水着イベント。③《サマードリーム》
──そう。それはまるで、夏の夢の出来事だった。
「いやだ〜、綾ちゃんたらもう……、ほ〜らそーれ、バシャバシャ、お返し!」
彼女の細い肩に掛かるその艷やかな黒髪は、海辺のさざ波にサラサラとなびいて、燦燦とした太陽の日差しの中、キラキラと夏の海へと溶け込む。
「嗚呼……ホント、海の水が冷たくて気持ちいいね〜、綾ちゃん」
真っ白なワンピースから覗く色素の薄い白い肌はとても繊細で、僕がちょっとでも触れてしまえば、夏の陽炎みたいに儚くとも消え去ってしまいそうだ。
そして──そのとき、彼女は涼し気な氷のような瞳を細め、真っ直ぐ僕に向かって微笑み。
それはゾッとするほど、艶やかで──。
「──ふふ、さあ、覚悟を決めなさい、貴方の初めては、私のもの、くくく……」
「へっ……? 初めてって、何が……ちょ、ちょちょちょ、綾ちゃ──ま、まて、東雲ぇえ、ひっ、ひゃあっ!?」
ブチュぅううううう〜。
パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ(カメラのシャッター音)──
それこそ、夏の悪夢だった……つうか、ホント夢であってくれ。
「──は、は〜い、オッケーです! ここでちょっと休憩を挟みまーす」
撮影スポットである海辺の砂浜で、とある体勢で硬直している僕と東雲をしれっとそのままにし、和気あいあいと撮影スタッフたちが動き出す。
「あ、あのぉ……東雲パイセン、そ、そろそろ離れてくんない?」
未だ僕の肩にガッチリと両手を回してしがみついている件の東雲に懇願してみる。
「………」
だが……、
「お、おいこらっ! いい加減にし」
「ぷふぁあ〜、何かしら?」
「な、何かしらじゃねぇよ、軽くほっぺを合わせる程度だったじゃん、それを──」
そうなのだ。
撮影側からのリクエストは、若手人気女性アイドル声優である、東雲綾子こと東雲綾乃、そして僕、神坂登輝もとい橙華の両名が、お揃いの清楚なレース生地の白ワンピース姿で南知多半島の砂浜でワチャワチャし、最後に二人で頬を寄せ合う……。
とまぁ、よくある女性アイドル同士の仲良しスナップの撮影だった訳だけど、それなのに東雲の奴、最初こそは大人しく撮影に応じていたけど、それが何を血迷ったのか、いきなりの接吻(キス)だ。
それも思い切り……。
といっても、ほっぺに〝ぶ〟チューだけど……それでも、恋愛耐性が皆無の自分にとってはそれこそ未知なる領域であり、
(──って、だいたい、こいつは、どんな気持ちでキスを……)
とか思いながら、いつになく隣のビーチチェアに座る東雲の横顔を伺ってみても。
「──ぁ……、の、のの飲み物が冷えてないわね、そこのスタッフ、至急新しいのをいただけるかしら?」
全然気にした様子もなく、だからこっちもこれ以上この話題には触れずにいこうと思う。自分だけが妙に意識してもアホみたいだし、周りからしてみれば、良くある女性同士の悪ふざけ──それともソフト百合?
(──はは……んなことはないよな。それこそ片方が(♂)だったら、そもそも百合は成立するわけ……ん、いや、今の自分(橙華)だったら、普通にアリなのか?)
「ちょ、こ、こっちをじっと見ないでくれるかしら」
いかん。チラッとだけ見てたつもりだけど、ついついガン見してた……って、もしや後になって恥ずかしくなってる、とか?
「──ええ……。たとえ女同士でも一線を越えるべきではないわ……ううん、そうね、そうだわ、くくフフ……」
「ぇ、ええっと……」
「せいぜい、禁断の恋に足掻くとするわ」
東雲が邪悪な笑みを浮かべながら、なんか一人でぶつぶつ言っている。全く意味わかんない。
──と、何やかんやでトラブルこそあれど、全くどの層に需要があるのか分からない僕と東雲のグラビア撮影はまだまだ続くみたいで、
「では撮影を再開しま〜す」
との号令が掛かった。
午前中だけの撮影ということだったので、スケジュール的には次で最後かと思われる。さてと……先ほどのパプニング(キス)は忘れて、とっとと気持ちを切り替えよう。
とは言うものの、いま着ている清楚ワンピースといえば、さっきの撮影時に海水で濡れて上半身が少々透け透け状態。元々、中身が見えても良いようにと、見え下着というか、インナーにキャミソールみたいのを着せられているので、たぶんそれを狙ってのことだろうが……。
(……まあ、水着を着せられるよりか、幾分マシか──、)
「──ええ、それでは今から水着撮影になりま〜す! 早速二人には向こうで準備を──」
(え……?)




