闇12-8
「アブレイユ様!北北西の方角から煙が上がっております!我々の停泊地です!」
「な、何故だ!敵はまだ…スンク軍は東だろう!?事故か?まさか別国…そんなはずは」
アブレイユの前で小さく丸まっていた男が呟く。
「だから言ったでしょう。"西へは"調査しないのかって」
アブレイユは怒り収まらない。
「き、さ、ま…侮辱しているのか!?」
「これだけで済めば良いですけどね。相手は戦い方を変えてきているって、言ったばかりじゃないですか」
顔を上げたフォールが、それはピエロの様に嘲笑っている。
近くに居た近衛兵がフォールに斬りかかろうかとしたその時にアブレイユは右手を掲げ制止した。そのままの体勢で天を仰ぎ、目を瞑り、一度深呼吸をしてから口を開いた。
「よぉし。いいだろう。貴様の考える今後の展開と策を述べてみよ」
フォールは再び直り、額を地面に付けて言い放つ。
「スンク軍の目的は挟み撃ち。退路を断つ為に船を焼き払ったかと。これからこの王城を攻めに来るでしょう。では東海岸に待機している彼らの船は?手薄になるはずです。北東方面の調査隊を東海岸に向かわせ、彼らの退路も断ちましょう。その船でこの場を離れるのが得策かと。いかがでしょう」
アブレイユは必死に怒りを抑えつけ考えを巡らせた。私等が国を離れた事でこの国の民はどうなる。王は一緒に連れ出すべきか。どこに連れ出す。いっそスンクに奇襲をかけるか。いや、腐ってもスンク人だ。軍人でなくとも能力は我々より優れている。だが、それは接近戦の話だ。砲台で遠距離攻撃をすれば勝機はあるやも知れぬ。悩ましいが悩む時は無い。
「アブレイユ様。船を奪った後はこのマーレンをぐるりと右回りで半周し、再びこの王城へお戻りください。さすれば事は万事解決しているかと存じます」
フォールは先程からの姿勢を崩さずアブレイユを説く。
「フォールよ。その間この国の行く末はどうなる。そなたは確信があるのか」
「はい。スンク軍は交戦ではなく、和睦を求めるでしょう」
近衛兵は嘲笑う。しかしアブレイユは真顔だ。
「何故だ。彼等が和睦?聞いたこともない」
「は。先程から申し上げます様にスンク軍の戦い方は変化しております。まず、彼等の戦う目的、それはスンクという人種の保護、繁栄、そして我等との共存です。それが満たされれば戦う理由がなくなる。寧ろ、戦う事の方がリスクです」
アブレイユはさらに悩み込む。それはそうなのだが…と最善策はまだ導き出せないでいた。フォールは続ける。
「彼等スンク、そして我等マーレン。争うべきは我々ではなくそれを下目に見、蔑み、支配しようとするマルベスではないでしょうか」
近衛兵は真顔になる。アブレイユは、はっと確信付いた様に顔を上げ、前のめりにフォールへ言う。
「そうか!この四国を平定した暁にはマルベスより恩恵ではなく、支配を受ける羽目になる。あぁ、私は見誤っていたようだ。貴様には当初、憤りしか感じなかったが、すまぬ。詫びよう」
「もったいなき御言葉。事は急ぎますぞ、総隊長。ご決断下さいませ」
アブレイユは勢い良く立ち上がり、マントを翻す。そして大声で凄んだ。
「全てのマーレン兵へ伝えよ!我々は我々で自由を勝ち取り、マルベス国からの支配を脱する!今は私の個人的な一意見ではあるが、必ず具申し、より良いマーレンを目指すことをここに誓おう!」
その場にいた重臣や、近衛兵は圧倒され凍りついた。が、またたく間に解け、鬨を挙げる。
ひれ伏したままのフォールは床に向かってにやりと笑う。




