笑う2-4
マルベス第34代国王[ジャスティン]は前国王の第三王子として生を受け、上に二人、下に四人の兄妹がいた。
マルベスは第12代まで世襲が続いたが王族の内部抗争が激化したためこれを廃止し国王の信任によって新国王を定める事となった。信任する前に国王が逝去した場合、王族は王族である事から退き、一切の国政に参加しないものと第14代国王[ドウム]によって立法された。しかし直後の第15代国王[キシリア]はドウム直属の護衛部隊長を歴任した経歴から国王に信任されるも王座に腰を据えた途端、法改正に乗り出した。信任制は維持されたものの国王の急逝時には嫡男が引き継ぐ事と改めた。事実上の世襲体制となった。
ジャスティンはこの制度を利用した。上に二人の兄が居たが存在する限り自分に王位は巡ってこないものと考えた。暗殺を目論んだが、父である国王が他のものを信任する可能性もある。そう、自分が紛れもなく頂点になる事が絶対だった。
そこでジャスティンは別の計画を立てた。兄二人の肉体は殺さず、精神を壊すことにした。長兄には食事に致死量以下の麻薬を混ぜ、じっくりとじっくりと中毒に追いやった。次兄にはすでに妻がいたためこの妻を洗脳した。次兄の妻は義父である第33代国王[ディエス]に猛烈な嫌悪感を表し、大小様々な事件を起こした。事件と言っても公に広まるようなものではない。ディエスの集めた骨董品を壊す、落書きする、盗むといった事やディエスの愛猫を病死させて勝手に剥製にしたり、怪文書を送り王城内を混乱させたりした。当然ディエスは次兄夫婦を王族から追放した。
ジャスティンに王位が回ってきたのには幸いにも兄二人には子供がいなかった。もし跡継ぎがいればその家系が後に王族となってしまう。が、その心配はいらなかった。そしてジャスティンはディエスより王位を継承した。
ジャスティン自身も年齢を重ね子宝に恵まれた。子供を5人授かったがいずれも男子であった。そして長男は王に相応しい才能を持っていた。博識で武芸も達者、誰とでも公平に接する信念と悪に対して毅然とした態度を示しリーダーとしての素質を兼ね備えていた。
だがその優秀さが仇となった。第一王子である[フラッグ]はある噂を耳にした。国王の他国侵略の計画だ。フラッグはジャスティンに失望してしまった。誤報だと思い関係各所に探りを入れたが確実な証拠は見つからなかった。ただ、確実に白だという証拠も見つからなかった。そこにある人物が近付いてきた。その人物はジャスティンの今後の行動をフラッグに伝えた。計画を熟知していた。そしてそれの殆どが的中した。フラッグは彼を信じた。
ある夜、フラッグは実父を脅迫した。だが失敗に終わり崖っぷちに立たされ、自ら命を絶った。
フラッグに情報を伝えた男はその様子を全て見ていた。「計画通りだ」と手で口を覆い堪えながら天を見上げ笑った。