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オレンジボイス 〜底辺声優(♂)ですが、女装して美少女の声を演じています〜  作者: 乙希々


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終末アオハル 最終章③

『……はい、オッケーです。お疲れ様でした。ここで一旦休憩を入れます』


 天井スピーカーから無機質な声が響く。その声が脳裏に届いた瞬間、僕はぐちゃぐちゃに握りしめた台本ごとマイクの前で石像と化していた。


(オッケー、だと? リテイク、なし? マジか……)


 シーンの山場、校舎の崩落。僕、橙華とうかが演じる佐伯比呂さえきひろの台詞は、絶命間際のたった一言だけ。


 台本には、瓦礫がれきに埋もれた比呂が、翔太と紅葉に向けて、「ありがとう」と告げる、と記されていた。


 穏やかな微笑みを浮かべるモニターの比呂。


 その儚げな表情に合わせ、最後に『感謝の言葉』を二人に伝える、はずだった。


 それなのに。


『ざまあみろ』


 僕の口からこぼれたのは、演出プランとは全く異なる、ドス黒い感情の呪詛だった。


(……アホか、何勝手にアドリブをいれてんだよ)


 一発アウト、即座にリテイクが当然。プロとして音響監督に怒鳴られても文句は言えない。


 なのに、なぜ?


 確かに、比呂の最後の薄い笑みと、僕が吐いた憎悪の言葉。


 相反するはずの二つの感情が、モニターの中で不気味なほど溶け合っている……そう見えなくもない、が。


 いや、しかし……。


(つうか、比呂って原作ラノベじゃ、最後までいい娘(男の娘)だったじゃん。ラストは感動シーンだったろ。それがよりによって、「ざまあみろ」だ? 完全にキャラが崩壊しているじゃんか──)


 自己犠牲の美談が完全にぶち壊し。まさかの、原作無視の改悪。


 映画公開後のネット論争。炎上。制作側の真意が問われる事態。当然、それを演じた中の人も。


 額から冷たい汗が、だらだら垂れる。


 よし、今からでも録り直してもらおう、と秒で決意し、制作陣がひしめくガラス張りの調整室に視線を向ける。


(……ってあれ、なんか、揉めてね?)


 音響監督が誰かと激しく言い合っている、ように見える。その誰かは、もちろん顔は知っているし、会ったこともある、収録時にまともに話したことのない、この作品、『終末アオハル』の総指揮者、あの有名なアニメ監督、白石稔しらいしみのる、その人だった。


 さすがに、あの渦中に底辺声優ごときが飛び込んで、リテイクを直談判する勇気は、僕にはない、あるはずがない。格好もこんなだし……って、スカート短っ!? 太もも丸出し!? 紺のハイソックス!?


 あ、はい。今さら何言ってんだこいつ、というやつ。今日の収録にあたり、起死回生の策として、演じる佐伯比呂になりきっての収録に挑んだ結果──がこれだった。


 急きょ、姉の高校時代の制服(なぜかアパートの衣装ケースに入っていた)を着用してのコスプレ。まさに暴挙。


 てか、そんなことよりも、いや、良くないけど、もしかして、本番が止まっているのって、自分のせい……だったりする、のかな?


 ていうか、他の声優たちもみんな、こっちを見てるし。


 俗にいう「俺なんかやっちゃいました?」状態。


(ははは……いっそ、このまま逃げるか……いや、それはさすがにまずい。でも一旦ここから離れよう、うんそうしよう)


 と、居たたまれなくなり、そっとスタジオの隅に移動しようとした、その時。


「逃さないわ」


 ガシッと、横から白セーラ服の肩口を掴まれる。視界の端で、主役を演じていた妻夫木さんが、困ったように苦笑い浮かべているのが見えた。


 ソロリ、ソロリと、横を振り向く。

 

 そこにいたのは、獲物を見つけた猛禽類のように視線をギラギラさせた悪役令嬢系美人。先ほどまで、気弱な紅葉さんを演じていた人物と、同一人物とは思えない。


(あっ、東雲パイセン、いたんすね)

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