闇12-3
「ここからの作戦は特にありません。好きに暴れていただいて結構です。ただ一つ忠告としては無闇に、一直線に、何も考えずに死に急ぐ事だけはやめてください。別隊と挟み撃ちが出来れば被害は最小限になります。そこまで耐えれば勝利の可能性が格段に上がります」
「好きに暴れろと言いながら意外と注文が多いな。まぁいい。[シャル]の部隊が来るまであしらっとけ。すぐ近くまでは来てるはずだからな」ーーーーー
ーーーーー
「アブレイユ様。先頭部隊から言伝をしたいという兵士が一人来ておりますがいかがしますか」
「何?伝令ではなく兵士が直接来たのか。ふざけた奴だな。そんな奴がいるから纏まらず秩序が乱れるんだ。ここまで連れてこい。内容によっては見せしめにするぞ」
警備兵二人に両腕を取られながら若く、全身泥だらけの兵士が連れられてきた。アブレイユは彼を見下しながら言う。
「おい、お前。自分の立場を分かってるんだろうな」
若い兵士は床に頭を押さえつけられながら途切れ途切れに言葉を発する。
「あ、あの…そ、それをし、承知で…こ、こまで、はぁ…参りま、した」
「そうか、なら申せ。前線で何が起きている。言葉を選べよ」
荒れる呼吸を必死に抑えながら兵士は答える。
「い、今はまだ…何、も、お、起きて、おりませ、ん…い、痛い。はぁ、こ、これでは、ま、まともに…ふぅ…話せませ、ん」
「呆れたな。何も起きておらぬのに一人本陣に来たと申すか。わかった。解放してやれ。此奴の最期の言葉をしっかりと聞いてやらぬとな。私が残忍だと思われてしまう。ははは!」
警備兵は若い兵士の腕を解き代わりに剣を構えた。若い兵士は痛めた肩を押さえながら恐る恐る顔を上げ、アブレイユをちらと見た。
「も、申し訳ありません。恐縮ながらお話させていただきます。スンク軍と思われる五隻の船は着岸後未だ動きがありません。もうすぐ12時間が経とうとしています」
「はっ。そんな情報はとっくに伝わっておる。囮の可能性を考え、本陣周囲の部隊をいくつか別の海岸へ調査に向かわせた。前線も陣形を少し広げている」
「そ、そうですか。ち、調査と言うのは"西"へもですか」
アブレイユは額に手を当て首を横に振る。
「西だと?有り得んな。奴らがわざわざ回り込んで来るなど万が一にも有り得ん。仮に有ったとしても見張りから報告がある。それが無いということはどういう事か、貴様の小さな脳みそで理解できるか?」
「な、なら良いのですが…着岸した船には恐らくスンク軍が待機しています。ここまで動かないのを見るに日没もしくは夜更けに事を起こすかと。そしてスンク軍には…」
「なんだ。スンク軍にはなんだと申す」
「は、はい。あくまで見立てですが今までとは違う戦い方をしようとしています。知能が高い者、軍師や参謀の様な者が加わっているかと」
「見立て?恐らく?何の根拠もなくよくものが言えるな。私は言葉に気を付けろと忠告したつもりなのだが」
「こ、根拠ですか…」
「もうよい。お前に構っている時間が私にとってどれほど不必要か、それは理解できるな?」
若い兵士は俯き黙る。警備兵は剣を彼に向けたままアブレイユを確認した。アブレイユは右手の親指のみ立て、それを首元で左から右へ横一線に動かした。
警備兵は頷き、剣を掲げるーーー
「で、伝令!東海岸から敵襲の報告です!船から続々と人が出てきております!スンク軍で間違いありません!」
警備兵はまだ剣を振り下ろしていない。
「よおし。なるべく距離を取って攻撃開始!海岸から内陸へ近付かせるな!」
別の伝令係が駆け寄る。
「伝令!王城付近に敵襲!二手に別れ王城と東へ進軍しています!」
アブレイユは固まった。警備兵はアブレイユと若い兵士を何度も見返す。
王城だと?どこから来た?この兵士の言うように西から来たと言うのか?見張りはどうした?いや、今となってはもうどうでもいい。攻め込まれている…しかも二手に別れて。東の海岸は…挟まれる。本陣は王城と東海岸の丁度中間、北寄りに位置している。しかも東海岸の五隻が囮の可能性を考え調査部隊を北東〜北北東に向け移動させてしまった。完全に裏目に出た…抜かった…
「アブレイユ様!どうされますか!?」
「調査部隊を今すぐ呼び戻せ!王城周辺の守りを強化!東海岸の前線は下がりすぎるな!接近戦もやむを得ん!本陣は王城へ向かうぞ!」
アブレイユは苛々した様相で若い兵士へ近付く。
「おい、貴様。今回はスンクに命を救われたな。だが決して寝返るなよ。名だけ申せ」
冷や汗でビショビショになった若い兵士の髪の毛を掴み上げアブレイユは荒い鼻息を吹きかける。
「わ、私は…フォールと申します」




