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オレンジボイス 〜底辺声優(♂)ですが、女装して美少女の声を演じています〜  作者: 乙希々


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水着イベント。①《イントロダクション》

『──今日、ショッピングに付き合いなさい』


 早朝六時前。スマホの着信で叩き起こされたかと思えば、開口一番これだった。


 朝っぱらからはた迷惑な奴だ、と心のなかでぼやきつつも応対する。


「……あの東雲センパイ、今日は暇なん? 前に、来期はたくさんレギュラーがあって忙しすぎるの〜オホホ、とか言ってなかったっけ? ええっと……たしか『勇者パーティーを追放された俺は(以下タイトル割愛)』の女魔法使い役」


『ええ、初回の収録で、ざまぁされたわ』


「え、そうなの? じゃあ『聖女と呼ばれた私は敵国の(以下同文)』の公爵令嬢カテリーナは」


『そうね。二話目の収録で、ざまぁされたわ』


「ご、ごめん……あ、そういえば『負けヒロインだった私、闇落ちして魔法少女に進化したので、これから勝ちヒロインたちを排除しようと思います』の真光寺麗華しんこうじれいか──あ、ヤバっ」


『ざまぁ、されたわ、前髪パッツン娘(小倉もも)にね、ふフフ……』


「……ええっと……その、なんだ……なんか、すみません──」




 ──そんなわけで。


 なぜか僕のスケジュールを完璧に把握している某東雲嬢には「今日は仕事で忙しくてさ!」なんて言い訳が通じるはずもなく──だからやって来た……というか、半ば強制的に連行された有名ファッションデパート、原宿ラフォなんちゃら店。


 ここに来るのは三回目だが、僕にとってろくな思い出がない。まさに鬼門的な?


「──橙華とうかさん、さっきからブツブツうるさいわ。さっさとこっちに来なさい」

「あ、ハイ……」


(それもこれもすべて東雲が元凶だからな。今日こそは普通にショッピングを堪能──)




「──って、いきなり婦人水着売り場に突撃する!? 僕には敷居が高……」

「もういいから黙りなさい。この時期に女がこの店に来る理由の大半はここなの、これだから引きこもりの陰キャはダメね」

「そそ、それこそ陽キャの都合をこっちに押し付けんな……」


 ──よと、ここぞとばかり反論して気づいた。


 周りの、水着選びを堪能している女性たちの視線が、じーっと自分に向けられているのを。


 ちなみに今の僕は、喉仏のどぼとけを隠したハイネックの半袖ブラウスに黄緑色のマーメイドキャミワンピース姿(by東雲コーデ)。ゆるふわにカールさせたショートヘア(地毛)にナチュラルメイクもバッチリ……っていうか、女装姿。つまり周りから見れば、レディース水着コーナーでギャンギャン騒いでいる変な──オンナ扱い。


 今さらながら、普通の女性客を装い、適当に目に付いた水着を服の上から当ててごまかす。


「──ね、ねぇねぇ綾ちゃん。こ、これなんか、私に合うかな?」

「そうね、それだとアンダーラインの手入れは念入りにしないとダメね、後、色合いも地味顔の橙華さんにはイマイチだわ、どうせならこっちになさい。これならその平たい顔と平たい胸をカバーできるわ」

「うっせぇよ!」


 平たい顔はともかく、胸に関してはお前とそうは変わらんわ──とは、辛うじて口にしなかった。マジで流血沙汰になりかねないし。


「──ところで、声優雑誌グラビアの件……マジでやるの?」


 手に持っていた際どい紐ビキニをそっとハンガーに戻しながら、どこかのセレブ令嬢のごとくサングラス越しに展示された水着をじっくりと品定めしている東雲に訊いてみた。


「まあそうね。いち女性声優として、やるしかないわね」

「おお〜、意外とプロ意識が高い」

「この機会に私の美貌を世間に知らしめるのも悪くないわ……ふフふ」


 ちょっとだけ感心したけど、やはり東雲は東雲だった。


 そんな矢先。

 

「あら、これなんていいわね」

「あ、ああ、結構良いじゃん、胸元のフリルで断崖絶壁を上手くカバーでき、る…………ぁ」


 とき既に遅し──。

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