未達の獣
コピペで一括乗せました、いつもの
「……流石に暇だな。」
「それな〜。……あと何日くらいかかる感じ?」
揺れの少ない荷台の中で、平坦な呟きを受けてシディは二、三度瞬きをした。
「出発したのが4日前ですので、あと7日ほどで国境のバリアンス関門に着く計算でありますよ。」
「関門に着いてからは?」
「コレまた7日ほどでありますね。」
分厚い本を胃袋のなかに収納したシディは地図を広げて指をさしていく。
「って事はあと14日か。」
「狩りでもそんなに張り込まないよ〜。」
暇だなぁという呟きがひときわ小さく荷台を揺らした。
「……ところで皆さん、ネクロマンスに興味ありますか?」
「うわぁ、びっくりした。ネクロマンスに興味があるのか聞かれたかとおもった。」
「そう聞かれてるでありますね。」
もはやネクロという言葉がヘカーテから発されると心臓が跳ねてしまうようになった。
「いやぁ、気持ちは嬉しいんだけどね〜。」
「あの……もしかして、変な勧誘だと思われてます?今の私。」
「経験と実績ってやつだな。」
悲しそうにうつむくヘカーテに寄り添う事ができる猛者は、荷台の中にはいなかったらしい。
「じゃあ一旦、ネクロマンスは差し置いて……皆さんってどれくらい戦えるんですか?」
「妾は自信があるぞ。」
「あんなに静かに寝てたのに、途端に飛び起きたな。」
ネクロマンスの話の最中は寝息すら感じさせないほど静かに眠っていたヒバナが、途端に目を見開いて手を挙げる。
「もしかしてヒバナさん狸寝入りしてました?」
「瞑想をしていたのだ。煩悩を消して精神をより強靭にするためにな。」
「じゃあ煩悩に負けてんじゃねーか。」
こんな小さな掛け合いが増えたせいもあってか、荷台の中は居心地が良くなっていく気がする。
「魔物の話を聞いて思ったんですけど、やっぱり調査って遠巻きに観察するだけじゃダメっぽいですよね。なので、ある程度は戦えたほうがいいんじゃないかなって。」
「ヒバナとシディは言わずもがなだけどよ、チヨコもなかなか強いんだぜ。」
「いやいや!アレは皆のお陰だって!」
「そんなことないよ。実際、チヨコがいなかったら皆何も出来なかったわけだし。」
何度でも語るが、狩人の快進撃は凄まじいものであった。予測にはなるが、形を持たぬ泥人形に差し止めを行えたのは、弾丸の着弾と同時に生じた衝撃が泥の肉体を蒸発にまで追いやったのではないかという話であった。
「ちなみに私、戦った経験はありませんけど結構自信ありますよ。いろんな魔術を研究してた時期もありますし、ネクロマンスは超一流ですからね。」
「ほっとくとすぐネクロマンスの話する……。」
となれば当然、目が向くのは男二人。
「俺は戦えなくはねぇんだけど、福音書がなぁ。」
「福音書?」
「あぁ、ほら。魔術って内包と外方の2種類あるだろ?俺のは内包なんだけどよぉ、あんまりにも戦闘向きじゃねぇからもう一個外方で持っとく事にしてたんだよ。けどフレスタットに行く前に無くしちまってな。」
口惜しげな様子のルーシフェルに対して、チヨコは暫くし眉間にシワを寄せて口を開く。
「何言ってるか一個も分かんね〜。ないほーとがいほー?」
「内包魔術は自分の体に関する魔術で、外方魔術は体の外側に発動する魔術って覚えると簡単ですよ。正確な線引きはもう少し複雑なんですけどね。」
浮かび上がった困惑にすかさずプロフェッショナルが口添えを始める。
「内包魔術は後天的な習得がかなり厳しく、一種の才能や遺伝になりますね。その分ユニークで複雑なものが多く、魔術的に造詣が深いとされてます。逆に外方魔術の殆どは後天的に魔術を扱えるようにするためのもので、タリソン・コナーによる陣式魔術やバーニック・ウィルソンによる刻印式魔術、出処は不明ですが最も流通している詠唱式なんかが有名ですね。」
「……もうちょい短くしてほしいかも。」
懇願するように頭を下げるチヨコに、嫌な色を一切見せないどころか、どこか楽しげに頭を悩ませたヘカーテは軽い口調でオチをつける。
「ルーシフェルさんは、本に料理のレシピをメモしたけど無くしてしまったので今は料理が出来ない感じです。」
「あ〜ね!なるほど!」
ポンと羽を打ち合わせるチヨコをみて、合点がいったときの動作は、亜人種でも共通なのかと思いをはせてみる。
「ローディアスの方はどうだ?」
「……一応、使えなくはない程度のがいくつかだけです。軽く火を起こしするとか、明かりで部屋を照らせるとか。」
「生活に根ざした魔術ですね。ちなみに詠唱式ですか?刻印式ですか?」
「よく使うから刻印式だね。詠唱式で指から火を出すのちょっと恥ずかしくて。」
詠唱式は確立したのが古い時代のこともあり、使われる言葉は古めかしくて格好のついたように感じるものが多い。故に、少しばかりに遠慮してしまうのだ。
「刻印式で戦闘に応用できそうなものとなると……あぁ〜確かこんな形でしたっけ?」
何かを思い出すように揺れの少ない荷台の中で紙に文様を書き始めたヘカーテは程なくして、シンプルな円に幾何学模様が押し込まれた物を差し出してくる。
「ちょっと使ってみてください。」
「え?何が出るのこれ。」
そう口にしたものの、触れた途端早速刻印が黒から反転し白光を始めた。
「うわっ!?」
普通もう少し前の段階で止めておくものだろう、そんな文句を唱えることは出来なかった。
「じっ、人骨?」
「あ、結構当たりですね!」
印字された紙はすっかりと姿を消して、その引き換えと言わんばかりに掌の内にはクリスタル調の頭蓋骨が収まっていた。
「……こ、れは?」
「私のアトリエから適当に一個引っ張ってきてみました。相互性のあるものはかなり手を込めなきゃいけないので、一通の魔術でしたけど。」
「そっ、そっちじゃなくて。」
人骨……それも頭蓋骨を手に持つのは流石に気分が悪いので床に置き手を離す。
「あ、こっちですか?名前は未達の獣だった気がします。確かフレスタットに来てから競り落とした呪物なので……250万ギルクくらいだったと思います。」
「値段よりも名前っ!名前よりも呪物っ!」
「ひっ!?手から離れない!!」
置いた手を引いたら、まるで吸い付くように頭蓋骨が手から離れない。
「そうなんですよ!そこが魅力なんです!何でもオークション当時はですね、手首ごと切り落とされて付いてきたんですよ!私が着手する前は延々に離れないどころか、触れた部分から体が結晶状に侵食されていき、最終的には頭以外を結晶化させて、その頭にすり替わる呪物だったんです!」
「大外れじゃん!!ローディっち死んじゃうよ!」
「離れないぃ〜!!」
反対側からヒバナが引っ張ろうと、手が触れればコロンと頭蓋骨が荷台の中を転がる。
「む?ハズレたが。」
「え?どういうこと?」
まさか呪いに打ち勝ったのか、と空振った感想を抱いてしまうほど余りにも呆気なく手から離れた。
「流石に私も結晶化は嫌だったので、適当にイジって見たんですよね。手についたら離れないは据え置きですけど、2人以上で触れば離れるようにしました。あとは使用者に結びつくので、一定以上離れると自然に手の中に現れるようになってますよ。なくす心配もないです!」
「別種の悪質な呪いになっておるな。」
「ルーシフェル、天使であれば解呪などを扱えるのでは?」
「いや、ほら……天使って自称だしさ。本物じゃないっていうかさ……。」
結論から述べてしまえば、そんな騒動は荷台の中の暇つぶしにぴったりな出来事であった。荷台から頭蓋骨を投げ捨てて、何秒で戻ってくるかを予想したり、木の上に実った果物を落としてみたり、関門ではあらかじめ捨てておき、門をくぐってから手元に戻すスーパープレイが喝采を呼んだ。
「ちなみに、詠唱をすれば口からビームでますよ。」
「あっぶねぇ!!」




