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ブレイブマン・イレギュラーズ  作者: 尾沖泣栗
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たつ鳥跡を濁さず

誤字脱字の修正はそのうち行います

「……よし、行くか。」


決意を新たに声としてみれば、案外馴染みのない部屋も恋しく感じてくるものだ。


「……。」


扉を押し開ける前に、備え付けられた薄汚れた鏡へ目をやる。そこに映るのは少々伸びすぎた黒髪に、同じく黒い瞳。薄っすらと唇は紫で彩られ、一張羅の燕尾服に身を包む青年。


「う〜ん、ここをこう。」


少し締まらない気がしたので、真白の手袋に包まれた手で髪の毛をかき上げ、固定する。


「うん、上出来。」


分けられた髪によって顔がよく晒され、幾分か見苦しさはなくなった気がした。その事実を飲み込むと同時に一度頷き、扉を押し開ける。ここからが正念場だ。


「あ、来ましたね。」


予定の時刻より少し早めに向かったはずであったが、すでに全員が揃っていた。思い思いの服装に身を包んで、なかには床に腰を掛けているものまでいる。


「ドンケツでも15分前か……。もしかして毎回やんのか?これ。」


開口一番に辟易とした様子のルーシフェルは昨日と違って頭にゴーグルを回していた。それ以外は特段変わりなく、黒いズボンにヘソと胸元が晒しだされた上半身。腕には幾つもの金細工がなされた腕輪を通し、十の指全てには金銀の指輪がはめられている。付け加えるならば、ズボンを締めるベルトは何故か3本。


「どっ、どうでしょうか……?私はネクロマンサーの実験が出来ないので早めに出たんですけど。」


少し遠慮がちに首を傾げたのはヘカーテだろうか。頭から2本の角が生えた獣の頭蓋骨を被ってしまっているため顔は見えないが、全身を覆うような黒いローブは見覚えがあるため間違いない。


「是としてはどちらでも問題ないであります。」


本当に真白の肌……というよりは蝋の顔を持つシディは一切表情を変えることなく声を上げる。宝石の瞳に美しく彫られた鼻と口。しかしなにより目を引くのは、昨日の質素な服装を忘れさせるほどの純血のドレス。節々に至るまでとにかく赤が用いられ、絢爛を体現するかのようであった。もっとも、更地に体育座りをしているせいでその華やかさを持て余してしまっているが。


「ウチ的には、もう少し時間ピッタでも良いとおもうなぁ〜。ほら、お化粧とか時間かかるし。」


すこしおどけた様子で笑うのはチヨコ。前二人ほど奇抜な格好をしているわけではないが、スラリと長く伸びる両足は足首を起点に三股に割れ、その先で鋭く光る爪が桃色や蛍光色に彩られていた。しかし、そんな素敵なお洒落を殴り飛ばしてしまうほどに背中から姿を現す人間大の猟銃に目を奪われてしまう。


「化粧か……妾は儀式の時くらいでしか使わんな。朝に時間を望むとすれば飯時くらいだ。」


静かにつぶやくヒバナはローブを羽織ることなく4本の腕を組んでいた。紅色の肌は言葉通りに飾られることはなかったが、薄紫の瞳とスラリと通った鼻筋に薄い唇は既に一級品の化粧であるとも感じられる美しさを形成していた。身にまとうのは黒色のインナー。ノースリーブのソレは鍛え抜かれた筋肉を覆う第二の皮膚となり恵体を強調し、反面下半身はゆとりのあるややラッパ状に膨らんだズボンでゆったりと覆われていた。


「ん?」


疑念によく似た動揺が足をくすぐった。昨日感じた、威嚇や拒絶の壁といったものが薄れているように感じたから。


「なーにぼったってんだよ?寝坊助か?おはよーさん。」


「おっ、おはよう……ございます?」


思わず立ち止まってしまった所までルーシフェルが軽薄な笑みを浮べ寄ってくる。


「おはようございます、ローディアスさん。凄い様変りですね……ルーシフェルさんが言わなかったから気が付かなかったかも知れないです。」


そこに付随するように、頭部を覆うにはすこし大きすぎる頭蓋骨の内側で籠った声が聞こえた。


「ローディアスっち、めっちゃイカしてんじゃ〜ん!!結構可愛めの顔つきだと思ってたけど格好良い路線も行けんだね。」


独特の前傾姿勢で走り寄ってきたチヨコは人懐っこい笑みを浮べて声をかけてきた。


「是の服と同じ気配を感知いたしました。相当の戦術的優位性タクティカル・アドバンテージを有しているのですね。良いと思います。」


いつの間にか立ち上がり、寄ってきたシディはジロジロと服を舐め回すように覗き込んだあと、親指をうえに立てて無表情でサムズアップを繰り出す。


「え?……こ、これは一体?」


異常状態から抜け出すように顔を上げれば、頭一つ以上高い所から薄紫の瞳がコチラを見下ろしていた。


「ふっ、さてな。お節介な天使にでも聞いたらどうだ?」


「んぉっ!!ヒバナの姉御ぉ、マジで手加減ないんすねぇ〜……ハハハ。」


ぎこちない笑みを浮かべるルーシフェルへ視線を向ければ、赤い瞳が暫く泳いだのち


「『|そして天使は顕現する。《ラ・シンフィスタ》』」


そう唱えると1枚の白羽がふわりと空を舞って耳元を掠め、漂う。


「よぉ、目ぇ覚めたか?」


「おわっ!?」


耳元の羽根からルーシフェルの声がダイレクトに鼓膜を揺さぶる。驚き身をよじれば、口元に羽根を当てていたずらっぽく笑うルーシフェルの姿があった。


「も、もしかして……?」


脳裏を真っ先によぎったのは、昨夜の会話。原理は分からないが声か音を羽を通して伝達する能力なのだとしたら……。


「……あっはぁー!わりぃな!ローディアス、天啓ってヤツだよ。」


「うっ、嘘でしょう!?」


「ごめんなさい、実は聞かせて貰ってました。」


頭にかぶった骨を両手で持ち上げて、黄色の瞳が申し訳無さそうに俯く。


「私、存在者って響きだけで怖がっちゃってローディアスさんみたいにきちんと調べもしないでいました。」


眉もとで真横に切りそろえられた緑黄の髪は一切表情を隠すことなく面と向かって立ち上がっている。


「それなのに、そんな私を守ってくれる様なルーシフェルさんの言葉にも目を背けたくなって、謝らなきゃいけないと思ってたのに自分の汚い考えがいやって気持ちだけが強くなっちゃって。」


臆病、なのだろう。それは特段ヘカーテがどうとかでなく、この世界で生きていく人達が。


「分かってると、思ってました。ネクロマンサーって言うと皆苦い顔しますし、世界樹を無断で切り落とそうとして村から絶縁された時も一人ぼっちで寂しい思いをしましたから。」


臆病さを皆が抱えあって、同調圧力として排他的な思考を作り上げていく。そんな重力に押しつぶされるなかで立ち上がるのは、一体どれだけ難しいことなのだろうか。


「正直に言うと、まだ怖いんです。私は誰かを疑う事で生きてきて、その先で反省じゃなくて自己嫌悪をする性格なんです。だから、ふとした瞬間にローディアスさんを疑って、疑われた側の気持ちをよそに悲劇のヒロインぶって自己保身に走るんじゃないかって。」


立ち上がれば、白々しい目で見られて足を掴まれて、地に伏す生き方を促される。その先で、貼り付けられそうな重さのなかで鎖を断ち切って歩を進める。


「ヒバナさんみたいに強くないです。ルーシフェルさんみたいに優しくないです。だけどっ!いつかきっと強くなります!優しくなります!!だっ、だからっ……そのっ!」


強ければ、優しければそれは一種の諦めを孕んで容易に立ち上がれるのだろう。しかし、それらを持たずして膝を曲げたまま上を見続ける。それは一体、どれだけ苦しく辛く損な選択なのだろうか。


「お願いします!私もっ、一緒に連れて行ってください!」


「ウチも、お願い!」


頭を下げるエルフに並んでハーピーも腰を折り頭を下げる。


「ウチは誰かに疎まれる辛さだけじゃなくて、無条件で受け入れてもらえる優しも知ってた。そんで、絶対にほかの人にはそんな辛い思いをさせないって思ってたのに押しつけちゃってた。ほんとうにごめん。」


「……頼むのは、こっちのほうですよ。」


ヒバナの強さがなければ躊躇していただろう、ルーシフェルの優しさがなければ黙していただろう。けれど受け取ってしまったのだから、もう懐にしまっておく。


「もし、皆が危険を感じたら僕をすぐに置いていってください。勿論、絶対にそんなことにはならないように日々努力します。こんな僕で良ければ、是非よろしくお願いします!」


喜びが口を歪めて目を湿らせる。せっかく決め込んだのだからこんな顔を晒すわけには行かないと深く頭を下げてみる。


「よ、良かったぁ〜。是非よろしくお願いします。」


「まじ感謝ぁ〜!!ウチ、めっちゃ頑張るし!」


片手づつ掴まれて上下にブンブンと振られる。身の上を明かして、人に手を握られる事があろうとは夢にも思っていなかった。


「そんじゃ、出発するかね。」


「あぁ……久しぶりに楽しめそうだ。」


「是も、新しい暇つぶしが生まれて嬉しいであります。」

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