姉妹……。
──『悪役令嬢に転生した私は、いつしか敵国の王子に見初められました……』オープニングパート
メイド(B)『──さあ、フィーナお嬢様、どうぞこちらに!』
フィーナ『お待ちなさい! 賊がもうそこまで迫っているのです。ここは私、フィーナ=フォン=アルフレッドが名乗りを上げましょう。せめて貴女達だけでも屋敷からお逃げなさ──、』
メイド(C)『お嬢様、何を仰るのですか! 私たち侍女は、何があろうとお嬢様をお守りするのが務めでございます。さあ二階のバルコニーへお急ぎください、そこからロープを──』
メイド(B)『──エル(メイドA)、あなたが殿を努めなさい。フィーナお嬢様を何としてでもお守りするのです!」
メイド(A)『は、はひっ! か、かしこまりました!』
王国解放軍(A)『──ええい! 何をやってるこっちだ、侯爵家全員皆殺しにせよ!』
フィーナ『ぁぁ──』
メイド(B)『──お、お嬢様早く、もう時間がございません!』
フィーナ『わかったわ……さあ、貴女達、行くわよ!』
メイド(A)、(B)、(C)
『『『はい、お嬢様!』』』
王国解放軍(B)『──おいっ、居たぞっ、こっちだあ!』
メイド(A)『──ふ、フィーナお嬢様はこのエルがお守りしますぅう!』
王国解放軍(C)『──ん、何だこの女っ、邪魔だあぁあ!』
メイド(A)『ひっ……きゃあぁああああああァァッ!』
フィーナ『エ、エル!?』
メイド(B)『──お嬢様、後ろを振り向いてはなりません! 早くこちらへ!』
フィーナ『で、でも、エルが……エルがあぁああ──』
メイド(C)『さあ、お急ぎになって! エルの忠義を決して無駄にしてはなりません──』
『──はーい、テストOkです〜、これより本番行きまーす』
ジメジメとした五月雨が滴る都心のスタジオに於いて、来期放送予定アニメ『悪役令嬢に転生した私は──(以下略)』第一話のアフレコ収録が行われていた。
もはや声優のお仕事で、フルメイクを施し、ロングヘアのウイッグを被り、白ニットにロングスカートといった女装スタイルがデフォになりつつある僕こと橙華は、絶賛、自分が演じる役──メイド(A)のアフレコに励んでいる真っ最中だ。
とはいうものの、いざ収録が始まった冒頭部分で、僕が演じるメイド(A)は疎か、メイド(B)(C)は、それぞれ順番に主でもあるフィーナお嬢様を守るべくして……。
……うん、自分が演じていたキャラが舞台上から退場するのは、実質このアフレコが初めてかもしれない。
まぁ、この物語自体は、ループ(時間遡行)系なので、後々この子たちは全員助かるんだけど、それでも……、な。
ってことで、取りあえず一話オープニングで自分の収録は大方録り終えたので、今はもっぱらマイクの前から離れ、ぼんやりと他の声優たちの熱演を眺めている。
(……つうか、フィーナ役、お芝居のレベルが高すぎじゃね? 台詞の間に入るブレス(吐息)なんてもう神がかってる──)
と、ちょっと呆けた感じの僕を挟んで両隣に座っているのは、名もなきメイド隊を演じてた若手女性声優の二人。
たしかそれぞれ、湊かなで、結城春菜と自己紹介してたっけ? 二人ともタイプは違えど結構かわいい──うん、推しだな、とか、思ってるうちに。
「──あのぉ、これからガヤ録り(台本なしの喧騒)するみたいですよ?」
「たしか橙華さん……でしたっけ? 早く行かないと」
「お、おおお……あ、あ、そそ、そうですね、ついつい気が緩んじゃって──」
いきなり艶々なアニメボイスに囲まれて、思い切りしどろもどろしてしまう。
ってか、声優やってて本気で良かった……。
そして二人はさっさと皆が集まっているマイクの前に移動。
(──って、ヤバっ……)
慌てて僕は、ウイッグの前髪を整えつつ、他の声優陣と一緒にマイクの前に並び、ふと自分のスカート姿を見やる。
今さらだけど、ついつい周りの視線が気になって仕方ない。初めての現場となれば自然とこうなってしまう。
特に彼女の──。
みたいな感じで、意図せず見入ってしまうのは、今まさにすぐ隣にいる小柄で華奢な人物の横顔。
たぶん20代半ばぐらい、ゆるふわなセミロングヘアとガーリな膝丈ワンピース姿がとっても似合う大人の女性だ。今は薄い桃色ルージュで彩った口元をむにゃむにゃしながら、発声練習に余念がない。
「……ぇ、あ、後もうちょっとだから、お互い頑張ろう、ね」
「──は、はい、ありがとうございます……」
そんな主人公フィーナ=フォン=アルフレッド演じる彼女──唯川雫さんと目線が絡み合って、そのとき唯川さんはアフレコ時の凛々しさとは違う、おっとりとした口調でハニカミ微笑んだ。
繊細で、どこか儚げな雰囲気が漂う彼女は。
あの、東雲の姉──唯川雫さんと東雲綾乃は実の姉妹……
だったり、する。




