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オレンジボイス 〜底辺声優(♂)ですが、女装して美少女の声を演じています〜  作者: 乙希々


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【閑話】桃色の彼方へ。

〜SideView Momo〜


 ◇



「──えっと、大蔵さん、オレと放課後どこか遊びに行かな、」

「いえ、お断りします」



 学校の廊下、喧騒が漂う放課後の教室前。


 パッツン前髪の黒髪ショートボブ、高校二年生女子、大蔵桃香おおくらももかは、表情筋を一つ動かさず、陽気に声を掛けてきた男子生徒の横を素通りする。女子受けしそうなイケメン君だったが、彼女の視界に入ることすらない。


 セーラー服のプリーツスカートをひらひらと揺らしながら、周囲の好奇な視線も気に留めず、スタスタと歩いていく。


 彼女にとって、男子という存在は、決して恋愛対象に成り得ないのだ。



 ◇


 制服姿のまま電車を乗り継ぎ、スマホの地図を確認しながら、急ぎ目的地である某スタジオビルに向かう。


 スクールカバンの中の台本を確認し、恐る恐るビルの自動ドアを潜る。今日は来期アニメ『負けヒロインだった私、闇落ちして魔法少女に進化したので、これから勝ちヒロインたちを排除しようと思います』の初収録。


 そう、大蔵桃香は学生ながらも声優として活動していた。


 芸歴1年目の新人アイドル声優。


 今日も学校帰り仕事に訪れている。


 桃香は初めて来る慣れないスタジオビルの廊下をキョロキョロしながら進む。


「あふぅ……」


 そのとき突如、神々しくも禍々《まがまが》しいオーラを感じ、ため息を漏らす。


 薄暗い廊下の向こうから、カツカツとヒールを鳴らし歩いてくるのは、ワインレッドの英国風お嬢様ワンピースを華麗に着こなす美女──東雲綾乃しののめあやの。しばらくボォーっと見惚れてしまう。


「──ぽわぁあ……っ、綾乃さん、またご一緒できて、も、ももは感激です!」

「え、えぇ……。そそ、そうね。せ、せいぜい大根演技で私の足を引っ張らないでいただきたい、わ」


 近寄らないでオーラを放つ綾乃に、子犬のようにハアハアと擦り寄っていく桃香。綾乃は口角をヒクヒクとゆがませながら、じりじりと後退する。吐いた毒も弱々しく響いた。


「……ハァハァ、綾乃さん、待ってください!」


 そして綾乃は早々に桃香のもとから立ち去ってしまう。


 その華麗なる後ろ姿を名残惜しく見送った後、桃香は、はかなくも愛しい綾乃の残り香をじっくり堪能し、まるで何事もなかったかのように、再び暗い廊下を歩き出した。


(……えーと、収録ブースはどこですか、困りました)


 不安になって一旦立ち止まり、辺りをキョロキョロしていると。


「──こっちよ、さっさと来なさい。全くなんてどんくさい子かしら?」

「あ……、は、はい!」


 廊下の向こう側で壁に寄りかかり、心底面倒くさそうに綾乃が手招きをしていた。


 

 ◇


 収録が終わってから外に出ると、辺りはすっかり真っ暗になっていた。


 都内とはいえ、スタジオビル周辺は人通りも少なく、店が立ち並ぶ繁華街と違って、建物の明かりや街灯も仄暗ほのぐらい。だから桃香は、怖々ながらも急ぎ足で最寄りの駅方面に向かおうとする。


「ちょっと待ちなさい」


 するとその時、背後から聴こえてきた、凛々《りり》しくも透明感溢れる声で呼び止められる。


 この美しい女神のような風の調べは紛れもなく、ついさっきまでわたしが演じた美樹谷みきやあおいと殺し合い……、いえ、白熱した空中魔法バトルを繰り広げた挙句、最後は葵のキラキラレボリューションマックスビームで、夜空の彼方に吹っ飛んでいった、けど、今後はラブラブな百合展開を向かえる……かもしれない、真行寺麗華しんこうじれいかお姉様を熱演していた東雲綾乃センパイの美声! ──と、桃香は慌てて振り返った。


「あ……」


 果たしてそこには、両腕を組み、何故かそっぽを向いた綾乃の姿が。


「──ぜ、ぜひ一度貴方の演技について、物申したいことがあるわ。こ、この後、駅までご一緒できないかしら?」

「はい、喜んで!」


 そんな彼女に向かって、大蔵桃香こと現役女子高生アイドル声優、小倉ももは、とびっきりの笑顔を浮かべた。

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