笑う2-3
ラフスは混乱渦巻く議事堂内に居た。自分の名札が着いた席に居た。周りは揉みくちゃになっていたが座って居た。不思議にも呼吸は普段より落ち着いていた。悲鳴と怒号。その中に居たからこそ冷静だった。もしもこの場が状況を未だに理解できず誰も席を立たず声を挙げなかったらラフスの頭の中は黒いもやがぐるぐると思考を飲み込み自分を見失い奇声を挙げてとち狂っていただろう。
友人はもう動かなかった。彼のローブは赤く染まっていた。幼なじみの喉からはもう、あの聞き馴染んだ声は聞こえない。
ラフスは立ち上がり一点を見つめたままゆっくり歩いた。人だかりに押されながら歩いた。突き飛ばされたとしても立ち上がりまた歩いた。
そしてラフスはユティンの隣に膝を着いた。ラフスの膝も赤く染まり始め生暖かい感触があったがあまり気にしなかった。腰を落とし、正座をしたところでユティンとの思い出が脳内を駆け巡った。何故かは分からないが良い記憶ばかり浮かんできて、良くない記憶は何かしらのフィルターで思い浮かばなかった。
ラフスは涙していた。頬に生暖かい感触があったがあまり気にしなかった。
「今、目を閉じてやるからな。その目でいつまでも見られていると怖いんだ。見透かされそうで怖いんだ。俺が打たれ弱くて人に流されやすくて信念を持っていないことが分かられてしまいそうで怖いんだ。いや、君は分かっていたよな。長い付き合いだ。分かっていながらいつも嫌味ったらしく話しかけてきてくれたんだ。相容れない関係になってしまったから、仲が良いと思われた時には君自身にも不都合な事があるんだろう。優しい奴だな。君は」
ラフスは右手をユティンの目に被せてそっと瞼を下ろしてやった。言葉には出さずに心の中で「ありがとう」と言ってラフスは笑った。