闇12-9
「おいおい。こりゃ拍子抜けだな。衛兵がほとんど居ねぇ。一体どういうこった」
王城周辺に辿り着いたシャル率いる別隊は茂みの中から様子を伺っている。隊員の一人が言う。
「まさか、もう逃げ出しちまったとか?あはは!んな理由ねぇか!」
他の隊員も同調し笑う。また別の隊員が言う。
「こっちとしては絶好のチャンスじゃねぇか。今のうちに王の首取っちまおうよ」
シャルが溜息を吐いてなだめる。
「おい、お前等。何度言ったら分かんだ。油断してたらやられるぞ。そもそも奴らの罠かも知れねぇだろ。警備が薄いと誘っておいてあの壁の向こうにわんさか居たらどうにもなんねぇ。焦んなよ」
シャルは慎重に判断しようと警戒し続けた。俺等の動きがばれたか?本隊はどの辺りまで来ただろう。しかし、王城の向こう側で上がっている煙は何なんだ。もう攻撃されてるのか?そうすると、俺等以外にも"此処"を狙ってる奴等がいるって事か?
軍師の言う事聞いてゆっくりじっくり来るんじゃなかった。いつも通り勢い任せに攻めていれば今頃玉座には俺が座っていたのに。ただ、ここで焦って攻め込んだところで罠にかかっちゃ何にもならない。様子を見るしかないか。
しばらく待ったが王城周囲は何も動きがなかった。城門は閉ざされたままで増援を出す気配もない。その城門を守る門番は二人。城壁の上部、いわゆる胸壁のすき間から行き来をする兵士が2、3人見える。マーレン城の門はここにしかなく、周囲は城壁で取り囲まれている。
「援軍に向かった奴等はちゃんと合流出来たのかな。苦戦してるかも知れないぜ?その内にやっちまおうよ、シャル」
仲間の一人が痺れを切らし不満を漏らす。
「ここまで動かないんじゃ、マーレンはアブレイユって奴を買い被り過ぎちまってんだろうな。どんなに優れているかは知らねぇが奴だって人の子だ。覚悟が決まらない事だってあるだろうよ。国や王をほっぽりだして逃げるなんて事はないだろうが。それか、もうこの世に居ねぇかもな」
「この感じじゃ王城は手薄で間違いねぇだろ。そろそろ行くぞ」
一人が城を目指すと我よ我よと皆まで向かい出した。
我慢の限界だ。
「お、おい。おめぇら。ちょっと待…て」
シャルが止めようとした時、城門がゆっくりと開いた。各々がすぐさま武器を構える。が、門扉から出てきたのは一人のマーレン兵だった。
構えていた武器を次々と下ろしていく中、シャルは構え続けていた。スンク兵が肩を落として嘆く。
「なんだよ。反応しちまって損したぜ。門番の交代時間か?」
出て来たマーレン兵は城門の前で立ち止まり、スンク兵が居る茂みの方を向いた。何だ、気のせいか?もしや位置がばれている?そう思うほどしっかりとこちらを見ている。そして大声で叫び始めた。
「スンク軍のみなさーん。お勤めご苦労さまでーす。残念ながら城の中には数十人の衛兵しかいませーん。王は逃げ出しましたー。総隊長は戻ってきませーん。占拠する絶好のチャンスですよー」
シャルを始め、スンク軍は拍子抜けしてしまい全員固まった。誰だ、奴は。今何が起きている?
「しかしこれは降伏ではありませーん。勝利宣言でーす」
茂みの中のスンク軍はざわつき始める。勝利?何だって?気が狂ったか?やけくそか?
「貴方がたの本隊はここには来ませーん。そっちに行ってはいかがでしょうか」
「てめぇ…なめてんのかこらぁ!」
一人、侮辱された事に腹を立てた奴が喧嘩を売る。
「お、おい!馬鹿野郎!飛び出すんじゃねぇ!」
パァァァン!
ドサッと音を立て、兵士は物言わぬ塊と化した。
「あぁ。こうなっちゃうから教えてあげたのに」
まずい。こちらの動きが完全に読まれている。退くのが身のためか。しかし本丸を取るには絶好のチャンス。ここにアブレイユらが戻ってきたら勝機はほぼない。どうする…奴の言うように本隊と合流するか。いや、それも罠かも知れない。道中には既にマーレン軍が待ち伏せている可能性もある。
「ちなみにですが、来た道を戻るのはお勧めしませーん。忠告はここまででーす。よーく考えて行動してくださーい」
完全に相手の手中に陥ってしまった。成す術無し、か。
仲間をやられた憤りで何名か飛び出して行ったが、結果は同じだった。王城に近付く事も出来ず虚しくその命は終わったのだ。スンク人でも頭を撃ち抜かれれば即死だ。そしてしっかりと的を射抜く狙撃手が相手にはいる。それを知ったスンク軍別隊はその場に釘付けにされてしまった。
「怖気付いたようですね。それじゃあ私は戻ります」
そのマーレン兵は城を離れた。そして再び東海岸の方面へ向かった。




