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小倉ももは揺るがない。①

『──〝ゔぁるれこ〟公式チャンネルをご覧の皆さん、こんにちはー、声優の橙華とうかです!』


『こんにちは。声優の東雲綾乃です』


『早くも3回目を向かえた当番組では、絶賛放送中のアニメ〝ヴァルキリーレコード〟の魅力を〝八城雛月やしろひなづき〟役の私と、〝水口穂香みなぐちほのか〟役の綾ちゃんと二人で、ゆるいトークを交えながら語っていく番組です。どうか最後までゆっくり楽しんでくださいね!』


『そうね。こんな低予算なチンケな番組のどこに需要があるかは置いといて、今後の私のためにも、是非最後まで視聴することをお勧めするわ』


『ハハハ……、綾ちゃんもそう言ってることだし、みんなも良かったら番組の高評価、フォローをお願いしますね』


『ところで綾ちゃん知ってる? 今回は特別に素敵なゲストを呼んでるの』


『貴方は何を勿体もったいぶってるのかしら? さっさとそこの隅っこでスタンバっている若いだけが取り柄の前髪パッツン娘を呼べばいいじゃない』


『ハハ、で、では早速お呼びしちゃいますね。〝片瀬愛美かたせまなみ〟役の小倉ももちゃんです。パチパチ──』


『ええと……みなさん、始めまして、小倉ももです。今日はよろしくお願いします……』


『はぁい、こんにちはー、あれ〜、ももちゃんこの番組初めてだから緊張してるのかな?』


『は、はい! 今日は憧れのセンパイ方と番組で一杯お話しが出来ると聞いて、本当に嬉しいです』


『ありがとう〜、そういえばももちゃんは現役の高校生なんだよね。ももちゃんって収録でも真面目で一生懸命だし、学校でもきっと模範的で優等生なんじゃないかな? ねぇ、綾ちゃんもそう思わない?』


『それは……どうだかわからないわ』


『えー、まさかの否定?』


『東雲センパイ……ヒドいです』


『ええと、ではでは、今までの〝ゔぁるれこ〟を振り返ってのトークコーナーです。早速過去の話をダイジェストで見ていきましょう。それではVTRスタート!』




 ◇


 突発的な姉さんとのお泊り会(東雲は逃げた)は色々と大変……というか、阿鼻叫喚あびきょうかんだった。


 というのも、もう僕のありとあらゆる秘め事は、容姿端麗頭脳明晰ようしたんれいずのうめいせきな姉さんの拷問、いや尋問によってすべてが明らかにされた挙げ句、押し入れの中に隠し持っていたコスメやア◯ゾンで買い揃えた服やらの女装道具を一斉家宅捜索で暴かれ、自称ファッションリーダーである姉の厳しい指導のもと、さらなる女体化をほどこされたあの悪夢から数日が過ぎたある日。


 その日の夕方、今やっているアニメの収録時以外もっぱらスケジュールがガラ空きな僕は、原宿駅前にある公園のベンチで一人、とある人物と待ち合わせていた。


「こんにちは、〝橙華〟さん、待たせちゃいましたか?」

「ええっと……誰? あ、い、いや、〝私〟もたった今来たところだから……」


 で、モコモコの帽子にマフラー、そしてファッションメガネ姿の今の自分は、白のハーフコート(姉のお古)、淡い色合いのトップス(これまた姉のお古)、ロングスカート(姉の……以下同文)からして、一見何処かの文化系女子に見えるかも知れないが、公然の場で、それも白昼堂々と女装姿をお披露目している何かと訳ありな男だったりする。


「橙華さん、今日は本当に来てくれて感激です!」


 そして、待ち合わせ時間の午後4時ぴったしに現れたふわりとしたショートボブな彼女──到着するや否や僕が腰を下ろすベンチの隣にピタッと寄り添って座り、チェック柄のミニスカートから伸びる厚底ブーツを揺らし、素朴だった二重瞼を濃いめのアイシャドウとつけまつ毛で鮮やかに彩り、両耳たぶにキラキラピアスの〝小倉もも〟ちゃんは、収録時とまるで印象が異なる……っていうか、まるっきりのギャルだった。


「そ、それじゃあ、とりあえずどっかに移動しますか」

「はい」


 見た目こそは女子高生ギャル(白)そのものだが、言葉づかいは、いつもの礼儀正しいももちゃんなので一安心だ……けど、僕が知る彼女とは、まるで別人だ、よな?


「ええっと……ももちゃん、いつもと何だか雰囲気が違うよね。もしかして顔バレを恐れての変装だったりする?」


 公園を出て、スクランブル交差点を彼女と一緒に並んで渡りながら、何気に聞いてみた。


「ですね……最初のきっかけは、たぶんそうだったかも知れません──」


 あまり歯切れがよい口調ではなかったけど、それで納得した。今の彼女だったら、たとえここですれ違うのが根っからのアニオタだったとしても、まさかアイドル声優の小倉もも、とは気づかないだろうな。


「こんな派手な格好……普段の地味なわたしじゃあ、似合いません、よね?」

「え? と、とても似合ってるよ?」

「本当に?」


 交差点を渡りきったところでとびっきりの笑顔を見せるももちゃん。その無垢な笑顔を見て僕は不覚にもドギマギとしてしまう。


(──いかんいかん、今日の僕は、ただ単に後輩声優の悩み相談役に過ぎないんだぞ)


 本日、僕がももちゃんと待ち合わせていたのは、今朝方突然、彼女からのライ◯で相談事を持ちかけられ、それで急遽きゅうきょ会うことになって、それでも成人の男性が、たとえ同じ仕事仲間とはいえ、流石に現役女子高生と二人きりで会うのも色々とマズいので、あえて今回は特別に女の格好(姉のコーデ)で参上したという訳だ。


 設定上、仲の良い姉妹的な?



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