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オレンジボイス 〜底辺声優(♂)ですが、女装して美少女の声を演じています〜  作者: 乙希々


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小倉もも、ホラー映画を語る。

『──なあ、サマンサ。夜の湖でキャンプなんて最高のシチュエーションだろ? いかにも「出る」って感じでさ』

『もう、フレディったら悪趣味よ! 私は早くシャワーを浴びたいの。ねえ、何だか寒いわ、早くロッジに戻りましょう?』

『Hahaha! 怖がらせすぎたか? だったら今すぐ服を脱がして温めないとな……ん? なんだ……? 誰だお前、そこに立って……おい、ジョークだろ? ま、待て、やめろ、来るな! ぎゃあああああ!』


 ──以下、自主規制。





「──て、てか、実際グロかったよな、夢に出るわ、あんなの……」

「そうですね。ただ、ゴア描写に関しては、やはり80年代のオリジナル版に軍配が上がります。特に首の断面、少しばかりポリゴンの粗さが目立ちますね。所詮はCGに頼った現代リメイクの限界、といったところでしょうか」

「ぁ、ああ、そうなんだ、じ、実は自分も、そこ気になってたりなんかして」

「というか、橙華さん。口調が完全に男ですよ?」




 あ、ヤバっ……ということで、夏が終わりを告げ、一見、穏やかな昼下がり。


 今の僕、底辺声優(♂)こと神坂登輝は、とある後輩声優(♀)とデートの真っ最中……では断じてなく、社会人の秩序を厳守した上で、この前髪パッツン娘──現役JK(女子高生)アイドル声優こと小倉ももと禁断のランデブー……じゃなかった、あくまでも業務上の付き合いの一環として、有名コーヒーチェーン店で映画鑑賞後のティータイム中だ。


 そう、だから何もやましくない。たとえ今の自分が、完璧なベースメイクを施し、清楚の極みともいえる膝丈お嬢様ワンピース(アマ◯ンで購入)に身を包み、隙のない秋物コーデを体現していたとしてもだ、これは同業のアイドル声優としての正装コスチュームに過ぎない。コンプライアンス的にも問題ないはずだ。とはいえ、生足は失敗した。ストッキングは物理(防寒)的にも精神メンタル的にも必須アイテムかもしれない。肝に銘じておこう。


「──ですから、ホラーの真髄は、ジャンプスケアではなくて、カメラワークに宿る、監督の拘りを読み解くことにあるんです。たとえば往年の巨匠──」

「あ、あはは……だよね、あ、そうそう! 今日って一体何の用かな? ボク……じゃなかった私、これから大事な収録を控えてて、そろそろ行かないと」

「……ですね。でも私の知る限り、橙華さんのスケジュールは一日フリーのハズですが?」

「え? あ、はい、そうだった! ちなみにそれ、誰情報?」

「柏木さんです」

「そ、そうか、柏木マネージャーからか、あはは……(くそ、あの腹黒メガネ、今度会ったら絶対◯す)」


 もはや、こうなったら腹を括るしかない。


 僕は意を決し、スカートのお尻を整え、隣の席で騒ぐ女子高生グループの動向にも気を配りつつ、正面でトッピングてんこ盛りのフラペチーノをアイドル声優らしからぬ能面で突っついている、ギンガムチェックのミニがあざとかわいい小倉もも──ももちゃんと改めて向き合った。


「──橙華さんっ!」


 突如、その黒目がちな大きな二重がカッと見開かれ、「ひっ!」と反射的に身を屈めた。


 せっかくのドリップコーヒー(ショートサイズ380円税込)をテーブルに献上しかけるが、そこはギリギリ回避。あの某悪役令嬢の深淵に比べれば……大丈夫、女子高生の目力なんて、どうってことはない。うん、怖くない、怖くないから。


「……い、いきなりどうしたの、かな? かな?」


 ついうっかり、本業の声優(佐伯比呂)ボイスで発した問いに、某有名鉈ヒロインを連想してしまったので、さり気なく目線だけを窓の外に逸らしつつ、至近距離で竜宮レ……じゃなくて女子高生ムーブに対抗するべく、こちらはあくまでも大人女子(偽装)の対応を試みる。


「今日は、橙華さんにお願いがあります」

「お願い?」

「はい」


 ももちゃんは、いつになく真剣──というか、瞬き一つしない。そのヤンデレヒロインちっくな目と台詞が全く釣り合っていないことは一旦置いといて、その彼女が言う「お願い」とやらについて聞いてみることに。


「──実はですね、私、ストーカー被害に遭っていまして」

「え、ストーカー? ももちゃん、それはちょっとアウトじゃない。で、どこに監禁しているの? 今すぐ相手を解放してあげないと」

「橙華さん、話を聞いてます? 被害者は私です」

「あ、すみません」


 反省。つい、日頃の行いから、加害者側からの自白だと決めつけてしまいました。


「話は戻しますが、その子は私の熱狂的なファンだそうです。しかも同じ学校の子で、だから本当に困っています……あの、橙華さん聞いてます?」

「い、いやだな、今親身になって聞いてるよ、あはは……」


 今すぐその子に、君が崇拝しているのはキラキラしたアイドル声優じゃなくて、中身は腹黒な生粋のサイコパスだと伝えてやりたい、とは口が裂けても言えない。


「だから私、その子に言ったんです。今本気でお付き合いしている人がいるから、と」


 ああ、なるほど。だいたい読めてきた。


 ずばり、ももちゃんのお願いとは、僕(※今は自称綺麗なお姉さん)に恋人のフリをしてその陰キャ(※個人の見解です)を撃退してくれ、という感じかな。ふっ、何をいまさら。ラブコメでの定番ネタだ。


 僕は優雅にコーヒーを一口啜って。


「だいたい状況はわかったかな、あとは私に任せて」


 後々めんどくさいことになりそうだけど、しかも青少年保護育成条例的にも問題になりそうだけど、ももちゃんの頼みは基本、絶対回避不可だ。どうせ断れないのなら、手っ取り早く片付けるのが得策……、


「え、本当ですか? 橙華さん、その娘を何とかしてくれるんですか?」

「うん、ドンと任せ………へ? その《《娘》》? そいつってまさか女の子なの?」

「はい、私今言いましたよね、「その娘」って」


 んなバカな、普通は男だろ!? なんなのその百合天国は!


 ん、でもまあ、今さらそんなことは些細な問題だ。とにかく僕がももちゃんの彼氏役として、男でも女でも説得すればいいだけ。ただそれだけのこと……


「では、早速、綾乃さんに連絡してください」

「……って、あ、綾乃?」


 ちょっと今、全身にゾワゾワって悪寒が……つうか、脊髄を冷たい指でなぞられたような気がしなくも、ない。


「な、なんで今、東雲の名前が……」

「なんでって……今、橙華さん言いましたよね? 「綾乃さんを私の恋人役として連れてくる」って」


 は?


「てか、そんなこと一言も言ってないからね!?」


 あ、また悪寒が……。

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