靄(もや)13-1
「あやつを止めねばややこしく、面倒な事になるぞ。どうする」
ヴィーノは腕組みをしながらノヴァに尋ねた。
「あいつも抜け出す気なのか。王族では家出が流行ってるのか?ううん…ひとまずここで声を掛けてもゆっくり話せない。…後を尾けよう」
「止めぬのか?このまま逃げ出して何処に行こうというのだ。奴は追われる身ではないのだぞ」
「それもそうだけど…ん?でも確かに変だな。レノは何処に行こうとしてるんだ?」
混乱に乗じて彼が向かう場所とは…候補は二つ。ノヴァと二人で拠点にしているアジトか、探索途中だったあの"地下室"だ。
「ヴィーノ。多分だけど、レノの行き先が分かった。街道はまだ兵士がいるかも知れない。申し訳ないけど、地下水路を戻ろう。見つかる危険性も少ないし、その方が目的地まで近道だ」
「なんだ、尾行しないのか。一度追う立場にもなってみたかったんだがな。それにもし見当違いなら見失う事になるぞ」
ヴィーノにそう言われてノヴァは自問自答した。自分はレノの事をどれほど知っている?そうだ。彼は思いもよらない事をする奴だ。前にこんな事があった。
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レノと出会って間もない頃。レノは満面の笑みでノヴァに近付いた。そしてズボンのポケットからある物を取り出した。
「ねぇねぇ。これ、何だと思う?」
ノヴァは不意を突かれたせいもあってか警戒しながら首を傾げて「さ、さぁ?」と言った。
「これね。かの有名な世界大戦で最後に生き残った少年が掲げていた白旗の切れ端なんだ。聞いた事、あるでしょ?この話」
レノの小さな手の平とちょうど同じくらいの大きさで、白旗と言うにしてはだいぶ汚れて黒に近い、茶色い布切れを見せてきた。
「も、もちろんその話は有名だけど。これが本当にそうなのかい?」
レノは自慢気に言う。
「本物さ。君には偽物に見えたとしても僕には本物なんだ。それがどちらかはあまり気にしていない。これに限らず剣や地図、石像や本なんかもだけど、物には歴史や感情が閉じ込められてる。そういうところが好きなんだ。僕自身もそうなりたいし、そうでありたい」
ノヴァは聞き返す。
「それは一体どういう事だ?君という人間が居たという事実を残したい?」
「まぁそんなところかな。忘れられてしまったりする事はとても悲しいし。もし僕がいなくなってしまった時にノヴァには僕の事を覚えていてほしいな」
ノヴァは当たり前だろと笑った。




