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オレンジボイス 〜女装してアイドル声優になった結果、周りが地雷だらけで詰んだ件〜  作者: 乙希々


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《続》小倉ももは、決して許さない。⑥(悪寒)

「──ぽわぁあん、ハァ、ハァハァハァハァハァハァ、ハァ、ハァ──」

「え? ええっ? と、橙華とうかちゃん、この子どうしちゃったの? ……だ、大丈夫、これ」


 老若男女で賑わうプールサイド。恍惚と、過呼吸気味に息を荒らげるJKの姿に、天下の大人声優──唯川雫ゆいかわしずくもドン引きだ。


 そして、僕はといえば。


「え? ええっと……あはは、いや、その、ちょっと暑さで中身が沸騰しちゃったみたいで……」

 

 あくまでも気心知れた「同性」の先輩として、まだ東雲の二の腕をすりつきながら、呪詛のような謎言語を喚いている、小倉ももを優しく……いや、やっとの思いで引き剥がし。


「──あ、痛ッ!? ちょ、爪を立てないで……ぁ、む、胸はダメ……。す、すみません唯川さん、向こうで一旦休憩させてきますね!」


 こんな時でも妙に大人しい……というか、完全に魂が幽体離脱している東雲のことは、一旦置いといて、ジタバタ暴れるももちゃんの腕をゼロ距離で引っ張る。成人男性が公共の場でJK(女子高生)の手を無理やり握るなんて、本来なら通報案件だが、今の僕は入念なメイクとウィメンズ水着で大人女子を偽装中。だからオールオッケー……なわけがない。周りからいつ(♂)バレするかヒヤヒヤもんだ。スカートタイプとはいえ……ビキニだし。




 ──てな訳で。


「ぷわぁ〜! ハァハァ……と、橙華さんひどいです! なんで雫様をここに呼んだんですかぁああ!? 絶対あの人、わたしが知らないところで綾乃さんと●●●で▲▲▲なプレイを■■■して、最終的に✖✖✖しちゃってますぅうう!」

「ももも、ももちゃん一旦落ち着こう! というか、公共の場で放送禁止用語の連発するのやめぇ──」


 プールサイドから少し離れたフロアでも、JKの暴走は止まらない。なまじ「隠れ巨◯」の水着美少女が卑猥な単語を喚いているものだから、周囲の野郎どもの視線が熱い。何気に僕にも視線がチラホラ刺さっている気がするが。


「──と、とにかく、ここではなんだから、あっちで話そう、ね?」

「…………ですね、分かりました。そこで橙華さんがどんな「言い逃れ」をなさるのか……ええ、じっくりと伺いましょう」


 ……この前髪パッツン娘、スイッチが入るとマジで目が笑ってなくて怖い。



 ◇


「──ええ、わかっていますとも。橙華さんは《《元カレ》》である剣崎翔(宇佐美)さんとの愛を再燃させたいんですよね? そのための、ダブルデートですか? はい、理解しました。綾乃さんと雫様の相思相愛ラブラブデートにあやかり、剣崎さんとの復縁のチャンスを……。なるほど。最初からわたしだけが蚊帳の外だったわけですね。ええ、納得しました」

「一人で勝手に納得しないでくれる!? 宇佐美の野郎が元カレとか、その他諸々全部違うし!」


 巨乳JKと二人、水着姿のままで静かな場所へ……というのは、倫理的にも物理的にも危ういため、無難にフードコートの隅を陣取った。冷たい飲み物を挟んでの話し合い──という名の糾弾タイム。


 そういえば、あの三人(悪役令嬢、チャラ男、腐女子)をプールに残したままだが、皆大人だ。変な化学反応を起こして核融合したりしない……よな?


「……つうか、そもそも東雲は唯川さんの《《妹》》だから」

「…………ぇ、いもうと? そそ、そうなんですか? 雫様は綾乃さんのお姉様……初耳です。では、ではでは、わたしの、お義姉様……ぁ、どうしよう、わたし……ほわぁ〜」

「いや、それは違うから」


 残念ながら、今の日本では、女性同士の結婚は認められていない。


 ……でもまぁ、妄想自体は個人の自由だし、解釈は人それぞれだから、勝手に脳内で親族関係を築けばいい。一応これで万事解決。


「ではでは、次の課題は橙華さんと剣崎さんの復縁についてですね! ええ、任せてください。この小倉もも、命に代えてもお二人の仲を──」

「取り持たなくていいからね!?」


 男同士の恋愛も自分にとってバグゲー──てか、もう色々とめんどくさい、このままバックれてもいいですか?


「──ええっと、気を取り直してさ、これからのことを考えよう。そもそも、ももちゃんの目的は綾ちゃん(東雲)との親交(恋愛的に)を深めることだよね?」

「ですね。最優先事項です」

「だ、だったら──」


 なんとか話を軌道修正しようと、勢いよくテーブルに身を乗り出した、その時。


 ゾクリ、と──全身に凄まじい悪寒が走った。


 フードコートの喧騒が、急速に遠のいていき、スーッと音もなく僕の背後に立つ影が。


「ちょっと……面を、貸しなさい」


 まるで、ラストダンジョンの深淵から響くような声。そっと僕の肩に置かれたのは、冷たく、しなやかな指先だった。


(……あ、これ詰んだわ──)

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