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ブレイブマン・イレギュラーズ  作者: 尾沖泣栗
12/25

結成

そのうち、やばい

「すまない、待たせた。」


ローブから顔を顕にしたヒバナは、そう口を開いた。


「賭博でえた金は毎月王都へ送られるらしい。一括で用意するのも難しいそうでな、利害の一致ということで特段揉め事もなく終わった。」


少し物足りなさげにため息をついたのは、その盛んするぎる血気の副作用なのだろうか。


「オゥケーイ、助かるぜヒバナ。そんで、手元にゃ幾らのこった?」


「馬車の代金で四十五万ギルグ、それから自由に使える金として三十万ギルグを貰ってきた。」


ヤケに上質な袋を片手で持ち上げるヒバナ。それを両手で受け取ったルーシフェルは中をのぞき満足気に頬を緩める。


「んじゃ、残りは……いくらだ?」


「丁度百五十万ギルグ、月々の返済として換算すると五十カ月分でありますね。」


「五十もあれば返済は考えなくても良さそうですね!!」


その場の人々が思い思いに喜びを綴るなかで、少し気まずそうな顔をしている人物が一人。


「もう怖いもんもねぇし、明日から諸々準備を始めるか。夜も遅いしな!」


「……ぁ。」


微細に開かれた口を救ったのは、ピンと腕を上げた蝋人形。


「いえ、まだミッションは残っているであります。」


「え?ミッション?」


唯一気まずそうな顔をしていたチヨコへ蝋人形は向かい直る。


「まだ美味しいご飯を食べていないであります。」


「ご飯?」


訝しげに眉をひそめたヒバナへ、蝋人形は言葉を綴る。


「はい。チヨコの提案であります。上手く言ったら皆で美味しいご飯を食べようと、是は聞いたでありますが。」


無機質な瞳がチヨコへ向けられれば、少し驚いたような顔をしたチヨコはブンブンと両羽を左右に振る。


「確かに言ったけど……ほら!お金だってあるとは言え無駄に使っていいもんじゃないし、今日は皆、ウチと違って疲れてるだろうし……。」


「いえ、是は疲れることがありません。」


自虐を含んだ言葉は、後ろめたさの現れなのだろう。作戦の変更に伴って、確かにチヨコの出番は少し少なかったように思える。


「それに、お金ならあるであります。」


「え?」


いつぞやか、肘もとまで口に腕をツッコミ、蝋人形は体内から麻袋を一つ取り出す。


「支払い三十万ギルグからのこった十九万ギルグ。そこから十五万ギルグをローディアスが賭け金として、残ったのは四万ギルグ。初め二試合分でローディアスが生み出した勝ち金四万ギルグ。計八万ギルグを全て賭けていたであります。」


開かれた麻袋のなかには、ヒバナが持ち寄ったソレを圧倒する重みを含んでいた。


「八百四十万ギルグ、利益は最大限に出したであります。」


「うそっ!?」


目を剥いて驚いたチヨコが左右を見渡すが、並ぶのはどれも驚愕を顕にした顔つき。どうやら自分一人が仲間はずれにされていたというわけではなさそうだ。


「でっ、でもウチ……唯一の見張りでもヒバナっちの部屋に人が入ったの見逃しちゃってて……。」


「あぁ、ジャスミンというものか。」


納得した様子で頷くヒバナは決してチヨコを擁護する様子を見せずに頷く。


「アヤツは中々の強者よ。試合に出場していなかったばかりに、真価をのぞくことは出来なかったが……恐らくあの闘技場で最も強いだろうな。」


「そのような者がいたとは。」


口惜しそうに頷くヒバナを皮切りに次第に空気が緩んでいく。


「酷いんですよ、ルーシフェルさん。急に通信係やってくれとか。」


「悪かったって、でもほら?いい実況だったろ?」


「ほんとだよ!何処であんな技術を培ってきたの?」


「中々に心が躍る実況でありました。」


皆が反省や思い出を語り合うなかで、ヘカっちが静かにそばにへ寄り添う。


「最初の見張りの報告覚えてますか?」


「えっ?……う、うん。」


「実は私、あの時殺しちゃってたんです。」


「あっ、うん。……知ってるけど。」


「えぇ!?ばっ、バレてたんですか!?」


そりゃあ、あんなのを見せられたら誰だって気がつくだろう。


「私たちの種族って凄く寿命が長いんです。だから皆、一回何かにハマると時間を忘れて没頭しちゃうんですよ。子育ても、変な話ですけど没頭して飽きるまではやるんです。」


「す、凄い習慣だね。」


「私の両親は子育てに飽きるのが早くて、成人する前に別のにハマってどっか行っちゃったんです。だから私も、育てられことに飽きて他のものに没頭することにしたんです。」


どこか寂しい目を空に向けて、ヘカっちは思い出すように言葉を続ける。


「魔術の勉強をしてみたり、他の言語を習得してみたり、宝石を集めてみたり、色々したんですけどなんにも没頭できなくて。理由は分かってるんです。ただ、寂しさを紛らわせたかった。」


「……。」


「結局、ネクロマンスにハマって色々やらかして故郷を出禁になっちゃいましたけどね。……だから、楽しかったんです。」


そんな寂しさを含んだ目が、星空を反射してキラリとひかる。


「こうやって皆で何かをするって、初めてで。」


「ヘカっち……。」


「……ローディアスさん、言ってました。皆が夢中になってるときに、冷静に見てくれる人が必要だって。」


楽しそうに口角を上げて、ヘカっちは笑う。


「私、作戦を成功させたくって必死で悪くない人を殺しちゃう所でした。チヨコさんが止めてくれたから、こうやって笑い話にできてるんです。」


どうしてか、ソレを見てると体が熱を持ってくる。


「チヨコさんが望んでいたわけじゃないかもしれないですけど、皆イザとなったらチヨコさんが知らせてくれるって思ってたから安心してたんだと思います。……私も実はチヨコさんが引っ張って飛んでくれるから平気だって思ってました。」


どうしてか、目頭が熱くなっていく。


「シディさん!」


「はい。なんでありましょうか?」


堪えきれない熱を抱えて、同仕様もなく心が奮える。


「シディさんはもし作戦が失敗したらどうするつもりでしたか?」


「それは手筈通りチヨコに運んでもらう予定でした。というより、ソレしか逃走の手立てはありませんでしたので、空論で終わって良かったであります。」


おべっかを使わない蝋人形はまだ素直にそう述べる。


「それより、ルーシフェルが良い料理屋を知っているそうであります。ヘカーテもチヨコも肉は平気でありますか?」


そんな蝋の言葉の上でコチラは燃えているというのに、興味がないのか気づかないのか蝋人形は淡々と詰め寄ってくる。


「はい!おなか減ったので、たくさん食べましょう!」


「……うん!ウチも飛んでてチョー疲れたし!」


この思いが通じなくとも、今はまだ良い。これから長い旅になるのだから、いつかまた笑い話にして見せよう。


「ありがとね、シディっち。」


「?店を見つけたのはルーシフェルでありますが?」


表情はなくとも、不思議そうに首をかしげる《《シディ》》の姿を見れば案外素直に分かるものだ。


「ねぇ、ヘカっち。」


「はい、なんですか?」


「殺人未遂は笑い話になんないかも。」


「うぐっ、そっ……そうですよね。……」


満天の星空に負けない笑顔。ソレを遠巻きから眺める影があった。


「……以上が、報告となります。」


一等上質な部屋で、闇に溶け込むようなソレは口を開いた。


「チッ!あの腐れ賭博場が!!」


白を基調とした清廉な部屋。床を埋め尽くす赤に濁りはなく、所々を彩るように光る金色は絢爛をありありと強調する。


「なんで無能どもは揃いも揃って賭けに興じるんだよ!!違法なんだぞ!全員で結託して弱点を作るなんて脳味噌が腐り落ちてるんじゃないのか!?大体あの気色の悪い目をした男にッ!どうやったら取り入れられるんだよ!!」


そんな部屋の中で、絹の服を来た若い男は苛立ちを顕に癇癪を起こす。


「クソったれが!階級主義の蜜を吸ってるだけの蛾共に、なんでこの僕がかしずかなきゃいけないんだよ!クソがっ!」


「っぐ!!」


良く出来た椅子を蹴り飛ばし、高価なワインを注いだグラスを投げつけ、挙句黒いソレを拳で殴り飛ばす。


「はぁーはぁー、はぁっー。……僕は出る。片付けておけ。」


「っぐぅ、御意に……。」


壁にもたれ掛かる黒は殴られた腹を押さえながら、乱れた息をそのままに頷いて見せる。その様子を尻目にさえ見ずに、絹の男は部屋をあとにした。


「階級主義の蜜を吸ってる蛾……か。」


男が部屋を去ってから、十分間を置いて黒は腰を上げて呟く。


「んふっ。めっちゃ自己紹介じゃん。ダハハ!」


殴られた痛みなどはなから無い様子で、笑い声を上げながら床に散らばったモノたちを拾い上げて、捨てていく。


「あ〜〜、っぱ金持ちって見てて飽きねぇわ。この仕事に就いてて良かったぁ。」


顔を覆い尽くす布の内側で、心底口を歪めながら黒はポツポツと笑い声を漏らす。


「さてさて、これからどうなることかなぁ。ね、天使サマ?」


ふわりと一枚散った白い羽が虚空で闇に包まれて消えていった。


「ッ……。」


「ん?どうしたの、ルーシフェル?」


山盛りの肉を目の前に、突然ルーシフェルが顔をゆがめた。


「……あっ、あぁいや!なんでもねぇぜ!」


「そう?ならいいけど。」


突然満腹でも感知したのかと思ったが、どうにもそんなことは無さそうで、ルーシフェルは目を輝かせて手前の料理に食いつき始めた。


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