影武者11-8
ドゥ率いるスンク軍がマーレン東側に到着した。そう、交戦もなく着岸したのだ。
「おい、本当にいいのか?このまま寝入っちまうぞ。これってよぉ、罠だよな?どうすんだ?」
何事もなくマーレンに辿り着いた事にドゥは少し不安気に言葉を連ねる。
「罠ですね。でも問題ありません。まだ降りませんので。くれぐれも血気だったりしないでください。その為にお休みになっていただくのです」
「ホントよくわかんねぇな。着いたのならいっその事、一気に行っちまえばいいんだよ。罠だろうがなんだろうが関係ねぇよ」
「向こうもそう思ってるから誘ってるんです。待ち構えていればスンク軍はどんどん押し寄せてくる。そこを遠距離攻撃や奇襲、トラップなどで自軍の戦力を温存しながらじわじわとスンクの兵力を削る。わざわざ直接対決しないです。そうなれば我々スンクの方が圧倒的に有利ですから」
「この前のルボン戦みたいに勢いだけじゃ勝てねぇって事か。じゃあひとまずは寝てりゃいいのか。いつ仕掛ける?」
「今日の日の入りを目安に行きます。それまでは外にも出ないでください。あと12時間ほどですかね。ただし、気は抜かないようにお願いします。いつでも戦闘できる状態で」
「待つのは性に合わねぇんだけどな。仕方ねぇか。軍師…いや、ライズ様の作戦とあっちゃあ」ーーーーー
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「アブレイユ様。予想通り東側に数隻、着岸を確認しましたがまだ動きはありません」
「そうか。その内わらわらと出てくる。焦らずじっくりやれ。くれぐれも接近はするなよ」
今回の指揮はもちろんアブレイユが執る。スンクの戦い方は研究する程のものでもなく、一辺倒だ。力任せに捻じ伏せる。たがそれが厄介だった。作戦もなく各々が意思を持ち、其処此処で戦う。協調性もない。交戦してはスンクの底知れない耐久力と何度でも立ち上がる精神力にひれ伏すしかない。彼等とやり合うには長距離戦、これのみだ。
スンクは東から上陸する。船をつけたと同時に乗り込んでくると思っていた。しかし、なかなか動かない。不気味な雰囲気が漂う。本当に乗っているのか?怪しすぎる。しかし確認しようと近付いたら終わりだ。
彼等に持久戦を持ち込まれるとは…だが、このアブレイユ、全ての可能性を常に考えている。臆病?結構。臆病で何が悪い。敵陣に真正面から飛び込み死に急ぐよりよっぽどマシだ。生き延びなければ価値がない。人間に与えられた知能という能力を最大限に活用し、そして常に容量を増やし続け記憶、知識をアップデートし続ける。私が一番恐れるのは忘却してしまう事だ。人類と言う種族、生物にとって唯一解せないのがこの「忘れる」と言う機能だ。記憶のキャパシティの観点からだが、拡げる努力はしたのか。そもそも最大まで使用しているのか。ただ月日が経って必要でなくなった記憶を意図せず捨てているだけだろう。ならば
私は全ての事柄が私にとって必要であり、いつでも呼び出せるようにしておけば記憶を捨てる必要がないと考えた。私は臆病なのだ。




