怪異!不気味通りに潜む女エルフ!
いつもの
「……ルーシフェルが消えました。」
それは、街について暫くしてからの事であった。
「えどうする?」
「こういう時には逃げない奴だと信じてたのに……。」
夕暮れ時に街について、夜には皆のもとに戻ろうと約束をした訳だが、心の準備をしている間にルーシフェルは姿を消してしまった。
「とりあえず、宿屋に向うしかないかな。……ヘカーテ、怒るよなぁ。」
「いや、その……まぁ、うん。ウチも怒るとおもうなぁ。」
やいやいと話し合って結局、素直に謝る事にした。
「……やっぱりウチの羽を見せて同情を誘わない?」
「悪魔の提案だね。」
天使が居ないからこそ生まれた選択肢なのだろうか。そんな軽い気持ちでいられる内に宿屋の扉を押し開ける。
「お待ちしていたであります。」
「あれ?シディっちだけ?」
仁王立ちで待っていたのはシディ。そこには鬼の姿も死霊術師の姿も、当然ながら天使の姿もなかった。
「ヒバナさんとヘカーテは?」
「ヒバナはチヨコ達が出かけてから毎晩通い詰めている場所があるようで、今晩も出かけたであります。」
「ここから森まで徒歩で三日くらいかかって、1日滞在して帰ってきたから……一週間くらい通いつめてるんだ。」
指折り数えたものの、何をそんなに夢中になっているのだろうか。
「是は皆さんが帰ってきたら、ヘカーテのアトリエに案内するように頼まれていたでありますが……ルーシフェルは同行していないのでありますか?」
「ルーシフェルは、消えました……。」
悲しげに呟いたものの、腹の中に潜む怒りを感じ取ったのかシディは深く聞いてくる事なく、一緒に宿屋を出た。
「ちなみにその、アトリエっていうのは?」
「是も詳しくは聞かされてないでありますが、聞いたところによると死霊術に必要な素材が詰まった玩具箱だと。」
タダでさえ暗くなった街なかを、生気の感じない……というか、生気のない蝋人形と歩く。正直な話、透明の魔物と同様の恐怖がそこにはあった。
「……ここでありますね。」
「いっ、如何にもすぎる!」
王城へ真っすぐ伸びるフレスタット街道。様々な商業施設が寄せ集まったフレスタット市場。酒場や如何わしい店に並ぶ歓楽街、王都のなかでも富裕層が住む上級住宅街、それ以外にも様々分類できる王都フレスタットの首都フレスタットの一つのエリアにソレはあった。
「……どう見てもダメじゃんね、これ。」
「不気味通りという名前に相応しい建築物だと是は思いますが。」
不気味通り。その名前のとおり、アンダーグラウンのドが過ぎる通りは違法スレスレを隠す気のない強気な人間たちの溜まり場。
「隣は……これ合法の薬だよね?」
ソレの隣のお店では怪しく緑色に発光する液体に、Drag!!と墨が引かれていた。
「こっちは……どう見ても人骨なんだけど。」
隣の店は店番とでも言わんばかりに、全身が丁寧にそろった人骨が看板を抱えていた。ちなみに、掘られている文字はDEATH。
「……まぁ、ここが一番アウトか。」
そして、ようやっと目を向けられた目的地には石碑があった。それも、見るからにお墓を意味するそこには最悪な文字が刻まれていた。
『健康な少年少女を求む!!』
「魔王より先にこっちじゃね?」
念のため、チヨコからサバイバルナイフを一つ借りた。
「ヘカーテ、連れてきたでありますよ。」
「……。」
まさかのハッチ式で開いた墓場は棺桶に誘い込むように土の中へ続いていた。
「む、扉でありますね。」
はしごを降りた先には木製の扉が一つ携えられていた。恐らくここが最後の砦なのだろう。
「開けるでありますね。」
「ちょっ!?心の準備がっ!」
押し開けた扉の先には、悲痛な叫びを甘美なスープとして迎え入れるような恐怖が目を光らせて佇んでいた。
「きゃーーーー!!!!!」
「うわぁぁぁああああ!!!!」
「おわぁ!?ちょっと、近所迷惑ですよ!!」
んな無茶な。そんなツッコミが出来たのは眼前に現れた大魚が姿を控えてからであった。
「色々言いたい事はあるんだけど、先ずアレなに?」
そう羽が伸ばした先にいたのは、《《正座をする魚だった》》。
「えへへ、やっぱり聞きたいですよね!」
正直に言うと、半分説教に近い質問であったのだろうが、ソレを受けたヘカーテはまるで作品を褒められた子供のようにめを輝かせていた。
「シディさんが釣ってきてくれた魚をもとに、ネクロマンスをしてみたんです!」
というか、実際その通りなのだろう。作品のこだわりをひけらかすように、ヘカーテはペラペラと舌を回し始める。
「今回はネクロマンサーのなかでもかなり哲学的なクローネ学派の術式で組んでみたんです!!タマシイの捉え方が繊細なぶん、完成した暁には高い知性と自我を持つのが特徴的で凄く難しいんですけど、その分やり甲斐はとてもあって、例えるならメイデン学派の『入門・人体を永遠にしてみよう!』を初めて熟読したときのような満足感なんです!!始めの術式を組んでから試行錯誤を試して三日、そこから起動までの見返しで一日、動作テストと改変を繰り返すこと丸二日、魂の定着を確かめるために今日一日!7日間をフルに使ったネクロマンスですよ!!自慢になりますが、私はヘカーテ派としてネクロマンスの発展に一助している立場でもありますから、これはネクロマンサーからしたら、結構な大御所の作品になるんですよ!勿論ッ、そのネームバリューに恥じない出来具合だと自負しておりますから、これはもう何処に出しても恥ずかしくありません!それ以上にですね!特筆してほしいのはこの足なんですよ!本来用いた材料は、魚の死体をベースに、神経毒、月光を三十年当てた純正の牙に、世界樹の残りカスだけなんです!どの材料も魂の定着を強める為だけのものであり、一切変化が強く見られる術式も組んでいないのです!ということは、ですよ!定着した魂から発展したつよい自我が独自の発達をし、いくつもの思考を通過した上で、最も近い生命体から学び、自己に足りていない部分を分析し、魔術を用いて再現したということです!これは素晴らしいですよ!口惜しいことに私の専門ではありませんが、然るべき学派に提出すればネクロマンスの歴史が五十年、いや!百年進んだっておかしくないんです!」
「……シディっち。」
「はい、興味深い話の最中ですがいかがいたしましたか?」
コレがお世辞ではないのだから、世の中は広い。
「ヘカっちのこと、落ち着けられる?」
「僕からもお願い。」
「口惜しいですが、仕方ないでありますね。この興味深い話はヒバナとルーシフェルが揃っている時に聞くとするであります。」
その言葉言い終わると同時に、シディは1枚のカードを握り潰す。
「形態変化→刑死者」
地面から生えた十字架に吊られるようにシディが浮き上がり、時計の針が進むように、シディの頭が下を向く。
「洗い残された原罪。」
シディの様子を習うように、ヘカーテの身体も同じように縛り付けられ、宙吊りにされる。
「やはり今回の研究のポイんもごもご!!ごももごもごももご!!!」
しかしシディよりも拘束が多いヘカーテは、口をベルトで防がれ、血走った眼光も黒布に覆われて消えていった。
「頼んだのはウチらなんだけど……そのぉ、これ、頭に血がのぼっちゃうんじゃないの?」
口をふさぐ程度の拘束だと考えていたが、思っていた何倍も強力な拘束の方法であったため、少し引いてしまった。
「いえ。刑死者の状態で行われる拘束はあくまでも試練でありますから、死ぬことや重傷を負うことはありません。概念的な拘束からの話になりますが、詳しく聞きたいでありますか?」
「……いや、ヒバナさんとルーシフェルの帰りを待とっか。」
自分でも驚くほど、ルーシフェルへの怒りは消え去っていた。




