終末アオハル 最終章②
──世界が漆黒に染まり、いよいよ物語が幕を下ろす、終焉はすぐそこまで迫っている……そんな予感がした。
『──っ、紅葉、佐伯! ありったけの水と食料だ! 外に出るぞ!』
翔太が叫んだ。懐中電灯の眩しい光が、真っ暗な教室を切り裂く。
『し、翔太、どこに……? 教室にいた方が、安全なんじゃ』
紅葉さんの声は震え、その双眸は涙と恐怖で歪んでいた。窓の外はもう、私たちが知っている平凡な世界は存在しない。
黒い雨が降り注ぎ、暴風が荒れ狂う。昼とは思えない、闇に包まれた街並み。時折、雨の音に紛れて聞こえる、人々の叫び声がこの世界の終末を告げていた。
『どうせ、ここはもう限界だ。さっきの地震で校舎が崩れかかっている』
『で、でも……』
『紅葉、ここに居ても死ぬだけだぞ、ほら、佐伯も早く!』
翔太は食料と水をリュックに押し込んだ。彼の言葉に突き動かされるように、私たちは無我夢中で支度を終え、翔太を先頭に急ぎ足で昇降口に向かった。
その刹那、校舎のどこからか、けたたましい非常ベルが鳴り響く。
それはまるで、私たちの脱出を妨害するように。
『──か、かまうな、走れぇええっ!』
『翔太っ、待って……足がっ、』
頭が真っ白になった。
前を行く紅葉さんが急に立ち止まり、その瞬間、真上から、轟音と共に天井が崩落して。
翔太が反射的に振り返り、彼女のもとに駆け出そうとした。
間に合わない。
だから──。
私は、翔太と紅葉さんの間に身を滑りこませ、彼女を思い切り突き飛ばした、
そのとき。
なにかが、私の中で弾けた──
思い切り、両手を広げて。
『──っ、佐伯ぃいいいいいいいいっ!』
ああ、最高。
この瞬間、彼は紅葉さんではなく、私を見ている。
『──佐伯、聞こえるかっ! 返事をっ、返事をしてくれっ!』
『……佐伯さん、どうして……どうして……』
『──絶対に、絶対に助けてやる、くそっ、動かねえ、おい紅葉、しっかりしろっ! こっちを早く──』
遠くから、翔太と紅葉さんの声が微かに聞こえる。
『……もみじ……はやく……』
意識が、遠のく。
『……さ、えきさん……し、なないで……』
身体が、溶けていく、でも、ちっとも怖くない。
それどころか、心の奥底で酷く歪んだ満足感が芽生えていく。
私は、また二人の間に割り込んだ。私という世界が終わる、その瞬間にまで。
それでも、この一瞬だけ、翔太は、紅葉さんではなく、私《《だけ》》を見ていてくれた。
私をひとりの《《女の子》》として認めてくれた。
紅葉さんは、きっと、私という存在に一生負い目を感じるだろう。そして彼は、私を助けられなかったことを一生後悔するだろう。
たとえ、この終末の世界を二人きりで生き残れたとしても、私は、佐伯比呂は、彼らの思い出に永遠に居続ける。
最悪だよね。
私の存在は、二人の物語には邪魔だよね。
本当にごめんなさい。
でも、最後にこれだけは言わせて。
『ざまあみろ』
────────────
──────
───
(──あっヤバっ、こんな台詞、台本になかった……)




