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小倉ももは揺るがない。②

「──モグモグ、それで、橙華とうかさん、実はわたし、こう見えても男の子なんです」

「…………はい?」


 某マクド◯ルド店内の片隅、二人テーブル席にて、僕の正面に座る白ギャル──現役女子高生兼、若手アイドル声優のホープ、小倉ももがLサイズポテトを頬張ほおばりながら言った。


「あの……橙華さん聞いてます?」

「……へ? あ、ごめんごめん、店内がうるさくて良く聞こえなかったかも……だからもう一度言ってもらえる、かな?」

「はい、わかりました」


 うん、今のはきっと僕の聞き間違いだ。こんな重度なカミングアウト、何気ない世間話の最中に言うわけないもんな。しかも学校帰りの学生やサボりのサラリーマンのおっさんがわんさかいるマッ◯の店内でさ、


「わたしは、男、なんです」

「ブホッ! 熱っ、ゲホ、ゲホ、ゲホッ──」


 今度こそ飲んでいたホットコーヒーでむせてしまう。しかもちょっとヘラを火傷した。口元をハンカチで押さえながら、ここぞとばかりに彼女と向き合い、


「──ゲホッホッ、ええ、ええっと……その、ももちゃんの相談事……って、そのことだったりする?」


 言いながらも僕の目線は意図せずももちゃんの初々しい上半身に……フェミニンなデザインの派手なニットから僅かながらも女性特有の膨らみが二つ強調されている。ちなみに僕の胸部は加工無しの真っ平らだ。まぁ、中身は男だから当然といえば当然だけど。


(うーん、どこをどう見ても、女の子にしか見えない、それも正統派美少女……身体つきも細身で柔らかそうだし──)


 そして、何よりも肩がゴツくない。


 僕も男としては肩幅がまるっきり狭いし、いわゆる撫肩だけど、少なくとも今のももちゃんよりかはガッチリしている。それに胸は詰め物とかで何とか誤魔化せるけど、男特有のゴツゴツした骨格だけはどうしようもないしな。まさか骨を削るわけにもいかないし……


「……あのぉー、橙華さん、一体どこを見てるんですか?」


 う、マズい……あからさまに彼女の胸ばっかりをマジマジと見てしまっていた。これじゃ傍から見れば痴漢もとい痴女だ。


「……まあ、でも、橙華さんだったら別にいいか」

「え……いいんだ?」

「ええ、別に構いませんよ、どうぞ」


 と言って、僕に向けて上半身をツンと張る、アイドル声優の小倉もも……こ、これは、流石にヤバいだろ、どこの叡智なラブコメだよ……つうか、それってもしや偽物、だったりする?


「……で、話の続きなんだけどね……ももちゃんが言う〝男の子〟って、そのまんまの意味、でいいんだよね?」

「はい、そうですね」

「つまり、それって……元の性別自体が男ってこと?」


 密かに店内の様子を伺いながらも、やんわりとももちゃんに問いてみる。表情は限りなく真顔で。女装メイクで加工した顔で真顔っていうのも変だけど。


 ちなみに彼女は、僕こと、声優の橙華が性別を偽った〝男〟だということを知っている……つうか、この衝撃なる事実は他の出演声優を含めて、ゔぁるれこアニメ制作関係者各所に周知されていたりする。これってコンプライアンス的には如何なものかと思うが……って、それよりも女子高生アイドル声優の小倉ももの正体が自分と同じ……いや、まさかの男の娘!?


「いえ、違いますけど」

「へ……違うの? でもさっきは──、」

「身体は見ての通りの女ですけど、中身は違いますね。心は男、ということです」

「はて?」


 頭の中がクエスチョンマークで埋め尽くされた。


 一体どういうことだ? 


〝身体は女〟で〝心は男〟とは? もしや今話題のTSって奴? ももちゃんの前世は男で、この令和の時代では女の子として転生して──と、それは流石にちょっと飛躍してるか……


「そうですね……い、今の橙華さんと属性が被ります……ふわあ」

「属性? どういうこと……、」


 あれ……ももちゃんの様子が──、


「そ、その通りの意味です。ハァハァ、わたしの心は男の子なんです。だから女の子が好きで好きで仕方が無いんです。本当はこんなギャルコーデなんてしたくないんです。ハァハァ、でで、でも、かわいいギャルとは仲良くしたいじゃないですか……この格好だったら自然と仲良くなれると思うんです。いつだって自分を偽らず正々堂々と女装してる橙華さんだったら、この気持ちを分かってくれますよね? ね? ね?」

「え? え? え?」


 分かる、って何が? つうか、ももちゃんちょっと落ち着いて話そう、


「だって、橙華さんも男なのに心は女の子でしょう? 恋愛対象も〝女〟より〝男〟なんだから、きっとわたしの気持ちを理解してくれると思って……」

「は?」


 って……、何言ってるのこの娘は?


 普通に違いますけど……僕は〝女〟子が好きなんですけど……普通にかわいい〝女〟子と極めて真っ当な恋愛を希望しますけど!?


 そして気付けば、周りの客たちが僕らが座るテーブルを注視していた。中には面白がってこちらにスマホを向けてるやからもいる。


 だから僕は、今も尚、黒髪ボブカットを振り乱し、肩でハァハァと息をしている見た目は白ギャル、中身は自称(♂)の小倉ももの手を無理やり引っ張って、慌ててこの場から逃げ出した……。

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