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ブートブーリン・ブーゲンブルー

音のない世界 〜ブートブーリン・ブーゲンブルー〜

作者: 一飼 安美

「耳が聞こえないと、どうなると思う?」


 そんなこと聞かれても、困るだろうくらいしか思わない。私は聞こえるし。呼ばれてもわからないとか、危ないとき気がつかないとか。目覚ましが鳴ってるのがわからないと、どうしようかなって思う。たったそれだけのことを言った私に、その人は、お前は筋がいいとおだててきた。何がいいんだろう、つまんない話なのに。その人は、同級生の知り合いか、親戚か……何回か会ったけど、よく知らない相手。待ち合わせをしているらしくて、居合わせた。気になることがあるらしい。ブートブーリン・ブーゲンブルー。知ってるか?って聞かれたけど、子供のときに聞いた気がする、とだけ答えて後は知らないで通した。


 同級生からそのおまじないを聞いたというその人は、意味は知らない方がいい、って言っていた。ないから。意味とかないから、知らない方がいい。言うだけでいいんだ、って。でも……それを、伝えられなかったらどうしよう、とたまに思うらしい。言うだけでいいのに、どうやって伝えよう。耳が聞こえなければ、言っても仕方がない。そういう相手にこそ、伝えたいことなのに……。意味はないから、その言葉を、うまく伝えられないだろう、って一人で困っていた。耳が聞こえないとどうなるか。大変なことなんだ、ってそれくらいは知っている。でも、そういうことが言いたいんじゃないらしい。


 生まれつき聞こえないのなら、どうすればいいか自分で見つけている。壊れてしまったなら、生き物の仕組みがシャットダウンする。そうでないときは……ブートブーリン……どうしたらいいかな。たまに思って、答えられなくて、忘れて、また思う。その繰り返しらしい。同級生は遅れていた。社会科の追試があって、忘れていたって言っていた。その人はそれを知らないみたいで、待ってられないと帰ってしまった。私は……ブランコに座って携帯を見ると、行けなくなったって友達のメールが来ていたから、帰った。もうすぐ高校生の私たちは、ちょっとだけ夕方の町に遊びに行こうと思っていたけど、諦めて帰る。帰り道に、影がいた。夕暮れだから影なのかな。顔が見えなくて、姿がわからなくて、ようやくただの影なのだとわかった。影が、一人で立っていた。


 小学校のときに聞いた、噂話がある。昔の戦争で真っ黒焦げになって死んだ人がたくさんいて、真っ黒焦げで生き残った人もいることはいる。顔が焼けて、目も耳も舌もなくして、何があって何が起きているか、何も分からない。今は真っ黒な影だけになって、体は無くなっちゃったから死んだりもせずに、夕暮れの町に現れて歩き回る。『カゲカゲボーシ』に出会ったら、カゲカゲボーシのうめき声を聞いたら、見ないふりをしないといけない。帰れなくなっちゃうから。私が立ち尽くして近づいてくる影を見ていた、そのときだ。


「やっぱりだ!何してるの?」


 追試が終わった同級生が、私に駆け寄ってきて、影を見つけた。笑顔を見せた同級生は、しっと人差し指を立てて、影に歩み寄って指を口元に置いた。困らなくても大丈夫。ブートブーリン・ブーゲンブルー。影は立ち止まると、しばらく動かなくて、夕日に向かって小さくなって消えていった。じゃあね!って手を振った同級生に、影が手を振りかえした気がした。なんで……そんなことができるの?同級生は、普通のことだよって言って笑っていた。

タイトルから入って手なりで書いたらタイトルと中身がズレてしまった。

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