父さん コラボ配信を行うんだ - 01
〇???
なんなのよあいつ……
運営も意味わかんないし。
絶対あのおっさん、若い子目当てじゃないの。
男なんて絶対そう。
裏切ることしか考えていない。
だから……私はここが好きだったのに。
許せない。
絶対に追い出してやる。
◆
あの伝説の配信の次の日。
父さん――耶摩シダレは、二回目の初配信を行った。
昨日よりもコメント欄を気持ち落ち着いたようだった。
その配信の中で、作ってもらった絵師、そして動かしてくれたモデリングの人を紹介するなど、本当はやるはずだった自己紹介を行った。因みにファンネームは「#シダレスト」となった。
また、父さんが次に行った配信はVtuberの古の登竜門である耐久配信である、「壺おじ」と呼ばれる鬼畜ゲームを行った。
父さんはゲーム自体は上手くなく、更に感情を出すタイプではないのでリアクションは薄めだが、しかしながら堅実に先に進めたり、視聴者からの悩みに答えたり、晩御飯の時間だ、と母さんが乱入してきたり、23時になったら就寝するから続きはまた今度、とマイペースな配信をしたりと、着実に面白さが垣間見えてきた
最初のインパクトが強かったからなのか、荒らし行為をする人もだんだんと減っていき、純粋なファンの人も増えてきたのは、配信担当として感触もつかんでいた。
因みに僕は配信担当だけではなく、父さんのSNSも担当している。といっても、SNSに慣れていない父さんの為に、来たリプライにフィルター掛けて伝えて、父さんが送る前に内容をチェックする、場合によっては口頭で伝えられたことを代理で入力するなんてことも行っていた。それがSNS担当というものだ。
閑話休題。
そんな父さんだったが、ある出来事がきっかえで呼び名がほぼ固定化された。
呼び名、というのは、例えば「シダレちゃん」、とか、あるいは「先生」とかそういうのだ。
きっかけは、仙谷社長のインタビュー記事だ。
直近でネットにあげられた対談記事の中で、早速ながら父さんについての言及があったのだ。
記者:耶摩シダレさんについてお聞きしたいのですが、彼女……いえ彼はどうしてログライブに入れたのでしょうか?
仙石:先輩……ああ、彼は私の昔の職場の先輩でして、その縁で入社していただきました。
記者:いえ、そちらではなくログムーンじゃなくてログライブの方に入れた理由の方をお聞きしたのですが……
仙石:そっちの方が面白いからです。先輩は昔から――
先輩。
仙石社長は僕達の前で父さんのことをそう呼んでいたのだが、記者の前でも同じように言ったようだ。間違いなく校正もあっただろうに、そのまま残してあった。
きっと意図的であったのだろう。
これ以降。
耶摩シダレは『先輩』と呼ばれるようになった。
一番後輩なのに。
だけど年齢的にはログライブのメンバーの中でも間違いなく一番上なので、先輩というのも不思議と納得感がある。
…… 一番上だよね?
怖くなったので仙石社長に訊いてみたら笑顔を返された。
闇だ。
まあそれはそれとして。
父さんは『先輩』という呼称が生まれ、ついでに配信挨拶についても、二回目の初配信の中で決めた「こんシダ」から「うっす」「ちわっす」「かばん持ちましょうか」などという先輩に対する後輩挨拶が定着してしまった。学校のイメージの、先輩、になったことはある種良かったかもしれない。 中には会社の先輩……というか上司に対してにするような挨拶の人もいたが……流石に父さんの元職場の人じゃないだろう。
そんなこんなで父さんは最初の炎上気味であった父さんだったが、徐々にそのキャラクターの独自性と。やはり初見のインパクトの強さで、あっという間にチャンネル登録者がなんと30万人を超えた。
これは他のログライブのメンバーと同じ、いやそれ以上の伸びだった。
この時点で仙石社長の戦略は大成功といっても過言ではない。
余談だが、仙石社長に聞いた話ではあるが、父さんの件によってログライブに応募する男性が増えたそうだ。
自分も行けるのだと勘違いしたのだろうか。
仙石社長は「この状況で逆にログムーンに応募してくる人って結構真面目な人ばっかりなんですよ。選考の手間が省けますね」なんてうそぶいていたけれど、もしかしたらそういう所も想定内だったのかもしれない。恐ろしい。
そんな一方で。
仙石社長も確実に想定外だったことが生じていた。
それは、他のログライブメンバーの反応である。
父さんに対して、他のメンバーの反応は比較的薄いものであった。
というよりも困惑している様子が見えていた。
関わっていいのか悪いのか。
一番顕著だったのは、父さんの初配信を同時視聴していたメンバーの反応だった。
戸惑い、どころではない。何も言えなくなっていた。
放送事故に近い所だった。
本当に何も教えてもらっていなかったのだということが分かる。あれが演技だったら大したものだ。
そんな状況から、最初の開設時の挨拶はともかく、父さんにSNS上で積極的に返信する人はおらず、よく連絡用に使用する他の通話チャットアプリでも個別返信をする人などほとんどいなかった。
つまりは孤独だった。
無理もない。
どう触れていいか、扱いを間違えると自分に火の粉が降りかかってくるのだ。
しかし無視をするわけにもいかない。
まさかの爆弾だ。
これが一週間近く続いているのだ。
この状況で僕もSNS担当として、父さんの方から安易にメンバーに水からリプライを送ることを許可出来ずに困っていた中、どうしても判断が出来ないことがあったので、仙石社長に相談しに行った。
「実は私もこうなるとは思っていなかったんですよね」
仙石社長が溜め息を吐く。
「一人や二人ほどはノリで絡んでくれるかな、と思ったのですが、流石にインパクトが強すぎましたねえ」
「いや、当たり前ですよ。女子高の中に男子が一人転校してきたらそりゃ腫物を扱うような対応になるじゃないですか」
「女子高の中に男子が転校してきたら成人向けゲームじゃないですか」
「そっち!?」
確かに昔そういうアニメがあったような……あれ、成人向けゲームだったんだ……
「じゃ、じゃあ男子校の中に女子が一人転校してきたらそりゃ腫物」
「男子校の中に女子が転校してきたら成人向けゲームじゃないですか」
「そっちも!?」
どっちにしろ変わらないじゃないか。
それはそれとして、そういうシチュエーションのゲームのタイトル教えてください。やる暇正直ないけれど。
「まあ、でも、私達には確かに後者の方が分かりやすいですね。男子校に女子、の方が」
仙石社長はくるくると指を廻す。
「男子校に女子がいきなり来たら。お調子者とかがアプローチしたりするじゃないですか」
「あー、確かにそうかもしれませんね」
「なのに誰もそういう動き掛けなかったんですよね。そういうキャラもいるのに」
「入ってきた人が還暦迎えそうなおじさんならそんなアプローチしないんじゃないですか」
「それは同級生よりも先輩に魅力が無いということかい?」
「なんで父さん厄介勢になっているんですか」
しかも字面だけ見ると年上の魅力を語る高校生みたいな感じだが、ここにいるのは大学生と社長だ。
「そういうことじゃなくて、例えば転校生が知らないおばさんだったら、僕もそんな反応になりますよ」
「先輩と話せばそんなことないんですがね」
仙谷社長が深くため息を吐く。
「最初のきっかけさえあればあとは大丈夫だと思ったのですが、ここまでメンバーの反応が薄いとは正直思っていませんでした。色んな人が面白がって声かけてくるという予想だったんですがね」
「そうですね。裏でも一人しか個別で返信来ていないですね」
「お、一人いるんですね。誰なんですか?」
「玖零さんですね」
玖零美愛。
髪色は明るく、メイクも濃い目で声も高い方だ。そしてヒョウ柄の衣装がよく似合っている。
彼女を一言で言い表すならば「オタクに優しいギャル」。
ギャルを彷彿とさせる容姿でありながら、ゲームとかアニメの知識には疎かった。しかしながらリスナーを通じてそのような知識を蓄えていき、「オタク君のおかげでこのアニメ知れてチョー幸せ。ありあと」とか言われた日にはリスナーはメロメロだ。
因みにリスナー名は当初は「ミアメイト」のはずだが、いつの間にやら「オタク君」に変わっていた。
そんな彼女が不機嫌になると「グレミア」と呼ばれて、リスナーが機嫌を戻すようにおだてるのが風習となっている。
ここからも分かる通り、彼女はリスナーとの距離感が近く、ライバーの中でも上位の人気を誇っており、登録者数も上から数えた方が早い。
また、メンバーとしては初期の方にログライブに入ってきているので古参でもある。
そんな彼女はSNS上でのリプライはもちろん、裏での通話チャットアプリでも何度か声をかけてくれている。僕が父さんだったら惚れていたかもしれない優しさだ。戯言だけど。
「玖零さんですか……」
しかしながら、仙谷社長は少し歯切れの悪い様子だった。
「え? 彼女、なんかあるんですか?」
「あ、いや。いい子ですよ。私が反応してくれるであろうと想像していた一人でもあります」
「だったら問題ないのではないですか?」
「ええ……ただ、彼女一人だけ、というのが少し引っかかっていてですね」
ん? それが何かあるのだろうか?
僕がその意図を掴めずにいると、「……いや、まあ先輩なら……」と仙谷社長はボソリと言葉落とす。
「うん。問題ないですね。で、玖零さんが絡んでくれているということなんですね」
「ええ。そして少し相談があるのはそのことについてなんですよ」
僕は本題を突き付ける。
「玖零さんから『コラボ配信』のお誘いが来ました」
コラボ配信。
コラボレーション配信の略称であり、要するに一緒にゲームで遊んだり、お話ししたりする、いわゆる一人ではない配信のことである。今はコラボ配信など珍しくはないが、昔のVtuber黎明期にはコラボ配信というのは文字通り夢のようなビックイベントであった。
じゃあ何故僕はそんな些細なことを仙谷社長に相談しに来たのか。
「今、こうして父さんが孤立している状況で、彼女のコラボ配信を許諾することが、会社の不利益になりかねいないと思ったのですが……」
「成程。タカシさんは、先輩とコラボ配信する第一人者が、もしかして炎上するかもしれないというリスクを心配しているんですね」
お察しの通りだ。
コラボ配信を受けるのはよいが、彼女の方に父さんのアンチが攻撃するかもしれない。
そうなると彼女に対して、ひいては会社に対して迷惑が掛かる。
だからおいそれと、ただのアルバイトである僕がオッケーを出すわけにいかなかったのだ。
「いいですよ」
仙谷社長はあっさりと許可を出した。
あまりにも早い決断だったので、僕は少しの間呆けてしまった。
「どうしました?」
「あ、いや、こんなにすぐに回答をもらえると思っていなかったので」
「即決断しないと、時の流れが異常に早いこの業界では置いて行かれますよ」
それに、と仙谷社長は笑みを浮かべる。
「元々先輩に対しては積極的に他のライバーの子たちと絡んでほしかったので、これがいい呼び水になればよいと思っていますので」
「じゃあ、彼女には問題ないということを伝えるように帰ったら父さんに言っておきます」
では、と忙しいであろう仙谷社長を慮って、僕は部屋を退室しようとした。
「あ、ちょうどいいので、私も先輩の家に行ってもいいですか?」
「……へ?」
何を言い出すんだこの社長は。
「ちょっと相談したいこともあるので……先輩に来てもらうわけにもいかないでしょうから」
いや、あんた社長だろう。呼び出せよ。
が、そんな提案を無下にすることも出来ず。
「……父さんに確認してみますね」
しがないアルバイトの僕は、言われるがままに首を縦に振るしかなかった。
◆
「うむ。会社勤め時代に部下を家に呼んだりした、なんてことがあったら問題だったからな。今は部下が私なので問題ないのはよいことだ」
父さんは食卓のテーブルについて仙谷社長にそう言った。
あの後、父さんに電話したら「いいぞ。晩御飯時になるから何が食べたいか聞いておいてくれ」と二つ返事どころかおまけもついてオーケーされた。
因みに仙谷社長のリクエストは「みそ汁とご飯と焼き魚」だそうだった。ずいぶん具体的だった。
「お酒は大丈夫か?」
「ええ。今日の業務はもう終えていたので」
「そうか。社長業故に就業時間というものが無いに等しいからな。よかった」
ビールでよいか、と聞いた父さんに仙谷社長は笑顔で頷く。
「しかし、せっかく君が来るのだからもっと豪勢なご飯も用意することも考えていたのだがな。なあ、母さん」
「ええ。寿司天ぷらステーキハンバーグ納豆カレー寿司と身構えていましたよ」
「寿司二つあるよ母さん」
「カレーでもよかったかもしれませんね」
仙谷社長はビール缶を父さんから受け取りながら、しみじみと呟く。
「なにせ誰かと食事するなんて久々なもので。しかも最近はそういうのは『会食』という名前がついた仰々しいものなので味わう暇なんてありませんでしたよ」
ああ、だからか。
みそ汁とご飯と焼き魚。
インスタントでなければ一人で作るのは少々手間なものだ。
「こういうことを聞いていいかはわからないが、君は結婚とかそういうのはしないのか?」
「ええ。今は仕事が忙しくて誰か他の人に構う余裕なんてありませんので。今の会社勤め時代にやっていたらセクハラになりますよー」
「うむ。今の時代はそういうの厳しいということは総務人事にいたからよく知っているし、他の部門からそういう話はよく流れて来たからな」
だが、と父さんは首を横に振る。
「さっきも言った通り、今は君が上司だ。無礼講でよいだろう?」
「それ、部下の立場の人が言うことじゃないですよ。というか今は部下側からのハラスメントもあるんですよー」
「うむ。そうみたいだな」
「……ああ、本当に、美味しいごはんだ」
真面目な顔して冗談を飛ばす父親と、本当に楽しそうに話す仙谷社長。
少しだけほっこりした。
「先輩。ありがとうございます」
「ん? 何もお礼を言われるようなことはしていないぞ」
「いえいえ。こういう『温かくて美味しい食事』は久々ですよ」
仙谷社長が言葉を落とす。
「……願わくば、メンバーの子たちも、この温かさを知ってもらいたいなあ……」
「うん? 必要ならば協力するぞ。なあ母さん?」
「ええ。――お父さんが目を惹かれるような可愛い子じゃなければ」
「じゃあ駄目ですね。みんな可愛い子たちなので」
場が和む。
そんなこんなで食事は進み。
「ごちそうさまでした」
仙谷社長が手を合わせる。
「本当に美味しいごはんでした。ありがとうございました、奥さん」
「はい、お粗末様でした」
母さんも笑顔で片づけを始める。
父さんと仙谷社長は引き続きビールを飲んで談笑している。
僕はその場を離れ、母さんの片付けの手伝いをする。
なんだか、父さんと仙谷社長の談笑の邪魔になる気がしたからだ。
「あら、居辛かったの?」
「その通りでございます」
「まあ、父さんの元部下とはいえ社長の方がここにいるのは気が引けるわよねえ」
「しかもすっごい有名な人だからね」
しかしまあなんでこんなことになった。
どうして来たんだっけ。
ああ、そうだ。
父さんに対して何か相談したいことがあったらしいからだ。
しっかし、あれだけお酒を飲んで本来の目的を忘れていないだろうか。
……まあ、忘れてもいいか。
あれだけ楽しそうなのだから、息抜きしてもらうのもありだな。
「お父さんのあれだけ楽しそうな姿を見るのは久しぶりね」
「え? そうなの?」
「1日ぶりくらい」
「久しぶりじゃないじゃん」
「だってお父さん、配信を物凄く楽しそうにやっているじゃない」
え? そうなの?
淡々とやっているように傍から見えたけど。
「だから、他の誰かと楽しそうに話している姿を見るのが久しぶり、って方が正しいわね」
「そうなの?」
父さんの表情はそんなに動いていない。笑顔も見せていない。
なのに母さんはそれを、楽しんでいる、と見抜いた。
流石夫婦だ。
「あんな楽しそうな表情を他の人に見せるなんて……グギギ……」
「仙谷社長に嫉妬するのやめて」
今にも日本刀を持ち出してきそうな母さんをなだめつつ、これ以上二人の団欒に横入りするのは野暮だな、と思ったので、僕は冷蔵庫から新しいビール缶を二つ取り出して二人の前に置き
「ごゆっくりどうぞ」
と一言告げて、自分の部屋へと戻った。
◆
あの後。
仙谷社長は一泊してから帰っていった。帰宅する際に「これ心ばかりですが……」とお金を渡そうとしてきたが、頑として父さんは受け取らなかった。
またいつでも来ていいぞ、と父さんが言った時の仙谷社長の嬉しそうながらも感謝の気持ちが存分に込められた表情を見た時は、ああよかったな、と僕でも思ったくらいだ。
「ねえ父さん」
「なんだ?」
「仙谷社長から何か話があった? 相談事とか」
僕はそれが気になっていた。
「ん、ちょっとな。結構プライバシーに関わることだし、あんまり他の人に言うことではないな」
「そう。なら分かった」
内容まで聞こうとはもともと思っていなかったし、ちゃんと父さんに相談できたのを確認できただけでよかった。
「とりあえず、父さんはやることがあるから、ちょっと部屋にこもるぞ」
「うん。分かった」
一体何をするつもりなのだろうか。
まあ、父さんの自由だから詳細を確認などしないが。
「あ、そうだ。玖零さんとのコラボの件、どうする?」
「ん、受けてくれ」
何を仙谷社長から相談されたかは知らないけれど、普通に受ける判断にしたのか。
「了解。僕の方から返信しておくね」
「頼む。――ああ、時期については一週間以上先にしてくれ」
「? 分かった」
時間を置きたい何か理由があるのか。
とりあえず父さんの言うことを聞いておこう。
――そこから。
父さんは食事以外は部屋にこもるようになった。
何をしているかはわからない。
配信はきちんとしているし、ダンスレッスンなども行っているようだ。
気にはなる。気になっているのだが……完勝してはいけないとも思っている。
もどかしい。
まるで思春期の子を心配する気持ちか。
……何で親に対して自分の子のような心配しているのか。
もうわけがわからないよ。
やきもきしている間に、玖零さんと約束したコラボの日の前日まで来てしまった。
この日は父さんは配信をせず、玖零さんと何のコラボをするかの詳細を決める前打ち合わせをする予定だ。
そう。
まだ発表はしていないのである。
コラボをすること自体も表に出しておらず、サプライズ気味に発表しようということになっていた。
今頃、父さんは玖零さんと通話チャットアプリで詳細を決めている所であろう。
何になるのだろう。
ゲームか、雑談か、そんなところが無難だろう。
父さんのことだからきっと考えはあるはずだ。
心配半分、どうなるかわくわく半分の気持ちを抱きながら、僕は暇つぶしにSNSを開いた。
「……え?」
途端に僕は固まった。
SNSのトレンドに「耶摩シダレ」が入っていたのだ。
父さんが配信する度にトレンドには少なからず入っていたこともあるが、今日は配信をしていない。むしろ配信していないことでトレンドに入る、なんてことも最初は想像したが、僕はそうではないと直感で思ってしまった。
そしてその直感は当たっていた。
「なんだこれ……?」
僕の予想よりも――遙かに悪い形で。