影武者11-4
「ユティン…君に頼りたい気持ちもあるのだが、今は何者でもない君の意見を汲む事は出来ない」
ユティンは右手を挙手とは言えぬくらいに控えめに挙げた。
「もっともだが私の主張を取り入れろと言いに来たのではない。あくまで一意見であり、私の経験が役に立つ可能性が少しでもあるのならここで出し惜しむべきではないと思ったのだ。決定権はそちらにある。とは言え、この意見を聞いたことで判断を鈍らせるような事があっては元も子もない。聞くかどうかもそちらの自由だ」
彼の経験から考えれば打開策となる可能性は非常に高い。わざわざ手を挙げる必要はないのに、彼は私を、この国を思って今ここに居る。
「意見を聞く前にいくつか質問をしてもいいか。そうだな。三つ程、問いたい」
「答えられる範囲で、だが」
「いいだろう。まず君についてだ。かつてはラーム教の司教まで昇りつめた男。現在もラーム教との関わりはあるのか」
かの世界大戦時、暗躍したと噂されるラーム教。今回もその引き金になっている可能性は捨て切れない。ユティン自身、音沙汰もなかったところから急に現れ政府に潜り込んで支配下に置こうと画策しているやも知れない。
ユティンは表情を変えずに答える。
「こちらに関しては全面的に否定しよう。私はラーム教の教え自体は人生において崇拝している。それは今も変わらないが教会とはあの事件以降一切の関わりを持っていない。必要であれば宣誓書にサインしよう」
一つ目の質問はあっさりと否定した。潔白か開き直りか。どちらにせよ政府に損はないはずだ。
「よし。二つ目は君の望むものを伺いたい。自由か、地位か、名声か、金銭か」
ユティンは言い淀む事なく答える。
「償いの場だ。他人からよしもういいと言われる事ではなく、自ら納得出来る最大の償いをしたい。その対象は国でありラーム教会であり私に関わった方々、そして国民だ。自らの為ではない」
彼をここまで追い込ませたものは何なのか。世間的に一度死んだ彼は人としてもう一度今世を生きたいのだろう。
「…最後の質問だ。君が思う最善策は根拠としてどの程度の効果が見込めるだろうか」
ユティンは少し考えたのか、即答しなかった。その後、こう言った。
「私が考えるに、この方法であればマルベス以外の諸外国との友好関係を十割に近い確率で築く事が出来るだろう。更にリスクは最小限で済む。それは君にとっても、ノア国にとってもだ」




