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ブレイブマン・イレギュラーズ  作者: 尾沖泣栗
18/25

オペレーション・ダミーフィッシャー

技に英語の文法を求めないで、いつもの

「ローディーさん!聞こえてまして!

?」


「っ、はっ、はい!」


つんざく声に余裕はなく、まだ厳しく命を伝える冷たさを持っていた。


「一度撤退し、作戦を練り直しますわ!殿(しんがり)……最後尾はカージェスが、私達はすぐに走りますわよ!」


「最後尾……カージェスさんは囮って事ですか?」


「えぇ!カージェスは死にませんので、それにこれはれっきとした戦術ですわ!倫理は差し置いて」


違う、とそれを遮る。


「……正気ですの?」


「うん。信じてほしい。」


黒の腕が再び空に触れる。まっさら消えた不気味さのあとに残ったのは、意を決した一つの号令。


「《《全員、背を向けたまま退避なさい》》!!」


始めのソレを受けて、不老者は吹き飛んだ。が、次第にとんでくる石はペースを下げ一定の場をすぎるとパタリと止んだ。


「……なるほど。慧眼ですわね、ローディーさん。」


「いっ、いや、情報があっただけです。」


肩で息をしながら、ジェネリアへ答える。かなりの距離を走った気がするが、ジェネリアは息を一つ切らした様子もなくポンと手を打っていた。


「ウェイトだウェイト、俺達にも分かりやすいように説明してくれ。」


「えぇ、勿論。ですがその前にチヨメさんの合流を待ちますわ。よろしいですわね、カージェス。」


「はぁい。仲間はずれはいけないですもんね〜。」


程なくして、青ざめた顔のチヨコが姿を現した。


「見る人数によってかわる?」


「えぇ、私もそれで間違いはないと思いますわ。」


コクリと頷いたのはジェネリアのみで、他は不思議そうに小首を傾げているばかりだった。


「なんでこう考えたのかなんだけど、まず僕たちは最初、小石を投げつけられていたんだ。ほら、逃げるときにチヨメが守ってくれてたでしょ?」


「あぁ、うん。そうだね。けど、ソレっておかしいって話じゃなかったっけ?」


「そう、おかしいんだ。けど想定してたのは別のところでね。」


枝を手にとり、二つの図を描き上げる。一つは木に背中を向けて走る絵と、もう一つは木に向かって立ち向かってい絵。


「端的に言っちゃえば、多分相手の攻撃は全部石の投擲なんだ。」


背を向けて絵には小さな点と矢印を。立ち向かっている絵には大きな丸と矢印を付け加える。


「見えない攻撃も全部石……ってより岩なのかな?カージェスさん、お腹を貫かれたとき《《引っこ抜かれる感覚》》はあった?」


「あぁ!!なるほどぉ……。いえ、ありませんでした〜。」


「そうか!確かに腕なら殴ったあと引かなきゃいけねぇもんな。」


親指と中指をこすり合わせた摩擦からパチンと弾かれた音が鳴る。


「うん。それに動き回るんだから音があってもいいはずなんだ。なのに、徹頭徹尾音がしたのは風切り音だけ。僕達は見えない岩に襲われてたんだと思う。」


「じゃあ、ウチが感じたのって?」


「岩だからね、そりゃあ急所も何もないよ。」


「うわ〜、めっちゃハズいやつじゃん!揺らぎとか言っちゃったじゃんウチ!」


恥ずかしそうに顔を隠すチヨコだが、あの言葉がなければ辿り着かなかったかも知れない。その事実を伝えれば、どこか安心した様子でチヨコはため息をついた。


「岩の投擲ってのはわかったけどよぉ、んじゃ小石ってのはなんなんだ?グレードダウンじゃねぇか?」


「そう、本題はそこなんだよ。」


目をつむり、思い出すのは最初の会合。もっとも会合というには背中を向けただけなので大仰なのだが、その時の事は一旦差し置く。


「最初、小石の投擲に気づいたのはルーシフェルだったよね?」


「ん?あぁ、確かに俺が石だって叫んだ気がするな。それがどうかしたか?」


「その前に僕が上げた悲鳴を覚えてる?」


我ながらなんて情けない言葉なのだろうか。しかし、ルーシフェルはなんてことのない顔で言葉を続ける。


「あぁ、覚えてるも何もローディーの悲鳴で振り返ったんだぜ。したら石が飛んできて叫んじゃまった、ってところだったな。」


「そう、僕は最初に石を投げつけられたのにシフェルと違って気がつけなかったんだ。それは一重に見落としたんじゃなくて、何かを投げられたのはわからないけど何かが飛んできたからって感じでね。」


「わからないって……透明化してたからってこと?」


その言葉にコクリと顎を引いて上げる。


「そう、最初の一投目は透明化していてそこから先はしてなかった。僕はここに理屈があるんじゃないかと思って、考えてみたんだ。」


先ほど書いた二つの絵に再び枝を向ける。


「僕達が魔物と遭遇したのは全部で3回。1回目は逃走のときに、2回目は皆で戦ったとき、そしてジェネリアさん達はその前に1回戦ってるんだったよね。」


「はぁい。まぁ戦いというよりはちょっかいでしたけれどね〜。何度か半透明の魔物に突っかかってみたものの、これと言った戦果は挙げられませんでしたから〜。」


新しく地面に記した絵には身長差のある2人組と卵のような形をした怪物の絵。


「半透明と透明、そして僕達のときは恐らく透明化さえしてなかった。不思議だと思わない?透明化できるならずっとしていた方が遥かに得。そうしないってことはなにか、制限とかタネがあるとしか思えないんだ。」


「ソレが、見てる人数だっていうのか?」


頷き、一度地面に掘った絵をすべて足で消し去る。


「消去法だけどね。一貫して相手の条件は変わってないし、変化が伴ってるのはどれも僕達側の人数によってなんだ。」


卵と、瞳の絵を描く。


「それに、ソッチのほうが合理的だと思うんだ。」


「ごーりてき?」


小首を傾げてるチヨコにジェネリアがそっと補足を入れる。


「透明化って凄い強いけど、近づいたらどうしてもマグレヒットのリスクが生まれちゃうし、音までは隠せない。その点、透明化した石を投げるのはタネがバレても発射地点がわからないから、危険なく相手を倒すことができる。」


「加えて、目視という条件も達成できますわ。石が飛んでくれば否が応でもみてしまいますから。」


良く出来た仕組みだと、カージェスは感心して頷く。


「それじゃあ、倒すとしら目をつぶってやるってこと?」


チヨコの爪先が瞳の絵にバツを引く。


「それが理想策なんだ。どうにも目視は透明化だけじゃなくて投擲の威力にも作用してるっぽいから、活用したいんだけど……。」


「では、下名が目をつぶって火薬でも抱えて走ってきましょうか〜?死ぬ心配はありませんし〜。」


「ハハハッ、おもしれ〜案だな。……冗談だよな?」


最善の案は恐らく使えない。であれば、次善の案が良いがカージェスの特攻はそこにさえ及ばない気がしてならない。


「……2人ですわね。」


「うん。そこが限界だとおもう。」


3人は試していないが、2人で半透明という確定がある以上縋りたい。現状、タダでさえ高いリスクを考慮して妥協するしかないという悲しい本音によるものだ。


「チヨメさんかローディーさん、どちらかには必ず出てほしいですわ。」


「あっ、じゃあ」


「チヨメはケガをしてるし、僕がでるよ。」


同じタイミングで声を上げてしまったため、萎んでいくチヨコの声を踏み上げる形で立候補してしまった。


「私が出ますわ。」


「だいじょ〜ぶですかぁ、御嬢様?下名の抱っこはありませんよぉ?」


「いつも抱きかかえられているような言い方はお辞めになさってくださいまし。ただ美しいだけの御御足ではないことをお教えして差し上げますわ。」


「さぁすがぁ〜、期待しておりますよ〜。」


パチパチとゆったり両手のひらを打ち合わせながら、カージェスはジェネリアを褒め立てる。


「俺達はどうするよ?」


「では、囮役でもやりましょうかぁ。下名は目をつぶって走り回りますので、シフェル様が位置の特定を、チヨメ様は下名のナビゲートをお願いします〜。」


「……うん、まかせて!」


「それでは、カージェスが魔物を釣るのを待ちましょうか。では、いってらっしゃいまし。」


パンパンと細かに手を打ち合わせ、作戦の開始を宣言するジェネリアに、手を伸ばして声をかける。


「まって。」


「おや?どういたしましたぁ、ローディー様。」


囮……釣り、センスはないがこんなところだろうか。


「……オペレーション・海老で鯛を釣る(ダミーフィッシャー)ってところかな。」


「……はい?」


「だははっ、良い名前じゃねぇか!」


土で薄汚れた燕尾服を手で叩いて、なるべく勇ましいポーズをとってみる。そこに続くようにニヒルな笑みを浮かべるルーシフェルと、いたずらっぽく笑うチヨコが加わる。


「オペレーション・ダミーフッシャー、作戦開始だ!」

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