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再会

 ルナリアがローゼングラスに来てから一週間が経過。

 包帯は全て取れ、歩くのに支障をきたさないくらいには回復した。

 リハビリがてら散歩はどうかと村長に勧められたので、外を出歩くことに。


 今日は天気は良いが風が強い。ヒューと音を立て、ルナリアの紫髪と欠けた羽を撫でていく。

 火傷は完治したが、羽はまだボロボロのまま。

 飛べるようになるのはもう少し先になりそうだ。

 出会った村の人々は皆気さくに挨拶を交わしてくれたり、身体の調子を気にかけてくれた。

 ここの人達は皆親切だ。自分のために妖精用の背中が空いた服も作ってくれた。この分なら買い物の際に正体を隠す必要はなかったのかもしれない。


 散策中、外で遊んでいた孤児院の子供達と仲良くなり、その流れで院まで足を運ぶこととなった。

 院の職員は快く歓迎してくれた。

 子供達に案内され中庭に向かうと先客が。彼らよりもおそらく年上の少年、その腕には赤ん坊。少し懐かしく感じた。

 二人を交えて遊んでいると赤ん坊が泣きだしたので子守唄を披露した。

 これを歌うのはかれこれ20年ぶりである。

 歌い終わる前に赤ん坊は泣き止み夢の中へ。

 腕の中ですやすやと眠る小さな命。自然とアスターと重ねてしまう。

 彼は元気にしてるだろうか、愛し子のことを想っていると——。


「あ、王子様だ!」

 周囲にいた子供の一人が突如そんな反応を示した。

 赤ん坊が寝た後も続けていた子守唄を止めて、子供達の視線が集まる場所に目を向ける。

 二メートルほど離れた場所に男が一人。

 以前マルグリン公が近々王子達がくると言っていたことを思い出す。きっと彼がそうなのだろう。

 素人目でも分かる、上等な素材で作られた服。


 それを纏う身体は推定ではあるが170を超えていた。

 相手の容貌はぱっと見た感じ、髪の色が自身とよく似た紫という事くらいしか分からない。

 何故なら顔のほとんどを覆う仮面を着けているから。

 この一見すると怪しい風貌の人間にルナリアは内心警戒を覚えるが、ある箇所が目に留まり僅かに目を見開いた。


 仮面で唯一隠れていない男の右の目元、そこに見覚えのある花の印が一つ。

 ドクンと心臓が跳ねる。

 ——まさか、彼は……。

 子供達が仮面の男に駆け寄っていく。

 表情からして皆彼を慕っているようだ。

「妖精殿と話がしたい。お前達、少し席を外してくれるか?」

「はーい!」


 男の要望に子供達は素直に応じて、全員院の中へと入っていった。

 ルナリアが抱えていた赤ん坊も最年長の少年が回収済みである。

 立ち上がり男をじっと見つめる。

 快晴の空の下、聞こえてくるのは風の音のみ。

 先に沈黙を破ったのは男の方だった。


「お会い出来る日を楽しみにしておりました、ルナリア殿。私は——」

「ぼうや……?」

 深々と頭を下げて挨拶をする男の言葉を遮り、問いかける。

 顔を上げた男は何も言わずにただ真っ直ぐとこちらを見つめていた。

 当然だが表情は読み取れない。ルナリアの中に一抹の不安が生まれる。

 ザァァと風が流れ、無言の二人の髪や服を揺らしていく。


 その数秒後、男が再び動き出した。

 片膝をつき、片手を自身の後頭部に持っていくと、パチンと音を立たせ仮面の留め具を外した。

 ゆっくりと、躊躇いがちに仮面がずらされる。


 露わになったのは蜂蜜のような甘い金の瞳。そして左頬に刻まれた、人の顔の形をした痣——。

 男はニコリと優しく笑う、こちらを安心させるように。


「ぼうや——!」

 ああやはりあの子だ。心のざわめきは完全に消え失せ、顔が自然と綻んでいく。

 駆け寄って抱き締めれば、彼は少し驚いていたようだけれど、赤ん坊の時よりも何倍も大きくなった腕を背に回し、抱き締め返してくれたのだった。

 

「……あれ? ちょっと待って」

 ひとしきり再会の喜びを噛み締めた後、先の子供の発言を思い出し、一旦彼から離れる。

「さっきあの子達が王子様って……」

 彼があのときの捨て子であると判明した今、スルー出来ない部分であった。

 もしかしたら何か比喩的な意味での言葉なのかもしれない。偶然拾った赤ん坊が王族なんてありえないだろう。

 ルナリアの反応を見て、彼はいたずらが成功した子供のようにフッと笑った。


「では改めて自己紹介を」

 彼は立ち上がると仮面を持つ右手を胸の下辺りまで移動させ、綺麗なボウ・アンド・スクレープをしてみせた。

「私はアスター・エルダリス。エルダリス国の第一王子です」

「え……」


 思考が一瞬止まる。

 しかしすぐに動き出した脳味噌は、今度はぐるぐると高速で回転して今までの情報を整理し始めた。

 その結果ようやく理解した。彼は嘘をついていない、比喩でもなんでもない、正真正銘の王子であると。

「えぇっ⁉︎ そんな……っ」


 ——あのときの捨て子がまさか王子様だったなんて————!

 

 ◇

 

「マルグリン公は私の叔父です。彼の姉君——私の母にあたる人が王妃だったので、彼に引き取られてからは王族として生活しているのですよ」

「そ、そうだったんだ……」

 未だ衝撃が抜けないなか、ルナリアは孤児院の応接間に連れられアスターから大まかな経緯を聞いていた。

 室内には自分達以外にも人がいる。

 アスターが座るソファの後ろの壁際に立つ複数の兵士とマルグリン公、そしてアスターの隣に座る青髪青目の見知らぬ青年。

 

「申し訳ない、事前に話しておくべきだったな」

「いえそんな……」

 マルグリン公の謝罪に大丈夫だという意思を示す。

 同時に納得した。村で目覚めた日、彼と顔を合わせた際に生まれた既視感は間違いではなかったのだと。

 

「とりあえず元気そうで安心しました、ぼう——アスター、様……」

 今までの調子で接しようとして慌てて言葉遣いを変える。

「敬称は必要ありません。貴女は命の恩人だ、敬語も外していただいても」

「でも……」

 マルグリン公達と合流する前にアスターは仮面を着け直していたため表情は見えないが、おそらく本心で言っているのだろう。

 しかしながらその提案は躊躇われる。


「まあまあ兄上。いくら幼少の頃世話をしていたとはいえ、王族相手にいきなりタメ口は抵抗があるのでしょう」

 萎縮していると、こちらの気持ちを代弁するように青年が会話に入ってきた。

 アスターがそれもそうだなと納得してくれたので、少なくともこの場面では口調を戻さなくて済みそうだ。

 

 やり取りが終わると青年は申し遅れましたと名乗り始める。

「私は兄上——アスターさんの弟のシラーです」

「弟……貴方も王子様?」

「ええ、王子様ですよ」

 間抜けな質問に対しても朗らかに返してくれるあたり彼も良い人だ。色々な事があり過ぎて疲弊した脳味噌が安易に善人判定を下す。

 

 青年の正体が分かったところで、アスターがそろそろ本題に入りますと話を切り出した。

「我々がここに来たのは妖精の森の現状確認と、襲撃者に関する情報と対策を得るためです。これから森に向かう予定なのですが、もしよろしければルナリア殿も一緒にいかがでしょうか?」

 つい最近まで村長の家で寝込んでいた彼女はその言葉に食い付いた。

「行きますっ」

 断る理由はない、療養中ずっと気になっていたのだ。

「それでは早速向かいましょう」

 アスターの一言で一同は外へと移動したのだった。

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