父さん 公式生配信に出ることになったんだ -03
スタジオに鳴り響いた悲鳴。
その出所は、玖零さん、殴背さん、宇城場さん、そして司会の咲さんの4人だった。
何が起こったのか。
その理由は僕も分かっていた。
「っ!」
僕は片耳を抑えながら地面に視線を向ける。
そこにあったのは、自分のスマホ。
思わず投げ捨ててしまったのだ。
何故なら、突如爆音が響いたからだ。
その爆音の発信先は、この生配信。
「なんだったんだあの大きい音は……」
父さんが耳を抑えながらしかめっ面で周囲を見渡す。
やっぱり父さん達のイヤホンにも同じのが流れたのか。
爆音の原因は、問題VTR。
この音声の音量バランスが調整されておらず、かなり大きかったのだ。
「あ、あはは。映像の音声が大きすぎた様ですね。リスナーの皆さん大変失礼しました」
女性で真っ先に平静を取り戻したのは咲さんだった。彼女は顔を青くしながらも場を収めようと頑張っていた。
「びっくりした……」
「何なのよ……」
続いて宇城場さんと殴背さんがゆっくりと立ち上がる。
「二人とも大丈夫か?」
「ええ。今は聞こえるわ」
「キーンってなってたよ。今は普通に大丈夫!」
父さんが心配そうに掛けた声に二人は頷きを返す。
「玖零さんは大丈夫か?」
父さんは玖零さんの元へと駆け寄る。
「……耳が……」
「玖零さん?」
目を見開いて呆然としている玖零さんの肩に父さんが手を置く。
「あ、うん。ごめんね。聞こえてるよ」
「……玖零さん?」
「あはは。なに、シダレちゃん? 大丈夫だって」
「……」
と、そこで父さんは声を発さず、口をパクパクとさせた。
玖零さんは苦笑いをする。
「もー、そんなに心配しなくていいよ、シダレちゃん。
だから聞こえてるって」
「っ!」
父さんの顔色を変え、大声を上げる。
「玖零さんのマネージャー! すぐに来て!」
「は、はい!」
唐突に呼び出された玖零さんのマネージャーは父さんの元へと駆け寄る。
「玖零さんを最寄りの今すぐ病院に連れていって」
「え……?」
「今の時間だとやっていないかもしれないから緊急外来やってるところで。近くになければ救急車呼んでも構わない」
「え? え? 救急車?」
「いいから早くしなさい!」
父さんは切迫した様子でマネージャーに命令する。
「玖零さんは突発性難聴になった可能性がある!」
突発性難聴!?
たしかそれってストレスとかで突然耳が聞こえなくなるやつだよな。
「一刻も早く治療を受ける必要がある! 急いで!」
「は、はい!」
「シダレちゃん……」
困惑した顔をしている玖零さん。
父さんは素早く手元にあった台本に近くにあったペンで何やら書き込む。
それを見て、玖零さんは目を閉じる。
「ごめんね。頼んだ」
父さんは頷きを返した。
その後、玖零さんはマネージャーさんに支えられながらスタジオを去っていった。
「咲さん」
続いて父さんは司会の咲さんに声を掛ける。
「は、はい」
「生配信は中止にしてください。これ以上は続けられない」
「え? えっと、でもそれは……」
戸惑う咲さん。
それはそうだろう。
彼女はただの広報だ。そんな権限はないのだから。
だったら――
僕は落としていたスマホを拾って電話を掛ける。
その傍ら。
父さんはカメラの方を向いて頭を下げていた。
「視聴者の皆様、申し訳ありません。不慮の事故によって出演者が怪我をしてしまったため、今回行おうと思っていた放送は延期させてください」
父さんが顔をあげる。
「玖零さんの容体については逐次皆様に連絡いたします。大事に至っていないことを心より祈っております。また放送についてのリスケジュールについては社内で検討し、決まり次第、皆様にお伝えさせていただきます」
咲さんがあわあわとした様子になっている。
構わず父さんは続ける。
「今回の放送中止については私の判断です。理由は、メンバーが怪我をしているのに平静を装って配信を続けることなど、私が出来ないからです。その旨はきちんと、仙谷社長含め関係者にもきちんと事後報告になりますが伝えておきます。そして、中止の判断の責任は私が取ります。重ね重ね皆様、申し訳ありませんでした」
再び父さんが頭を下げる。慌てて咲さんも続いて頭を下げる。
「ではすみませんが、あとはよろしくお願いします」
「は、はい! では皆さん、申し訳ありませんでした! 配信を終わります!」
咲さんがあわただしく締める横で、父さんは呆然としている殴背さんと宇城場さんに声を掛ける。
「折角の生配信だったのに終わらせて申し訳なかったな」
「い、いえ。何も耶摩さんは悪くないです」
「そうだよ、ウチもミアっちが怪我したのに笑って配信は出来ないよ」
「うむ。そうだよな、助かるよ。ありがとう」
さて、と父さんは一息つくと、スタジオ内に声を投げる。
「今回の配信の責任者と音響スタッフ! ここに来て!」
するとおずおずとした様子で3人が父さんの元へと歩いて行った。
「君たちか」
「私が今回の配信の責任者である現場担当です」
父さんと同じくらいの年代の男性がそう名乗る。
「俺とこいつが音響担当です」
「あ、えっと。あはは。やらかしてすんませーん」
帽子をかぶった男とへらへらとした茶髪の男が音響担当のようだ。
父さんは二人を一瞥すると、まずは配信の責任者の男性に向かって
「この度は申し訳ありませんでした」
と頭を下げた。
「本来であれば責任者のあなたの判断を仰ぐべき事案でした。なのに相談もせず勝手に決めて申し訳ありませんでした」
「いえ。頭をあげてください」
配信の責任者は真剣な顔で首を横に振る。
「私は正直どうすべきか迷いました。しかし、あなたが即座に判断してくれて非常に助かりました。むしろこちらから謝罪すべきでした。即刻の判断をあなた達に出すべきであった。申し訳ありません」
「では……」
「ええ。私も同じ判断を下します。なので当然、現場責任者の私も同意見だったとお伝えしてください」
「ありがとうございます」
「いやいや、ちょっと待ってくださいよ」
そう声を放ったのは、音響担当の茶髪の男だ。
「ちょっと大袈裟すぎじゃないですか? 確かに音量ミスったのはこっちが悪いですけど、でもそれで病院とか配信中止って、ミスを過大に責めてくるというかそんな大ごとにしなくってもいいじゃないっすか」
「……」
5、6秒ほど目をつむって黙った後、父さんは帽子を被っている方の音響担当に尋ねる。
「君も同じことを思っているか?」
「あ、えっと、俺、いや私も……正直言うと、こちらのミスは確かに申し訳なかったです。ですが人的ミスなのでそこまで責められるのは、という気持ちもあります」
「人的ミスだと?」
カチン、ときた。
僕はスマホから耳を離し、二人に詰め寄る。
「お前らが手を抜いて音響確認してなかったから起きたんじゃねえか! それの何が人的ミスなんだよ!」
「手を抜いた? どういうことだ?」
父さんの問いに僕は二人を指差す。
「本番始まる前にトイレでたまたまこいつらの会話を聞いたんだよ。何かあっても謝れば済むから手を抜いてやってる、って」
二人の顔が青ざめる。
「それは本当か?」
「い、いやでたらめ言ってるんじゃねえよ! 俺らはきちんと仕事をしたっての!」
「そうだそうだ!」
「じゃあ何故先ほどのようなことが起きたのだ?」
父さんにそう問われて、二人は押し黙る。
「きちんと仕事をしていたら、動画に切り替わった時の音声も確認したはずだろう。何故やっていなかったのか、教えてくれないか」
「それは……単純に確認不足で……」
「だったら手を抜いていたという証言の信ぴょう性が増すな」
それに、と父さんは続ける。
「君たちは、先ほど配信を終わらせたり、救急車を呼ぶようなのは大袈裟だ、と言ったな? それは自分たちのミスで、自分たちの責任で、大ごとになったことに不満を持ったから、ということだな」
「それは……」
「違うとは言わせないぞ。確かに君たちはそう言った」
だったら、と父さんはスマホを取り出す。
「これから、先ほどのがどれだけ大ごとになるのか――仙谷君との通話を聞かせてあげよう」
「へ……?」
呆ける音響担当の二人組。
しかし、ちょうどいいタイミングだ。
――父さんならそうすると思った。
「はい」
僕は父さんにスマホを差し出す。
「連絡を取りたがるだろうと思って、仙谷社長とならもう電話繋がってるよ」
「……素晴らしい段取りだ。ありがとう」
礼を言う父さんに、僕はスマホのスピーカーボタンを押してから父さんに渡す。
「仙谷君、私だ。お疲れ様」
『先輩、お疲れ様です。話は先ほどから全部聞いていましたよ』
父さんが配信を終わらせようとしたあの時。
僕は咄嗟に仙谷社長に連絡を取っていた。
理由は単純だ。
父さんならそうすると思ったからだ。
責任者を通さずに配信を終わらせるのは父さんとしてはらしくない。
でも、それ以上に緊急事態であることを肌で感じた。
そうなれば後始末として仙谷社長と会話して決める必要はあるだろう、と。
だから僕は父さんが色々とやっている裏で、仙谷社長に状況を説明していたのだ。
……途中で音響担当者にキレてしまって、通話の最中なのにほっぽりだしてしまったけれど。
「まずはすまない。私の判断で配信を中止にした」
『それはいいです。むしろ早期の判断ありがとうございました』
経営者としても父さんの判断を支持した。
『それよりも玖零さんは大丈夫ですか?』
「うむ。マネージャーさんが病院に連れていってくれているはずだ。彼女も戸惑っている様子だったからサポートしてほしい」
『分かりました。マネージャーを統括してくれている田中さんにお願いをしておきます』
「頼む。……で、仙谷君、ここからはPACKとして、やらなくてはいけないことの話だ」
父さんの声が低くなる。
「まず聞くが、今回のスタジオ配信での音響スタッフは、社員か?」
『いいえ。外部委託です』
「では、外部委託先に対して、やらなくてはいけないことは?」
『……』
数秒の沈黙の後。
『まずは法務部門を交えて、玖零さんをケガさせたこと、ならびにスタジオ収録が中止になった件、更には追加でスタジオを取らなくてはいけなくなってメンバーの都合を調整しなくてはいけない件等々、弊社が負った損害について賠償請求を行います』
「なっ……!」
音響スタッフの二人が顔面が真っ白になる。
「それは経営者としてやるべきことだな。他には?」
『あとは今回起きた件について原因追求と再発防止策について提出してもらいます』
「そうだ。安全衛生としての考え方だな。昔、総務人事としてその業務も担っていたから君もよく分かっていると思う」
『弊社も総務がその業務分掌なので彼らに対応させます』
「よろしく。ああ、チェックシートによるチェックを追加とか、確認時は必ず複数人が確認する、いわゆるダブルチェックを行う――なんて甘い対策程度じゃ承認しては駄目だからな」
『……承知しました』
「うむ。他には?」
『そうですね。あとは……そうだ。今回の件、労働災害として厚生労働省に報告いたします』
「正解だ。国に報告する必要がある。よく覚えていたな」
『先輩にあれだけ叩き込まれましたから』
ああ、忘れていたけど父さんの部下だったってことは、仙谷社長も総務人事部だったんだよな。
「ではそれらの処理について各部門への指示を頼む」
『承知しました。先輩、ありがとうございました』
「感謝されるいわれはないぞ。こちらこそ感謝しかない。どうかよろしくな」
『はい』
では失礼する、と言って父さんは通話を切る。
「と、いうことだ。君たちがやったことは、とても大ごとになった。帰って自社の上司に報告するんだな」
「……っざけんじゃねえよ!」
ダン、と。
唐突に茶髪の男が父さんの胸倉を掴んだ。
「何してるんだおま――」
スッ、と。
思わず茶髪の男にとびかかろうとした僕に父さんは手のひらを向けて、行動を抑制した。
そして目で語る。
大丈夫だ、と。
父さんはそのまま視線を茶髪の男に向ける。
「なんだ? 何がふざけているのだ?」
「なんでここまで大きな話にしやがるんだよ! ちょっとしたミスじゃねえかよ! そんなんでこんなに大袈裟に騒ぎ立ててあんたら当たり屋か!? 詐欺師か!?」
「当たり屋でも詐欺師でもない。大ごとになるべくしてなったんだよ」
「そんなのちょっと音をでかくしたままで耳が少しの間だけ聞こえなくなったってずっと聞こえなくなるわけでもねーじゃん! 軽い怪我なのにここまでするのかよ!?」
「軽い怪我?」
父さんは男の手を振り払い、逆に胸倉を掴み返した。
「お前自分がやったことを分かっていないのか!!!」
一喝。
僕も、びくっ、と思わず跳ね上がってしまった。
父さんがこんなに怒っているのを見るのは初めてだ。
いつも堂々として落ち着いた印象の父さん。
怒っているところなんか僕の記憶にない。
だが。
今の父さんは誰が見ても怒りに満ちていた。
茶髪は一瞬で怯えた表情になる。
「彼女たちログライブのメンバーはアイドルだ! 歌を歌う!
その時に耳が聞こえなくなったらどうなると思うんだ!?
歌えなくなるんだぞ!
完全に聞こえなくなるわけじゃなくても、耳に変調があったら歌なんて覚えられないし歌えなくなるんだ!
アイドルの彼女たちから歌を奪うかもしれないことをお前はしたんだぞ!」
そうだ。
歌を歌うという行為には、喉だけじゃなくて耳も重要な器官を担っている。
音を聞いて覚える。
自分の歌声を聞いて修正する。
耳が正常でなくなれば、今までの音楽は作れない。
今までのように歌を歌えない。
「お前は彼女のこれからを奪いかねなかったんだ! それを、その程度、とか、軽い怪我、とかよくも言えたな!? あ?」
「そ、そこまで」
「そこまで考えが及ばなかった、だと? そういう気持ちだから手を抜いたんだろ? こういうことになるって想像していないから楽をしたがるんだろ? 責任を取りたくないんだろ? だがこれは仕事だ。お前のミスで一人の女の子の将来を奪いかねないことが生じる仕事だ。私のような老いぼれじゃなくて、これから先、未来がある彼女――1人の女の子から夢を奪おうとした自分の行為について深く反省しろ。その様子だと分かってないみたいだから、身をもって罰せられろ。いいな?」
父さんが手を離すと、茶髪はへなへなと座り込んだ。
「ログライブのメンバーを傷つける奴を私は許さない。ふざけるな、はこっちのセリフだ。大馬鹿野郎」
静寂がスタジオを包み込む。
最後の方は怒鳴り声ではなく抑えてはいたものの、それでも静かになったスタジオ内全員に響き渡った。
数秒の気まずい時間が流れる。
やがて父さんは、ふう、と大きく息を吐く。
そして周囲を見回した後、僕の方まで歩いてきて、肩を叩いた。
「……アンガーマネジメント、というものがあってだな」
「え? なに急に?」
「怒りを覚えた時に6秒間怒りを我慢すると自然に怒りが霧散する、ってやつなんだ」
「へえ、そうなんだ」
「うむ。だけど本当の怒りは6秒我慢することもできないんだよな」
「違いない。見て実感したよ」
父さんが肩をすくめる。
僕は苦笑を返す。
「でも怒ってくれたことで、みんなすっきりしたと思うよ」
「まあ表立ってやることではないからな。すっきりしたっていうのはないと思うぞ。むしろもやもやするのではないか」
「あ、そうか。配信はもう切っているもんね」
「当たり前だ。配信付けながらあんなこと出来るもんか」
「あの……」
と、そこで恐る恐ると言った様子で話しかけてきたのは、咲さんだった。
そりゃああれだけ怒っていた人に話しかけるのは気が引けるだろう――なんて思っていたのだが。
「どうした咲さん?」
「耶摩さん、実は言わなくちゃいけないことがあって……」
「うむ? なんだ?」
「その……配信がですね、いったんは終了画面に切り替えはしたんですよ。だから画面上は終了画面になっていたんですね」
「うん? 同じことを言っているぞ? 大丈夫か?」
「大丈夫じゃないかもしれません……」
咲さんも混乱している様子だ。
「で、何があったのだ?」
「実はですね、終了画面に切り替えたモノの……そのタイミングって、音響スタッフが配信ソフトを操作することになっていたんですね」
……おっと。
いやな予感がしてきたぞ。
「で、音響スタッフが耶摩さんに呼ばれたので、最後の『配信を終了する』ボタンを押し忘れていて……あと音声もミュートにしていなくてですね……」
「……うむ。ということは?」
「はい……ここまでの会話、全て配信されていました……」
「……」
父さんは天を仰いだ。
数秒の気まずい時間が流れる。
……あれ? デジャヴ?
「やってしまったな」
「はい。やってしまってます」
「こういう裏での会話は聞かせるべきではないのだが……」
「あ、今は配信切っていますよ。私がやっておきました!」
「……咲さん、ひとつお聞きしてよいかな?」
「あ、はい」
「配信切ったのいつ頃ですか?」
「耶摩さんに話しかける直前です」
じゃあ全部じゃないか。
ここまでの会話、全部。
ポン、と。
僕は父さんの肩を叩く。
「もう過ぎてしまったことはしょうがないよ、父さん」
「そうだな……そう、だな……」
「やっぱ気まずいよね。でも間違ったことはしていないんだし、切り替えていこう」
「うむ」
「多分母さんが、父さんの荒げた声を珍しがって録音しているだろうけど、切り替えていこう」
「それは切り替えられないかもな」
そんな風に。
珍しく父さんが失敗をした。
初めての公式生配信は、こうして苦い思い出となったのだった。
◆
その後の話。
まずは玖零さんについてだ。
彼女はマネージャーが手配した緊急外来に駆け込めた。やはり診断結果は突発性難聴だったが、早期の治療だったことからも特に後遺症もなく、耳は無事であった。何事もなくてよかった。
彼女が回復した旨はSNSでもきちんと報告し、多くの人を安心させた。
途中で中止になった公式生配信は、やはり世間では大騒ぎになった。
義憤に駆られて音響スタッフの素性や会社名を突き止めようとする人もいた。
しかしながら早期にPACKの方から、この度の件は既に和解しており、これ以上の私的な制裁や誹謗中傷を控えるようにという声明が出された。
因みに音響スタッフ所属していた外部委託先の会社は即契約解除――なんてことにはならず、会社代表が真摯に再発防止策などを誠意をもって出してきたので契約は続いている。茶髪のスタッフも解雇はされなかったが、相当お灸をすえられたのか、それとも父さんに怒られたのが効いたのか、今では黒髪に戻してきちんと働いているという。更に余談ではあるが、イキっていた先輩格だった帽子の男性は丸刈りにして深く反省したという。ということで二人とも反省を十分にしている様子だ。
仙谷社長と父さん曰く「一度の間違いは許すけど、同じ間違いを繰り返す場合は反省していないこと間違いないから切る。それにやらかした人間の方が次はないように気を付けるのでむしろ良いこともある」とのことだそうだ。
確かに、やらかしたから契約解除、って話は出さなかったからな。それをやってしまうとPACKが悪者になってしまう恐れもあったし正解だろう。
他にあったこととして、父さんはあの時のことをリスナーに謝罪した。
キラキラとした面のみを見せるべきだった、大人の裏の話し合いも含めて伝えるつもりもなかった、と反省の弁を口にしていたが前者はおっさんいるのにキラキラした面はねえよと一蹴され、後者はむしろそれだけ真剣にメンバーのことを考えてくれているんだな、ということで好感度が上がった。
好感度ついでにチャンネル登録者も大幅に増加し、ついに100万人に手の届く距離までやってきていた。すごい。
あと、
「ああいうかっこいい所を見たのって2世紀前かしら。私をガンマンから助けてくれた時以来じゃないかしら」
と母さんは妄言を吐いていたけど無視することにした。
結果的に言うと父さんの株はまたしても上がったということだ。
放送事故も仕込みじゃないのか、という陰謀説が出るくらい、今回は出来すぎたのかもしれない。
まあ、でも父さんはそういう人物なんだけれどね。
改めて父さんのことを誇らしく思った。
そして恒例のオチみたいなもの。
今回は音声切っていなかったので僕の声が太すぎて成人男性だとバレた――
ということではなく。
むしろ何故だか知らないが、音声スタッフに怒りをぶつけていたあの場では父さんは僕のことを「タカシ」と名前で一回も呼んでいないし、僕も「父さん」と言っていなかったのだ。まるでなんかの力が働いたかのようだ。怖いねえ。
じゃあ今回の話の出どころはどこなのか?
「あの公式生配信は色々あったっすねえ。あ、同じメンバーでもう一回近々やるらしいのでお楽しみにっす」
宇城場ナナ。
彼女の雑談配信だ。
「あ、そういやあの場にタカシがいたっすよ。ウチ、タカシの頭を飛び越えてシダレっちに挨拶したからよーく覚えているっすよ。
え? 飛び越えたって嘘だろって?
ウチの身体能力を舐めるなっす。
ショタを跳び箱にするなって?
むきー!
ウチのジャンプ力を舐めるなっす!
本気出せば2メートルを超えられるっすよ!
あ、で何の話だっけ?
そうだそうだ。
で、メコっちがまたさあ――」
『耶摩シダレの関係者のタカシとは?
息子? 前世や中の人は顔バレしてる? 年齢は?
行事から年は七五三? 成人式? アメリカ留学?
小学生でついに確定か? ショタカシの可能性高し
身長が2メートル超えのショタ!? NBAから入団希望も』
高身長ショタってどういう概念だよ。
もう編集している人わけわかんなくなっているだろ。