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オレンジボイス 〜底辺声優(♂)ですが、女装して美少女の声を演じています〜  作者: 乙希々


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96/112

嫉妬。

 ──何でよりによってこの二人が一緒にいるのか、まったく意味わかんない、最悪だ。



 ◇


 原宿と言えば竹下通り広場スクエア


 そこはまるで「かわいい」という文化に溢れた異世界だ。


 ひとたび原宿駅を出れば、流行のファッションと甘いスイーツの香りが漂う……って、なんか無性にクレープが食べたくなってきた。


 僕は襟元のワンピースを整え、パステルカラーのベレー帽をかぶり直すと、いつものガニ股に気をつけながら、軽いステップでおしゃれなクレープ屋に飛び込んだ。


 クレープって、いかにも原宿女子って感じだしね。


 それでショーケースの前でメニューを見ながら。


(うーん、結構高いな、これなら牛丼を食ったほうが……いやいや、違うだろ)


 頭をぶんぶん振り、男らしい思考を打ち払う。


 そして、背後の「女子二人」を見て見ぬふり……じゃなくて、見て──


(にしても、なんであいつら、僕にまとわりつくんだ? 今もしれっと店に入ってきたし……未だに二人の組み合わせが──うん、謎すぎる)


 原宿駅の広場で運悪くエンカウントしてしまった東雲綾乃しののめあやのと小倉もも。


 出会ったら最期、ソロプレイヤーにとってゲームオーバー必至の最悪な状況に、僕、神坂登輝あらため橙華とうかは、プールの件など過去のタブーには一切触れず、ひたすらやり過ごす(逃走)道を選んだ。


 ……けど、ちょうどいい機会かもしれない、と思い留まった。


 あの件以来、二人とはずっとギクシャクしたままだし、特に東雲とは、口もきかない、いわゆる絶交、状態にある、らしい。


 だから、ここはお詫びと仲直りを兼ねて。


「ええっと……こ、ここは私がどんどんおごっちゃうから、何でも注文して、ね」

「そう? じゃあお言葉に甘えて。私はレインボークレープをいただこうかしら?」

「て、ではでは、わたわたわたし、も、ももも綾乃センパイと同じものでお願いします! 綾乃さんとお揃い……ぽわあ〜」

「……あ、はは……いい、よ」


(まてまてまてまてまて、レインボーってなにそれ!? )




 それから、ああだこうだと話しながら、三人でクレープ片手に食べ歩いた。


 僕のイチゴクレープ(税抜450円)はともかく、東雲とももちゃんのカラフルでポップなクレープ(レインボークレープ税抜1,800円)は、正直かなり食べにくそう。これもSNS映えに振り切っている弊害(財布にも)か。


 なんて思っていたら案の定、笑顔のももちゃんが、口元をクリームだらけにしている東雲を巻き込んで、楽しそうに自撮りをしていた。


 なんか知らんが、いつの間にか二人が仲良くなったみたいで何より。というか、僕とは撮らないの? え、必要ない? 


 ああそうですか……。


 それで小倉ももさん、いつもの塩対応はいずこに?


 


 その後も三人で。


 買い物をしたり。


 カフェに寄ったりと──、もう、いろいろ嫌なことを忘れて、いっそ楽しくなってきた、


 そんな時だった。


「ねえ、橙華さん」


 ファンシーショップの店先で、ブサカワな謎生物のぬいぐるみを指先でしきりにツンツンしていた東雲が、僕に目もくれず、唐突に口を開く。


「──本当の貴方は、どっちかしら?」

「え?」


 さらに東雲は質問を続ける。


「男性? それとも女性?」


 質問の意図が意味不明。なぜ今さらそんなわかりきったことを訊くんだ。


「……いや、普通に、男、だけど──」


 ふいに東雲が振り返る。その切れ長の瞳は、ひどく冷ややかだった。

 

「そう。だったらはっきり言うわ、橙華さんには佐伯比呂は演じきれない、本当の『彼女』は理解できない。見せかけだけの貴方には、到底無理よ」


 一瞬、何を言われたのかわからなかった。


 いつもの毒舌とは雰囲気がまるで違う。その証拠に東雲の隣にぴったりと貼り付いていたももちゃんが、ビクリと後ずさりする。


 僕は。


 戸惑い、怒り。


 そして──嫉妬。


「……な、なんでだよ、お前に何がわかるっていうんだ」


「そうね、私にも分からないわ」


「だったらなぜ……」


「私は〝女〟よ、でも佐伯比呂さえきひろは……違うわ」


「言ってる意味がわ」


「後は自分で考えなさい、さあ、小倉さん帰るわよ」

「え……、ちょ、ちょっと待ってください!」


 東雲はももちゃんの手を強引に引っ張ると、振り返りもせずに去っていった。


「……一体、なんだって言うんだよ──」

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