目が合った。
こちらを向いた口からにゅるりと伸びた両腕は妙に白く、艶めかしい手招きに抗うすべはなかった。
第43回 毎月300字小説企画、お題は「つぼ」でした。




