遊園地デート。②
──お化け屋敷。
古今東西、数あるラブコメの定番ネタ……というか、攻略ヒロインの好感度イベントにおける遊園地デートのお化け屋敷とは、極めて優秀なギミックの役割を果たしていると言っても過言ではないだろう。
特に作中のヒロインが、ツンデレ属性、または気高いお嬢様気質であるほど、高確率で主人公に抱きついてくる等のドキドキイベントが発生するのが、まさにテンプレ中のテンプレだったりする。
……のだが。
「──ふん、どれもイマイチだわ。まぁ、所詮は二流の仕事ね」
「──この明かりはLEDかしら? まるでセンスの欠片も感じられないわ」
「──ねえ貴方、それで私を怖がらせてるつもりかしら? もう一度、最初からやり直しなさい。そうね。次は目の前で内臓をぶちまけるぐらいの根性を見せて頂きたいわ。さあ早く行きなさい」
「幽霊役のお姉さんにカスハラ(カスタマイズハラスメント)はやめてあげてっ!」
西洋風と和風ホラーをごっちゃ混ぜにしたようなおどろおどろしい通路を、まるで怯むでもなく率先して前を進んでいく東雲綾乃、もとい東雲綾子(本名)。
たぶんコイツには〝ギャップ萌え〟という概念は存在しない。
ていうか、一人でいちいちビクついてる僕がホント馬鹿みたいじゃん。先ほどあっさり東雲に撃退された白いワンピースのお姉さんも十分怖かったし。
「うわっ!」
って、早速、天井から降りてきたデカい日本人形に思い切り仰け反ってしまった。危なくスカートの中身がどえらいことに、
「うおっ!」
さらに壁のアンティーク鏡から伸びてきた無数の白い手に、見た目こそ地味な文学女子大生風を装っているのも忘れて、素のまま驚きふためき──。
「あ……、」
あろうことか僕は、前を歩く東雲に全身全霊で背後から抱きついてしまった。いちおう秒で離れはしたが時すでに遅し。
「…………」
で、薄暗い通路の中心でゆっくりとした動作で振り向き、だらりと前かがみで長い黒髪ストレートを垂らす東雲。そのへんの幽霊なんかよりガチで怖い。
「っ!」
反射的に僕はファィティングポーズ。しかし当の東雲嬢は小刻みに両肩を揺らすだけで言葉のひとつすら発しない。正直、顔面ビンタ(往復)ぐらい覚悟していたのだが。
「……ええと、あ、あの、東雲センパイ、今のは、その、不可抗力というか……何ていうか、その……ごめん、本当に」
「…………ふふ、ふふふふふ」
「?」
……あれ、何でコイツ笑って──。
「おい、東雲、」
「ふふ、ふふふフふふフフフふふふフ──」
ヤバっ。
つうか東雲の奴、マジでお化け屋敷の地縛霊とかに呪われたかも……。ええっと、エクソシスト的な感じ? これから首が180度回転したりしないよな?
「──って、ち、ちょっと大丈夫か? と、とりあえず、ここのスタッフを呼んで、そ、それから──、」
「うふふ……大丈夫よ。そうね、もうすぐ中間地点だわ。さ、さあ、とっとと行くわよ」
「……へ? お、おいコラッ、ちょちょ、ちょっと待てっ、」
ときに東雲は、幽霊さながらの薄ら笑みを浮かべたまま、呆気にとられていた僕の掌に指を絡めての恋人繋ぎでグイグイと引っ張り、途中の仕掛けやら血糊のお化けやらにも一切びくともせず、薄暗いお化け屋敷の通路を強引に突き進む。
その間、僕の意識は半ば放心状態。まるで乙女ゲーの主人公の如く、漢らしい東雲綾乃に恋焦がれるヒロインと化していた……って、もしかして自分が地味娘ヒロインとして攻略されてね?
──で、その後、何事もなかったかのようにお化け屋敷を後にした僕と東雲は、どんよりとした曇り空の下、あくまでも仲の良い女性同士と偽ってテーマパークをぶらぶら歩いていた。
そろそろ本格的に雲行きが怪しくなってきたな、とか思いながら広場で空を仰いでると、
「──小腹が空いたわ。ねぇ橙華さん、五分だけ待ってあげるから、直ちにフードコートで何か買ってきなさい。そうね。私は焼きそばを所望するわ」
例によって東雲お嬢様が、まるで息を吐くように無茶振りをする。あの行列を見やがれ! と声を大にして言いたい。
「何さりげなく、人をパシリに、」
「胸」
「ムネ?」
「そう、さっき思い切り胸を掴まれたわ。だから貴方は今後私には逆らえないの。分かっていて?」
何を無茶苦茶な……。
「んな、あの時は流石に胸まで触ってないって……あ、あのどら焼き──、」
「ん……ドラヤキ? 何のことかしら?」
「い、いや、何でもない……う、うん、じゃ、じゃあ早速、何か買ってくるから、た、たしか焼きそばだったよね!」
「え、ええ、そうね。急いでお願いするわ……ん?」
首を傾げる東雲をよそに、僕はスカートをパタパタはためかせ広場を駆け抜ける。
今後も東雲に使役させられる自分の未来に絶望しながら──。




