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父さん Vtuberで食っていこうと思うんだ  作者: 狼狽騒
父さん ついにアイドルデビューするんだ
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父さん ついにアイドルデビューするんだ -02


「落ち着け……落ち着け……落ち着け……」


 父さんが病院に運ばれた。

 その一報を受けた僕は、響と玖零さんに「ちょっと会社に呼ばれたから行ってくる、食器は台所につけておいて」と嘘をついて、母さんに教えてもらった病院へとタクシーで向かった。

 病院に到着後、僕は受付の人に尋ね、父さんのところへと向かう。

 走らないように早歩きで。

 はやる気持ちと最悪な事態を想像する思考を抑えながら。


「父さん!」


「おお、タカシ。来たのか」


 父さんはいた。

 しかも元気そうに手を返してきた。


「よかったあああああああああ」


 最悪の想像をしてしまっていたから、とりあえず命があることが分かってよかった。


「うむ? なんか深刻そうな顔していたが」

「そりゃ父さんが病院に運ばれた、って母さんが真剣な声で言ってたから」

「母さん?」

「だって男の命、って言うじゃない」


 ん? 男の命?


「なんで運ばれたのか聞いていなかった僕も悪いんだけど、父さん、何があったの?」

「実はな……」


 父さんは少し恥ずかしそうに言う。


「ダンスレッスン中にこう、腰をグギッとやってしまってな」

「えっと……つまり?」


「ぎっくり腰だ」


「ぎっくり腰!?」


 繰り返しになってしまった。

 心臓とか、交通事故じゃなくてよかったけれど。


「うむ。この年まで健康そのものだったし、運動は得意な方だと思っていたんだがな。ストレッチが足りなかったのかもしれない」

「でも大事なくてよかったよ。このまま入院するの?」

「いや、この後は処置して鎮静剤を処方してもらって終わりみたいだな」

「帰れるのね。よかった」


 と言ったところで先生が来た。

 僕と母さんは病室から出る。


「大したことなくてよかったね、父さん」

「そうね」


 しかし母さんの表情は暗い。


「何かあったの?」

「タカシ、お父さん、敢えて言わなかったことがあるの。でもタカシはマネージャーだから伝えておくわね」


 マネージャーだから。

 その言葉で嫌な予感がした。


「お父さん、さっきお医者さんから2週間は激しい運動を控えるように言われたの」

「え?」


 ということは……


「来週に開催されるログライブハイパーフェスティバルへの参加が難しい、ってことよ」






 ログライブハイパーフェス。

 そのライブへの参加が難しい。


「……まあ、無理ないよね」


 病院からの帰り道。

 僕は考えに考えたうえで、そう結論を出していた。


 父さんは元々シークレットゲスト枠だったし、1週間前だから構成もまだなんとかなるだろう。

 それよりも父さんの腰が悪化する方が問題だ。

 もう年なのだ。

 それからずるずるといってしまうよりは、ここでしっかりと治療をした方がいい。


 ただ僕がそう思っても会社がどう思うか分からない。

 だから僕は事務所に向かい、マネージャー長に報告した。


「ちょっとここで判断が付かないので、上に相談しますね」


 だよなあ。

 あとはマネージャー長に任せるか。


 これ以上何もできないので僕は響――有栖ばにらの家へと戻って、ただ何も考えずに食器を洗い、二人のオフコラボを息を潜めながら見守り、そして終わった後に泊っていくことになった玖零さんを響の家に置いて、自宅へと戻った。


 帰宅すると父さんも母さんも既に就寝していた。

 そりゃそうか。もう日付回っているし。


 僕も寝る準備をして布団の中に入った。



 翌日。


「ログライブハイパーフェスには出るぞ」


 父さんは僕と母さんにそう言ってきた。


「いやいや、ダメだって。安静にしなきゃいけないんでしょ?」

「そうよ。お医者さんに言われたじゃない」

「たかがぎっくり腰だぞ。そんなんで穴を空けるわけにはいかない」 


 父さんは首を横に振る。


「鎮静剤を使えばある程度は我慢できる。だから大丈夫だ」

「でも……」


 と、困っていたところ、ピンポーンと呼び鈴が鳴った。

 母さんが対応する。

 一体誰だろう?


「先輩、お身体は大丈夫ですか」


 来たのは、仙谷社長だった。


「うむ。昨日処置してもらったからな」

「そうですか」


 ホッとした様子の仙谷社長。


「じゃあ先輩、ちょっとジャンプしてください」


 かつあげかよ。


「……」

「出来ないですよね」

「正直、今は無理だ」


 はぁ、と仙谷社長は息を吐く。


「でしょうね。ならば来週のログライブハイパーフェスの出演は見合わせましょう」

「嫌だ」


 仙谷社長に対しても、父さんは断りの言葉を口にする。


「幸いシークレットゲストですし、プログラムは今からでも変えられます」

「だが、私の3D初お披露目のインパクトによる相乗効果が薄れてしまうぞ」

「それは……そうですが……」

「ならばやるべきだろう。さっきも母さんとタカシには言ったが、鎮静剤があればある程度は我慢できる。さすがにダンスレッスンは直前だけに抑えてほしいというお願いはさせてもらうが」

「……」

「今回の事態は私のミスだ。私のミスで皆に迷惑をこれ以上掛けたくない。だから頼む、仙谷君」


 父さんはテーブルに手をつき頭を下げる。

 それを受けた仙谷社長は、顎に手を当てて考え込む。


 数秒後。


「……経営者としては、先輩の提案を受けたいです」


 ですが、と仙谷社長は続ける。

 

「一方で先輩の指導の下で働いた人間としては、出演について見送ってもらうことを提案します」

「……」


 暗に父さんに、大将が他の人だったらそう提案しているでしょう、と言っている。

 実際、この前に玖零さんに対してやったのはそういうことだ。


「そして先輩の性格を考えて、それを受けいられないということも知っています。だからこそ、このように提案させていただきます」


 仙谷社長は指を一本立たせる。


「ログライブハイパーフェスには出ていただきます。但し、ライブは1曲のみでトークパートはなし、今予定されていた楽曲の中から一番動きが少ないあの曲のみにしてもらいます」

「分かった」


 父さんは即断した。


「それで頼む」

「分かりました。それで調整しましょう」


 仙谷社長は席を立つ。


「でも、本当に無理だけはしないでくださいね」

「無理をしないことが無理だ」

「ですよね……では、こう言っておきます」


 仙谷社長は父さんに鋭い視線を向ける。


「無理だとこちらが判断したら、社長権限で問答無用にライブ出演を中止させますからね」 

「……分かった」

「よろしくお願いしますね」


 にこり、と仙谷社長は笑顔を見せた。

 その笑顔にはなんか圧があった。


 そして仙谷社長は僕と母さんの方に向かって


「怪我をしている先輩を出演させてしまうことになってしまい、申し訳ありません」

「いいえ、正直、こうなると思っていましたから」

「まあ母さんがいいなら僕が言うことじゃないですし」

「ありがとうございます」


 仙谷社長は一礼した後、では失礼します、といって帰っていった。



 こうして。

 父さんは限定条件ではあるものの、ログライブハイパーフェスに出演継続となった。

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