初デート?
平日の午前中とはいえ、都心の表参道は大いに活気で溢れていた。カフェやアパレルショップが立ち並び、街道を行き交う人々は皆がオシャレで、これがあらゆる流行の発信地と呼ばれる所以だと思う。
かくいう僕は、人が溢れる原宿駅を下車した辺りから、もう動悸とめまいでふらふらになっていた。上京してもう何年も経つのにこればかりは一向に馴れない。
そんなこんなで今、表参道をキラキラと眩い芸能人オーラを漂わしている東雲と二人で歩いている自分は、もう場違い感がハンパなく、颯爽とした彼女の後をカルガモのヒナの如くついて行くのがやっとだ。
「──で、これから私をどこにエスコートしてくれるのかしら?」
「は? 突然どこと言われても知るかよ。そもそも僕をここ(原宿)に引っ張ってきたのは東雲だろ、だったら──、」
「ちょっと〝ボク〟じゃなくて、〝ワタシ〟と言いなさい。仮にも貴方は女の子でしょう?」
仮にも僕は〝男〟の子です、と今は言い返せれないのが辛い。それとスカートの中がスウスウしてもっと辛い。このパンプスってやつも無駄に履きづらいし、もう何もかもが罰ゲームだ。
「それよりも貴方、もっと背筋を伸ばしてシャンとなさい」
「ちち、ちょっと東雲──」
そう言って東雲は僕の右手をグイッと引っ張り、店先のガラスウインドウの前に無理やり立たせる。
そこには帽子にサングラス姿でもスタイリッシュな東雲と並んで、薄いピンクのワンピースが似合わなくもない、それでいて可愛いとも美人とも言えなくもない、肩口で揃えた黒髪の女子がガラス越しに映し出されていた。
「うん、中々のコーデね。とってもお似合いだわ。私の友人としてはまずまずね」
「それは、どうも……」
そう。あれからの僕は、東雲によって強制的に服を着替えさせられた挙げ句、女装メイクまで完璧に施され──、こうして今に至る。
これが東雲が言う『〝女友達〟と遊びに行く』ということらしいが……それちょっと根本的に間違ってない?
もう何もかもがどうでも良くなって、色々と吹っ切れた僕は、とりあえず東雲に連れられるがまま某有名コーヒーチェーン店に。
そこでコーヒーのサイズ指定を適当な横文字で注文したら、出てきたカップの大きさに戸惑いビックリ。東雲に至ってはレジのお姉さんと何やら一悶着の末にキャラメルなんちゃらのクリームが沢山乗っかった商品を受け取って、サングラス越しでも分かるくらいニコニコ笑みを浮かべてた。多分二人して周りからス◯バ初心者だとバレバレだ。
まあ、自分はともかく、何やかんやで東雲は目立つからな。いい意味でも悪い意味でも……
「ねぇ、彼女たち、暇だったら俺たちと合流しない?」
ほら、来たよ。
店内の二人掛けのテーブル席で東雲と向かい合って座っていると、大学生ぽい二人組のチャラ男が声を掛けてきた。俗に言うナンパって奴だ。
「消えなさい」
流石は東雲。男の僕が出るまでもなく一刀両断である。
「ちょっと冷たくない……お、だったら君は? これから俺たちとハンズでもどう!」
「え? ぼ、僕?」
言った瞬間、東雲にテーブルの下から足を思い切り蹴られた。あ、そういえば〝僕〟じゃなくて〝私〟だった。いかんいかん、すっかり女装してたのを忘れてた。つうか、馴染みすぎだろ。
「ご、ごめんなさい。ぼ、私たちこれから用がありますので」
声をワントーン上げ、得意の声優ボイスにて丁重に断ってみる。
「ドキュン! そ、そう、残念」
「ご、ごめんね。じゃあ俺たち行くから」
おっと、案外すんなり身を引いてくれた。
一応チャラ男らの去り際に営業スマイルを浮かべながら手を振っておく。向こうも満面な笑顔で手を振り返してくれたので、後腐れはなさそうだ。
良くラノベとかのナンパイベントでは結構な確率で揉めるから本当に助かったよ。
「…………貴方、本当はノリノリでやってるでしょ?」
「いえ、滅相もございません」
何だよ。折角ナンパ野郎を追い払ったのに。
「……まぁ、いいわ。次はショッピングに行くわ」
「あ、ちょっとまだ飲みかけ──」
東雲が急に立ち上がるものだから、僕も慌てて後を追う。くそっ、いちいちスカートの裾を気にしないとならんので面倒臭い。
そもそも男の僕がスカートが捲れることを気にする自体間違ってるか。どうせ中身はトランクスだしな。別に見られても平気……じゃねぇよ! それこそ通報案件だ。
今度は東雲とショッピングか……こんな格好じゃなかったら、いっそデートで踏ん切りがついたのに。
つうか、これって別の意味でヤバいのでは?