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オレンジボイス 〜女装してアイドル声優になった結果、周りが地雷だらけで詰んだ件〜  作者: 乙希々


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危険なサイン会。①

「──ええっと……それってつまり、僕が一人で出るってことですか?」

「ええ。スケジュールの関係上、神坂かみさか君しか空きがありませんので。それに来るお客様もきっと喜んでくれますよ?」

「……うーん、そうかなぁ──」


 というような、仕事の打ち合わせというか、柏木マネージャーの口車にまんまと乗せられた昨日の今日。


 本日はアニメ『ヴァルキリーレコード』のBlu-ray BOXと原作最新刊の同時発売日。


 僕は早朝から、その販促イベントのために池袋の大型アニメショップを訪れていた。


 もちろん、〝女性〟アイドル声優の橙華とうかとして。



「──橙華ちゃん、俺ずっとファンです! これからも頑張ってくださいっ!」


「わ〜、ありがとう♡ これからも応援してね! ……カキカキ」


「──押忍っ、アニメ見ましたっ! 自分、その声に惚れ込みました! 一生ついていくっス!」


「えー、嬉しいな。……あ、Blu-rayBOX(豪華特典付き税込み33,000円)のお買い上げを感謝……えっ、シックスパック(腹直筋)にサイン? 流石にそれはちょっと……ん、どうしても? も〜、しょうがないな……。カキカキカキ(うげぇ……我慢だ、耐えろ自分──)」


 そんなわけで、『人気アイドル声優、橙華とうか来店記念サイン会』というポップなポスター(盛りまくった女装写真は出所不明)を背に、僕は開店からひたすらマジックを走らせていた。


 アニメの人気もさることながら、新人アイドル声優、橙華のサイン会も意外と盛況だ。今まで底辺声優だった身としては嬉しい……が、同時に心境は複雑だ。


 何よりもこんな距離でのファンサは、女装バレのリスクが跳ね上がる。まさに危険度マックス。ここらで一度、メイクを再チェックするべきか……。


 そんな危惧をよそに、開始一時間もすればサインを待つ行列もすっかり落ち着き、今では限りなくゼロとなった。


 うん、所詮はこんなもんだ。いくらアニメでメインヒロインを演じたとはいえ、橙華の知名度はまだ無いに等しい。


 ってことで、一気に手持ち無沙汰になり、黒髪ウイッグの毛先を指でくるくるともてあそんでいると。


「……これは、いけませんね」


 背後で見守っていた屈強な女性スタッフさんが、何やら低く呟いた……かと思えば、その淡白な美人顔をグイと至近距離に寄せ。


「橙華さん」

「は、はい?」

「ちょっと、今すぐこちらへ」

「え? え? あの、ちょっと──っ!」


 強引に腕を引かれ、有無も言わさず連行された先は、従業員通路の奥にある狭い個室。殺風景な室内で、大きな姿見の鏡だけが僕の全身を怪しく照らしていた。


「ここで少々お待ち下さい」

「えっと、……ぁ、はい……」


 女性とはいえ、ゲストの警備を担うだけあるスタッフさんの凄まじい眼力に、僕は反射的に直立不動で頷いてしまう……って、こんな窓もない監禁部屋みたいな場所に放置されても困るんだが。


 と、内心でツッコミを入れる間もなく、彼女はすぐに戻ってきた。


 ぎゅうぎゅうの紙袋と一緒に、《《日本刀》》らしきブツを小脇に抱えて……。


 ──っ、イベント失敗の責任で僕は斬首刑? はは、そんなアホな。


 そして、元アスリート然として彼女は、退路を塞ぐかのように勢いよく扉を閉めから、無機質に僕を見据えた。


「橙華さんには、今からこちらが用意した衣装に着替えてもらいます」

「……へ、衣装?」

「では、早速お願いします」


 無造作に突き出されたのは、まさかの女子の制服フルセット(ニーソックス含む)。


「……あのぉ、これを私が着るんですか?」

「はい。今すぐに」

「ええっと……その、流石にこれは事務所的にアウトかと……」


 セーラーブラウスとプリーツスカート、ついでに真っ赤なスカーフ──いわゆるセーラー服を前に、僕は即座に拒絶。事務所NGという最強の盾で抵抗を試みる。


「いえ、契約書には『コスプレ可』と記されています。何か問題でも?」

「(マジかよ!?)……そ、そうなんですか?」

「ええ。なんなら今ここで書類を確認しますか?」

「ぁ……いえ、大丈夫、です……」


(──くそっ、あの腹黒メガネ……後で絶対◯す)


「……。橙華さん、もしや着方がわからないのでしたら、この私がお手伝いしますが」


 未だ着替えを躊躇ちゅうちょする僕に対し、女性スタッフさんの苛立ちが混じる。……というか、この様子だと、彼女は僕を女装した男、だなんて、たぶん気づいていない。


「い、いえ、一人で大丈夫です」

「なら急いでください。イベントの時間も限られてますから」


 彼女は最後に、脇に抱えていた刀の精巧なレプリカを乱暴に手渡すと、一礼して部屋から出ていった。


 日本刀。それは僕が演じていたヒロイン──八城雛月の象徴的なアイテム。


(……つまり、御託はいいから、さっさと雛月のコスプレをしろ、ってことか)


 再現度が高い抜身の刀を構えてみた。意外と重い。


(……ま、まぁ、これも仕事のうちだよな。今さらだし。私服の女子大生から、セーラー服の女子高生にチェンジするだけだし──)


 言い聞かせ、渋々と着ていたハイネックセーターを脱ぎ捨てる。フレアースカートのファスナを下ろし、足元に落とした。


(──って、スカート短っ!? つうか、男物のトランクスに黒のニーソックス……シュール感がハンパなくね?)

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