遊園地デート。①
◇
──かくして、あれから悪役令嬢縛りのアニメスタジオオーディションを立て続けに受けるという、売れっ子声優さながらのスケジュールを成し遂げた僕であったが、例によって〝男〟性声優の神坂登輝ではなく、〝女装〟アイドル声優、橙華として参加したオーディションの結果はもう散々で、ただ単に周りから好奇な目で見られただけ……。
というか、お芝居どころかスタッフの印象すら最悪。手応えが皆無。
あれはもう根こそぎ落ちたわ……たぶん。
そして世間では、ゴールデンウィークがもう間近に迫った四月の週末。
穏やかな初夏を匂わす春の陽気……とは甚だしい、ジメジメとした曇り空の下、トップスはクリーム色の春物タートルネック(通販で購入)に、下はベージュ色のマキシ丈スカート(姉のお古)を惜しげもなく着こなしている僕は、今頃になって羞恥心にひしひしと苛まれながらも、とある有名なテーマパークの正面ゲート前で、親子連れや学生グループに紛れ、ひとりポツンと突っ立っていた。
未だ待ち人現れず。
これでもいちおう、SNS界隈でマニアックな声優ファン層に顔バレしていると思われるので、これまた通販で別途購入した変装用のレディースニット帽を深く被り直し、あとついでにメイクの出来具合を百均のコンパクト鏡でこそこそチェックしながら時間を費やしていると、ここでやっと待ち人来たる……というか、こんな陽キャの掃き溜めみたいな場所(個人の意見です)に人を呼びつけといて、堂々と遅刻してきた人物──ファッションサングラス姿の東雲綾乃が、何食わぬ顔で黒のタイトミニを揺らしこちらにやってくる。
「待ったかしら?」
「うん、すご〜く待ったけど?」
「そう、なら光栄に思うことね」
「何でだよ!?」
こんな会話、前にもあったような? とか、ちょっとした既視感を感じつつも、もはやこれ以上の押し問答は、体力的にもメンタル的にも無理だと判断し、未だ横暴な態度を崩さない東雲に僕を呼び出した本当の理由を問いただしてみる。
「──べ、別に、理由も何もないわ」
「へ……? だったらどうして」
「ただ《《偶然》》に知り合いから貰った遊園地のチケットが《《たまたま》》二枚余っていただけよ。だから感謝なさい。今日は特別にお供を許可するわ」
はい、現実でツンデレ台詞(CV東雲綾乃)をいただきました。
(……ん? となると僕は、ただ単に東雲から遊園地に誘われた、ってことなんじゃ……。あれ、だったら普通に男の格好で良くね?)
というように、わざわざ僕に女装コーデを強要したその真意を尋ねてみると。
「……は? 私みたいな超絶美人がむさい男と遊園地デート? 冗談キツいわ、笑わせないでくれるかしら」
「はあ? じゃああれか、このままメイクさえ落とせば、これ以上お前に付き合う義理はないってことだな?」
と、その理不尽な物言いに対し、若干キレ気味の僕だったが。
「ほ、ほら、いつまでもいじけてないで、さっさと中に入るわよ」
「っておい──、」
珍しく焦った様子の東雲が伸ばす、そのひんやりとした掌にガッチリ右手を掴まれてしまう。
てか、もう一体なんなのコイツは……。
(……ん、でも、やっぱ女子の手って、小さくて柔らかい──と思わなくもない)
◇
「──んで、これからどうする? とりあえず天気悪いし、雨が降る前に絶叫コースターから乗って、」
「貴方バカなの? オツムがスカスカのアンポンタンさんかしら? その頭に被ってるウィッグが帽子ごとふっ飛んでも知らな……、ぷっ、そ、そうね、賛成だわ。今すぐにでも乗りましょう」
「乗らねぇよ!」
とまあ、正面ゲートで一悶着が有りつつも、結果的にポップなBGMが流れるテーマパークの場内を東雲と二人で回っていたりする。
とはいえ、とてもじゃないが仲睦まじいカップルには見えないだろう……。てか、そもそも周りから仲の悪い女同士に見えるだろうし。
ときに東雲お嬢様は、いつの間に買ったのやら、練乳ソフトクリームをチロチロと頬張っていたりする。表情筋が緩みまくってのアホ顔。つうか僕の分は?
「ボソボソ……」
「へっ、今なんて?」
「お化け屋敷に行ってみたい……わ」
「……お、お化け屋敷──」
と、全然似合ってもいないネコ耳カチューシャを頭につけての呟きに対し。
「ふーん、私はここで待ってるから一人で行ってくれば」と、あえて冷たく突き放してみる。
「貴方も来るのよ!」
「ぐぇっ」
で結局、何故かキレ気味の東雲に首根っこを掴まれた僕は、ズルズルとお化け屋敷方面へと引きづられていった。
っていうか、お化けとか幽霊とか、そういうのホント苦手だから、ちょっと勘弁して欲しい……。




