賭博……それは空白のイデオロギー
誤字脱字の修正はそのうち、出張で執筆してるので投稿ペースはヤバいです
「よぉ、聞こえてるな?」
「はい。聞こえてますよ。」
体を覆い隠すには大きすぎるローブの下で羽をおさえて応答する。
「んじゃ作戦のおさらいだ。ローディアス、お前の役割はわかってるな?」
目を瞑って朝聞いた話を思い出す。
「最初は適当に賭けて一般客を装う。そして、シディが出た始めの試合から額を上げていく……大穴狙いのフリを続けてヒバナの時間稼ぎいっぱいまでお金を稼ぎ続ける、だったよね。」
「オーケー、上出来だ。」
ルーシフェル満足げな声で告げる。
「それじゃ、シディの作戦通り俺は通信係を続行する。常にそっちの声を垂れ流しちゃいるが、なんかあったら助けを呼べよ。」
「うん、ありがとう。」
軽い感謝を言い残して、人混みの中を捩っていく。もみくちゃにされながらもどうにか階段を登っていき、2階の試合がよく見えそうなフェンス際に腰を据える。
「ふぅ……こちらローディアス、配置についたよ。」
「俺も範囲キワキワだ。なんかあったらすぐ逃げられるぜ〜。」
ルーシフェルの声から少しの沈黙を挟んで、無機質な声が鼓膜を揺さぶる。
「こちらシディ、たった今登録が完了したであります。飛び入りですが、初戦は2戦後。ヒバナのほうはどうでありますか?」
「ヒバナだ、既に声をかけられている。作戦通りこれから応接間でオーナーと話をつけてくる。問題がなければ直に部屋にはいるがチヨコはどうだ?見えているか?」
「うん!ウチもオッケー!よく見える良いスポット見つけたよ。こーゆーの始めてだからめっちゃワクワクする!ヘカっちはどう?」
「へ、ヘカっち?えっと、私も配置つきました。いつでもオッケーですよ!」
それぞれのゴーサインを受けて、静かに蝋人形は口を開く。
「ではこれより、オペレーション・アルトゥーイズム開始であります。」
その声を合図に扉を二度こぶしで叩く。
「入るぞ。」
その先の言葉を待たずに扉を押し開ければ、上等な部屋の中で目を細めた男が革製の椅子に腰を下ろしていた。
「ッ……おぉ!お待ちしておりました。貴方がヒバナ様ですね。」
腰を上げた男の体付きは細見。ローディアスと似た服装に特段変わった点も見られず、鍛えられている匂いもしない。しかし、細めた目元から流れる甘ったるい視線……丸腰というわけでもないようだな。
「あぁ、汝……いや、貴様は?」
「ナンジ?……あぁ、いえ。私はこのサーカスのオーナー、ケイオス。今回は折り入ってお願いがありお呼びさせて頂きました。」
促されるように上等な椅子に腰を降ろす。背後には広い部屋を区切るように布がつるされ、左隣の出入口には筋骨と鎧をまとった護衛が二人。質素で無骨な匂い。隠し種は備えていないらしい。
「……この身はいまだ放浪の最中。時間はこの腕をもってしても余しておる。聞かせろ、貴様の話とやらを。」
「ありがたい限りです。ではまず、こちらをご覧ください。」
「ふむ?」
護衛2人が静かによって来るが、敵意は感じない。腕を組んだまま黙していれば、椅子の背もたれが捕まれ、ケイオスとやらと向き合う姿勢から右側へ回される。壁に掛けられた布が引かれ、天井へ上がって行けば現れたのは相対する男達。
「ほぉ。」
「三人組の男達と槍を持った青年、どちらのほうが強いと見ますか?」
品を定めるような目つき。それが見据えるのは、単純な武力だけでなく研がれた目と冷徹な脳。少し尺ではあるが、手のひらに乗るとしようか。
「槍の方だな。三人組と比べて練度に違いがありすぎる。」
「えぇえぇ!流石でございます。」
称賛するケイオスの言葉を踏み倒すように、動き出した三人組に槍の男は押され始める。
「……戦いというよりは演武だな。」
「エンブ?」
三人組のソレは連携の取れた動きというよりは決まったパターンの押しつけ。そして、ソレを受ける槍の男もまた、徐々に不利になっていくように意図的に受け損じ始める。
「武道や武術の技を組み込んで、決められた動きを再演し美しさを評価するものらしい。妾らはそれを舞へと昇華させて神や先達への祈りとしていたがな。」
「なるほど……そのようなものが。」
つまらない予想の通りに、槍の男は追い詰められ三人組が手のひらを打ち合わせあっていた。
「素晴らしい伝統ですね。ヒバナ様は武への造詣が深いのですね。」
「……腕っ節だけが取り柄のだけだ。」
少し不味い真似をしたかも知れないな。感心したように呟くケイオスを見てそう感じざるを得なかった。ある程度の有力さを示さんとしたばかりに、御するのが難しい性格だと思われたかも知れない。無知で真っ向的な性格を装った方がよかったか?
「しかし、あのような場での演武は好まんな。妾は強者と戦えると聞き、ここに足をはこんだのだがな。」
「やはりそう思いますか?」
もう少し、その邪な目を鎮めたらどうだ?そんな言葉を吐きかけたが、どうにか飲み込んだ。しかし、どうやら上手く竿を引けたらしい。さて、付き合ってもらうぞ。
「もしも〜し?ヘカっち、聞こえてる?」
どんな建物かは分からないが、高く豪勢な造りをした屋根の上で、羽越しに問いかければ程なくして静かな声が帰ってくる。
「はい、聞こえてますよ。動きがありましたか?」
「うん!ヒバナっち達のいる部屋に今人が向かってる感じ。えっ〜とね、Bの1から2人かな。いける?」
「ちょっと待っててくださいね。」
そんな返答を受けて少しした後、窓の1枚向こう側を歩いていた二人組の男が、突如胸を押さえて蹲る。地面に伏してバタバタと足を膝から動かしたのち、口から泡を吹いて動かなくなる。その顔は苦悶の先をみたのか、想像を絶する表情であった。
「こぉっ、殺してないよね?へかっち?」
「えっ?あっ、あ〜はい!!気絶、気絶しただけですよ。」
その言葉の後に倒れた男たちの体に何か枝のようなものが触れ、やんわりと光を放つ。何やら苦悶に満ちていた顔は少しの安寧を取り戻したように和らいでいた。
「……。」
「……気絶……気絶です。」
「あっ、うん。……その、見つからない場所に隠すのもヨロシク。」
「は、はい。……その、また連絡あったら……お願いします。」
気まずい沈黙を含んで連絡は一度落ち着いた。
「……ヘカーテのやつ、なにしたんだ?まさか、殺しちゃねぇだろうな。」
言い聞かせるように呟いて、喧騒のなかで木製のジョッキに注がれた果実酒を軽く流し込む。
「ルーシフェル、聞こえてるでありますか?」
「ん、聞こえてるぜ。シディ。」
無機質な声が羽を介して鼓膜を揺らす。
「一試合が終了しましたが、どうやらヒバナの方から試合風景が見えているようです。対応を願えますか?」
「そりゃ不味いな。オゥケィ、こっちでヒバナに指示を出す。」
「ありがとうございます。何事もなければ、試合の始まる直前にまた連絡を入れます。」
「おぅ、頼りにしてるぜ。」
それを言い残して、別の羽を掴む。
「……聞こえるな、ヒバナ。シディから連絡があった。上手く今いる部屋からオーナーを連れ出すことは出来るか?」
上手く、とは投げやりなものだな。
「そこで、どうでしょう?ヒバナ様貴方の力を貸してほしいのです。」
「む?」
眠たい話を聞き流していた所で、怪しい目を光らせてケイオスが手を差し出してくる。不味いな、ほとんど話を聞いていなかった。
「……確かに、資金を集めきるまではヒバナ様には俗に言う八百長というものに加担してもらうことになります。ですが!約束しましょう!必ずや資金を集めきり、貴方様のような強者が武を極められる場所に昇華してみせると!」
「……。」
よほど自身のある口説き文句なのだろうが、《《弱いな》》。《《おまけに醜い》》。しかし、好都合だ。
「……貴様の夢になど興味はない。」
「……そうですか。」
少しくらい、妾も良い思いをさせてもらうとしよう。
「同時に、その先で相対する強者もだ。」
椅子から立ち上がり、ケイオスを見下ろす。今だ腰掛けるケイオスは、残念そうに俯いている。
「魅せてみろ、貴様の現実を。最も強い出場者を呼べ……話はそれからだ。」
「ありがとう、ございます。」
卑しく歪んだ口元を隠すためではなかったのか?よくもまぁぬけぬけとそのような顔を晒せたものだな。
「では早速、こちらへ。」
扉を押し開けたケイオスは釣り上げた魚をどのように食すか思いを馳せるような笑みで、扉の先へ手を伸ばした。
「ヒュー!鮮やかだなぁ、ヒバナ様?」
「ふっ、ぬかせ。」
「おや?何か?」
振り返ったケイオスへ軽く向き直り、張り付けた笑みを浮かべる。
「いや、《《なんでもない》》。」




