即席共闘
いつもの
「誰ッ!?」
切迫した声を上げるチヨコをよそに、驚きをひそかに飲み込むことしか出来なかった。
「敵じゃないんですぅ〜。驚かせてごめんなさぁい。」
「あんな胡散臭いファーストコンタクトじゃ、疑われて当然でしてよ。」
かなりの枚数の羽を警戒用に飛ばしたというのに、この2人組みはソレに引っかかることなくここまで辿り着いたというのか。
「……僕たちの推測通りってことですか?」
「えぇ。鮮やかでしてよ、そこの御仁。」
腕に抱えられた少女は、かなり華奢で幼く見える。年齢にして12歳ほどだろうか。しかし、その割には洗練された気品と言葉回しがやけに目立つ。
「お名前を伺っても?」
「では下名から〜。下名はカージェスと申しますぅ。この御嬢様にお仕えする、しがない執事でございますよ〜。」
敵意を感じさせない、というかやる気を削がれるような間延びした声音。しかし、そこに相反して流麗な礼を一つ出す。
「私はジェネリア≠ミスティク。一端の没落貴族ですわ。どうぞ以後、お見知りおきを。」
対して没落貴族と出てきたわけだが、やはりその所作は見た目以上に経験や慣れを押し出している。先ず信じないのが吉だろうな。
「んじゃまぁ、こっちも名乗っとくかね。俺が《《シフェル》》で、こっちが《《ローディー》》。そんで、羽生えてるほうが《《チヨメ》》な。ヨロシクゥ!」
代表して手を差し伸ばせば、抱きかかえられた御嬢様が細く小さい手のひらで握り返してくる。
「……道化ですのね。」
「まさか!天使サマですよ。」
「ちょぉ!?」
あんまりの慌てように思わず笑ってしまったが、弁明を目論むローディアスもといローディーの口へ手の甲を向ける。
「プンプン匂わせやがって、隠すつもりもねぇんだろ?」
「はぁい。下手なすれ違いは互いに損ですので〜。」
改めて、一礼。そこに含まれた意味は先ほどとはまるで変わった。
「下名は不老者という素性でございます。端的に言ってしまえばぁ、死なず老いずの身でございます。それなりに有益ですがそれ以上に不便なので、是非労って頂けると幸いです〜。」
「自己紹介でふざけるのはお辞めなさいな。……コホン。私は捕食者ですわ。世間一般での悪評通りの存在ですが、運が良いことに出来た執事がついておりますの。皆様をイタズラに襲うことはないので安心してくださいまし。」
捕食者と来たか。まぁ、ここまで来たらなんでもありなのだろう。自身の身分もさることながら、どこか冷めた目で2人をみてしまう。
「驚かないのですね〜。」
「まぁ、今更3位が出てきてもな。」
「3位?」
その一言に相手方は目を丸めるが、やがて数奇な笑みを浮かべて頭を振る。
「……それにしても天使に捕食者。おほほ、いっそのこと存在者も現われればフルコースですわね。」
「そうなったら下名は食前酒ですかねぇ。贅沢ですねぇ〜。」
「……その場合、ウチってなに?」
そんな異色の博覧会は、比較的穏やかに幕をあけた。
「それで、貴方たちはどうするつもりなのかしら?」
「留まる理由もなくなったんで、逃げたいんですが……。」
もとより留まったのは敵の視察を行うため。しかし、仮想敵を見破った以上戦う理由はない。
「戦うつもりなんですか?ジェネリアさんは。」
「えぇ。というより、私たちはソレが本題でここに足を運びましたの。倒せなければ今月は文無しになってしまいますわ。」
「本題?」
浮かべた疑問を補うよう、間延びした声が差し込まれる。
「皆様は、ギルザリアでの一件をご存知ですかぁ?」
「え!?えぇ、まぁ……はい。」
その一件に振り回されている以上、はっきりと断言してもよかったが、突然の話題で会ったため思わず濁して肯定してしまった。
「下名と御嬢様は、いわゆるその偵察部隊の一つに所属しておりまして〜。お城からの命を受けてここに出向いたのでありますよ〜。」
「なんでもギルザリア周辺でのみ見られる特異な生命体……魔物、と呼ばれる種の討伐に馳せ参じた次第でございますわ。」
身に覚えしかない話だが、そこには確かに知らない情報が多々練り込まれている。
「ギルザリア周辺にしかいない魔物?ってやつが、なんでこんな森にいるんだ?」
「ソレが本題なんですよぉ〜。」
困ったように眉間を押さえるカージェスはため息交じりに言葉を発した。
「当初の研究じゃ、ギルザリア周辺に流れる瘴気がある所にしか生息できなかったはずなんですよぉ。それがどういうわけか、渡り鳥が現れたんです〜。」
「渡り鳥?」
「はぁい。皇国ザレンが設置した観測所から五羽の鳥が見られました。それらは命令を受けたかのように、布告を受けた五国へ着陸。各国の調査部隊はソレらの討伐に向かったんです。」
「って事は、カージェスさん達はフレスタットの調査部隊なんですか?」
それに答えたのは、縦ロールをなびかせる少女。
「いいえ。私たちはレアルタリアの調査部隊ですわ。フレスタットの偵察部隊は丁度レアルタリアで資源を調達していたので、入れ替わりという形で私たちが派遣されましたの。」
「……知らねぇことだらけな。」
当たり前なのだが、戦争だ。刻一刻と変化する情勢に対応出来なければ多くの人が死ぬことになる。だが現状、その一旦を担っている感覚が薄すぎる。
「それはそうですともぉ。これらの情報は極秘扱いですからね〜。この森も封鎖されているはずなのですが……おや?皆様どのようにしてここへ?」
「普通に歩いてです。……多分、タイミングが悪かったみたいです。」
戦争に陰謀はつきものだ。仲間に裏切られ敵に救われるなんてザラにある話だ。
「ともあれ、民間人を巻き込むワケにはいきませんわね。やはり私とカージェスで対応するのが最善策ですわ。」
「……いや、民間人じゃねぇよ。同僚だ。」
「おや?同僚とは……まさか。」
けれど、現状じゃ何もかもが足りなすぎる。リスクを背負ってでも得るべきものは二つ。
「俺達は王都フレスタットが誇る義勇兵の調査部隊。ギルザリアの周辺調査を命じられて、足を探しにこの森に来た。」
一つは、情報網。常に先を見据えなければ、あっさりと切り離されてしぬ。
「まぁ、奇遇ですのね。」
もう一つは、信用。
「乗りかかった船だ、魔物退治引き受けるぜ。なぁ?ローディー?」
「……うん!やろう、るぅ……シフェル、チヨメ!」
信用を得られれば、駒を操る弊害が消える。
「イタズラに自然が荒らされてるのも許せないし、珍しくシフェルっちもやる気だから頑張ろっか!」
後で洗いざらい聞き出してやる。覚悟しとけよ、公僕。
「気持ちは嬉しいのですが、皆様は格闘技術がお有りで?」
品を定めるような目線。そこに含まれるのは、一種の冷めた理性。ある一定以上に達さないものを容赦なく切り捨てる仕事人の瞳。
「ウチは怪我しちゃってて、本領発揮は出来ないけど狩りの知識は凄いよ!ほら、見てこれ!」
「おや〜コチラは凄いですねぇ。一級狩免とは。御嬢様、レアルタリア城内でも見かけぬほどの逸材でございますよ。」
「それほどですのね、その一級とやらは。であれば知識面は本当なのでしょう。よろしくお願いいたしますわ、チヨメさん。」
「うん、がんばろ!」
差し伸べられたきめ細やかな手のひらに、黄色の爪先が触れた。
「俺はぁアシストタイプだな。戦闘力にゃ大きく加担できねぇが、索敵、探知、通信、移動も多少ならサポートできるぜ。」
「通信といいますのは?」
首をかしげるジェネリアの耳元へ、ふわりふわりと抑揚のある動きをした羽が近づき、やがてブルリと震える。
「……よぉ、元気か?」
「っ!?……なるほど、これは素晴らしい技術ですわね。」
「ちなみに、そっちからの声も聞こえるぜ?」
まぁ、と驚いた声がルーシフェルの指先で挟まれた羽からなり、二重奏が小さく響いた。
「これなら、十二分の働きを期待できますわね。よろしくお願いいたしますわ、シフェルさん。」
「おぉ、よろしく。」
上品な手に捕らえどころない手が捕まった。
「……えぇと、僕は。」
ようやっと回ってきた出番、とは行かなかった。どちらかといえば回ってきてしまったと表記するしかない。
「はい、よろしくお願いいたします。ローディーさん。」
「へっ!?」
他2人と違い、アピールポイントなど皆目ない。だからこそ、なんとアピールをしようか悩んでいたのだが。
「まっ、まだアピールしてませんよ?」
「先ほどの推察を聞かせて頂いておりましたわ。とても鮮やかでした。私もカージェスも熱が入りやすい性質ですので、貴方のような俯瞰的に物を見ることが出来る人が必要ですの。」
そんな考えは杞憂だと言わんばかりに、手が差し伸べられる。
「それに、貴方はお二人を率いているのでしょう?私はカージェスとしか行動しませんので、指揮の取り方を勉強させて頂きたいのですわ。」
「率いているだなんてそんな……。僕がお力になれるか分かりませんが、精一杯頑張らせてもらいます!」
伸ばされた手に手を重ねた。
「ッ!?」
「おわっ!?ど、どうしました?」
手を握った途端に顔色を変えて振り払われる。
「いっ、いえ……。申し訳ありません、すこし気を張りすぎていたみたいですわ。」
「御嬢様〜、不躾ですよぉ。」
……まさか、気が付かれたか?




