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プロローグ
誰が言った?
「黒い空は、破滅の兆しだ」──なんて。
……ふ。笑わせる。
本当に怖いのは、無言で媚薬入り紅茶を差し出してくるメイドさんのほうだって話。
喧騒から少し外れた、山間の古びた屋敷── 浪夜邸に、今日もカラスの声がどこか間の抜けたリズムで響く。
「アホー……アホ〜……」
秋の夜明け。 東の空は、まだ灰色と薄紅の間で揺れている。 葉を落とし始めた庭の木々が、冷たい風にさわ…さわ…と微かな音を立てていた。
寝起きでくしゃくしゃになった髪のまま、俺は両手をポケットに突っ込み、縁側の柱にもたれながら、空を見上げる。
少しだけ眠たげな瞳で、どこか諦めたような口調で俺は空に向かってぽつりと呟いた。
「なぁ、俺って──そんなにバカに見える?」
筆が乗ったら乗り続けます。