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オレンジボイス 〜女装してアイドル声優になった結果、周りが地雷だらけで詰んだ件〜  作者: 乙希々


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《続》小倉ももは、決して許さない。④(マーメイド)

「……これは、一体どういうことかしら?」


 ──東京駅、無数の人々が交錯する改札内広場。


 シアー素材の黒トップスから覗く肌がちょぴり叡智な東雲綾乃の深淵ボイス……もとい、澄み渡るような清楚ボイスが、今は冷徹な響き帯びて周囲を圧迫する。


「い、いや、え、ええええっと……こ、ここれは、そのぉ……」


 僕──神坂登輝(女装なし)は、いつの間にか合流していた現役JK(女子高生)声優、小倉ももと共に、剣崎翔──もとい宇佐美健太の筋肉質な背中へ隠れるように身を寄せ、「毒(宇佐美)をもって毒(東雲)を制す」──そんな自分の作戦がいかに愚策だったか、今このカオスな状況が残酷に証明、思い知る。


「──さあ、橙華さん、どういうことか今すぐ説明なさい」

「そ、それは……ええっと、その、あ、いや、今は橙華じゃなくて、かみさ」

「ねえ《《橙華》》(呼び捨て)、私たちは、友だち、よね?」

「──ぁ、いや……はい」


 ツン(デレはない)な女友達をプールに誘ったらヤン(デレはない)だった件。


 ……というかこれ、どう切り抜けば正解なんだ?


「神坂、ここは俺に任せて先に行け」


 その時、脳内ギャルゲライブラリのあらゆるルート選択を検索していた僕の耳に、宇佐美の低く力強い2.5次元の芝居がかったイケボイスが届いた。


「──ふっ、心配するな、すぐに後を追う。この俺が、女一人に遅れを取るわけないだろ?」


 振り向きざまに繰り広げられる、無駄に眩しいイケメンスマイルとキレキレの2.5次元的ポージング。


 正直、心配なんて一ミリもしていないが、そろそろ死亡フラグが回収される頃合いか、こいつ。


「あ、ああ、じゃ、じゃあ! 現地集合ってことで……さ、ももちゃん、先に行こう!」

「え? ええっ!? ななな、なんなんですかぁー! いきなり引っ張らないでください──!」


 事態を全く飲み込めていないJKの手を(通報覚悟で)強引に掴み、僕はホームへと猛ダッシュを開始する。


 背後からは「逃さないわ」「おっと、ここから先は通さないぜ!」「ふふ、いい度胸ね、悪い子にはお仕置きが必要かしら」なんて、どこぞの深夜アニメのようなやり取りが聞こえてきたが……今は振り返らない。


 宇佐美……お前の尊い犠牲は、決して無駄にしないから──



 ◇


 ──ということで。


 急遽ももちゃんと二人、京王線に揺られてやってきたのは、都内屈指の大型レジャープール施設。


「──おお、遊園地のプールと言っても結構広いんだな〜」


 カラッとした青空の下、ウォータースライダーから上げる歓声と水しぶきをバックに、広背筋が眩しい宇佐美(生きてた)が感嘆の声を漏らす。なぜ、競泳用水着ブーメラン


「ふっ、所詮は子供だましね。この私を満足させる域には達していないわ」

 

 そこに例のごとく、胸元のフリルが特徴的なビキニ姿の東雲(推定Aマイナス)が強引に割り込んでくる。意外と花柄が似合わないこともない。


(……つうかこいつら、しれっと合流してきやがった。いっそあのまま相打ちでも良かったのだが……。あ、それだと本来の目的が──)


「あ、綾乃さんの水着姿……ぽわぁん♡」


 すると、先程まで超不機嫌モードだったJK──小倉ももが一転。正統派美少女らしからぬ変質者顔でぽわんぽわんし始めた。ギンガムチェック柄の水着ワンピースもぽわんぽわん揺れてる(推定Dプラス)。その圧倒的な質量の前では、東雲のフリルが心なしか、寂しく震えて見えたのは、僕の気のせいだろうか。


 ……待てよ。これでもう、本日のミッション(ももだって綾乃さん(東雲)の生水着姿が見たいです、ぽわぁ〜)が達成されたのでは?


(だったら、もう自分はお役御免ってことで、さっさとこの場から退散──できるわけ、ないよな……)


 ちなみに今の僕は、ハーフタイプのメンズ水着……ではなく、特別に(ネット通販で)用意した《《ウィ》》メンズ水着を着用している。(※多目的トイレで必死に着替えました)


 普段のジミ顔は、これまで培ったメイク技術で魔改造済み。前髪もかわいくヘアピンで留め、日焼け対策もばっちり。


 よし、これなら美男(宇佐美)美女(東雲)美少女(JK)の中に混じっても見劣りしない……はず。貧相な身体(ノー筋肉)でも、女装の魔法で誤魔化せている、はずだ!

 

 うははは……、


(……じゃねーよ!? わざわざ自分から女子の水着を着てどうするんだ、バカなの!?)


「ふふふ……橙華さん、とても似合っているわ、ビ、キ、ニ」

「う……」


 一応ビキニといっても、露出は極限まで抑えた──つもりだった。だが、東雲の深淵を覗くような生々しい視線が、僕の薄い布地をじりじりと焼き払う。


「神坂……いや、橙華ちゃん、グッジョブ!」

「なんでだよ!? てか、声がデカいって、周りに素性がバレ──」

「あ、その辺は大丈夫です。基本わたしたち、アニオタ以外には「ただの騒がしい美少女集団(と、暑苦しいイケメン)」にしか見えませんから、まさに知名度の低さゆえの完全勝利ですね」

「……ももちゃん、それフォローになってないから」


 まあ確かに、アニオタは基本インドアだし(※個人の偏見です)。


「あ、それだと声優じゃない宇佐美は──」

「ああそれな、俺は基本、プライベートは包み隠さずウェルカム的な?」


 あ、そうなんだ。


 だからSNSでもあんな大ぴらに橙華推しを公言して……、


「って、じゃなくて! どさくさに紛れて肩を組むな、普通にセクハ──」


 ──と、その時だ。


 僕の思考を強制終了させる「声」が響いた。


「さあみんな〜、場所取りができたよ〜!」


 張りのある艷やかな、それでいて聞き覚えがある「ヒロインボイス」に、背筋が凍りつく。


 視線の先、そこには、グラビアアイドル顔負けの大胆なツーピース水着を纏い、ツインテールに束ねた黒髪をピョコピョコ揺らす──水色マーメイド。


 ……あれ、なんでここに東雲の《《お姉さん》》が居るの、かな?

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