《続》小倉ももは、決して許さない。①(激おこ)
週末、とある回転寿司チェーン──
「──あ、橙華さん、お醤油お願いします」
「ぁ、はい……」
テーブルを挟んで向かい合う、夏服に衣替えした赤いスカーフと白セーラー服姿がとっても清楚なJK(女子高生)は、一皿500円(税抜)の大トロ皿を躊躇なく回転レーンから引ったくるなり、パキンと割り箸を割った。
対し、例により青少年保護条例対策として文系女子大生に偽装した僕(ベレー帽とファッションメガネで顔バレ対策済み)は、レーンに流れてくる中トロ皿に一旦手を伸ばしかけたが、財布事情により泣く泣くスルーし、一皿110円のサーモンで妥協しつつも、ここに来てからずっとご機嫌斜めなJK、小倉もも(本名不詳)の顔色をただただ窺っているところだ。
「ぁ、あの……」
「もぐもぐ(数量限定本マグロを咀嚼)」
「え、ええっと、それで……今日はボク、私に一体何の用かな、先週もファミレスで会ったばかり──」
「もぐもぐ(続けて北海道産ホタテを咀嚼)」
なるほど。無視ですか、そうですか……。
「あの、そのぉ……ええっと……ももちゃん──」
どん!
「ひっ!」
突然、前のめりになって湯呑みをテーブルに叩きつけるももちゃんに思わず悲鳴。さらにその顔が目と鼻の先までぐいっと……この前髪ぱっつんJK怖すぎ。
「わたし、怒っています。激おこです!」
妹系ボイス──「激おこです!(CV小倉もも)」を頂き……じゃなくて、
「な、ななななんで?」
と言っても、たぶん東雲絡み。しかるに先日の撮影──南知多半島の件、だと思われる。
「──え、ええっと……そそその、も、もしかして、綾ちゃん(東雲)と撮影で行った海のことだったりする? だ、だったらあれは、その」
「えっ……、撮影? 海?」
ってあれ、もしかして自分、墓穴を掘った?
「……ぁ、あ、あの、今のは無し、ひっ、い、いや、だ、だからね、撮影って言ってもさ、ちょ、ちょっと海でワチャワチャするぐらいだったし」
「綾乃さんと二人で海でイチャイチャ……」
「い、いや、〝イチャイチャ〟じゃなくて〝ワチャワチャ〟ここ大事だから! 砂浜で水着になって、はしゃぐ程度で」
「み、みみ水着ですか!? あ、綾乃さんの尊い水着姿……ぽわあ〜、じゃないですっ、橙華さん! 綾乃さんと海って、一体どういうことですか! ここで洗いざらい話してください、さあ今すぐっ!」
「うっ……」
ビシッと顔面に右の人差し指を突き出され、自然と言葉が詰まる。万事休すか?
(う、でもよくよく考えてみれば、自分は何も悪くないし、ちょっと仕事の撮影で海に行っただけだし……って、思い出したぁああ! 桃色水着お尻どアップショット──いやいやいやいや、流石にアレは誌面的にNG……だよな?)
ある意味、あれらグラビア写真は僕にとって最悪の災いをもたらす特級呪物になりかねないので、その辺りは早急に柏木(敬称略)に確認するとして、とにかく今は目の前でハァハァ息遣いが荒いJKについてだ。
このまま店内の中で騒げば、店員から警察を呼ばれかねない。そうなると色々とヤバい。成人した男が性別詐称して未成年女子と会っている時点で間違いなく不審者認定。身バレした時点で声優人生どころか、人生そのものが詰みかねん。
だからここは慌てず騒がず、お茶をズズッと啜り、
「も、ももちゃん、気持ちも分かるけれど、一旦落ち着かない? ほらお寿司がどんどん流れてくるよ、この玉子なんかふわふわしてて凄く美味しそうじゃない、ね!」
表面上だけは、仲の良い姉妹を演じ、優しい朗らかな姉らしい面立ちで、駄々っ子の妹──ももちゃんを優しくなだめた。
「そうですね、わたし、少々熱くなっていたかも知れません」
すると、どういう訳か、急にしおらしくなった彼女は、ちょこんと姿勢正しく椅子に座り直し。
「──橙華《《お姉様》》」
「お、オネエサマ?」
(えー、何故ここでお姉様呼び!? いや、いちおうももちゃんの姉を演じてたけど、でもどうせだったら……お兄様、とか、お兄ちゃん♡ でお願いしま──)
「──わたし、わたしだって、綾乃さんと海に行きたいです!」
「え?」




