影武者11-2
「開けるぞ」
ノヴァとヴィーノは点検用の鉄蓋を開け地上へ出た。外は朝日が昇り始め薄っすらとした明るさだった。
出て来た場所は王城の敷地内。だが広大な敷地の最北、警備兵宿舎のすぐ近くだ。もっと城に近い出口もあるが、リスクが高いと思った。ヴィーノは警備兵宿舎付近に出ることに異論を唱えたが、この状況下でのうのうと睡眠を取る警備兵はいないだろう。逆に警戒は薄れているとノヴァは考えた。城門付近の警備の確認もしておきたかった。
懸念していたのはいつ捜索を中断するかだ。日が昇れば目立った行動は出来ないだろう。その段階でどういう対応をするかは分からない。そのまま捜索を続けるのか、中断して通常業務に戻るのか。決定権は恐らくスティル王子だろう。どんな手で来るだろうか。
あとは城内での立ち回り方だ。ヴィーノに任せるしかない。レノは何処にいるだろう。行動を制限されていた場合、少し厄介である。探し出す手間が増えてしまうからだ。スティルはどこまで計算しているか。
「あぁ、久しぶりの地上、久しぶりの太陽、久しぶりの草木の香り。たまらんな」
ヴィーノは大きく伸びをし、自然を抱きしめるように思いきり全身で感じた。
その姿はキャンバスに収めておきたいほど優雅で、無垢で、綺麗だった。
はっとしたヴィーノが振り返りあたふたしながら言う。
「す、すまん。つい…」
ノヴァは微笑む。
「謝ることはないさ。俺らの当たり前は君にとって望むものだろう。少しくらい浸っていい」
照れ臭そうにうろうろしながらも抑えきれずに笑みが溢れていた。
「おーい!もう夜明けだ!今日のところは撤収しろ!業務に支障が出てもしょうがない。仮眠を取って備えろ!」
警備兵が戻って来る。再び鉄蓋を開け身を隠した。何十人かの足音が響き渡る。欠伸をする声、愚痴を漏らし続ける声、甲冑の擦れる音、馬の鳴き声。
しばらくすると音はピタリと止んだ。恐る恐る鉄蓋を開ける。こちらへ来た兵士は皆、宿舎に戻ったようだ。
周りを見渡すと人影を一つ見つけた。
いそいそと身を隠しながら動いている。あれは…
「レノ…」
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「スティル様。本日は残念ながら見つかりませんでした」
近衛兵が報告に来たがスティルは無視した。
「本日も引き続き捜索に当たります。必ず本日中に見つけます」
「…何故今なのだ。何故だ」
スティルは一度も目を合わせない。独り言とも取れる。
「詳細はわかりませんが…明日を待たずして真意は判明するかと」
「それじゃ遅いんだよっ!何故見つからない!?これだけの人員を使って人一人を…!えぇ!?」
机を何度も叩きつけながらスティルは苛立ちを抑えられなかった。まもなく国王になるであろうこの大事な時期に彼に動かれてはいけないのだ。一番の注意を払い、何年も時間を費やし、最も恐れていた事象が今まさに起きている。何故だ?運命か?必然か?起こるべくして起きているのか?
全てが受け入れられない。私の人生は常に逆風だ。向かい風しか吹かない。私が何をした。父の血を受け継いだものの母は第三夫人。生まれながらにして中途半端だ。それならいっその事、農民の子で良かった。両親から格別な愛情を注がれれば地位など要らない。平穏であればそれで良かったのに。王族?エリート?それが何になる。常に何処からか圧力を受け続けるだけじゃないか。自由?そんな言葉は私の辞書にはない。国民が勝手に主張した、ただの理想ではないか。国民に自由を与えれば反乱、反逆を企てる。なんと自分勝手な生き物だ。その様な奴らは利権を使って捻り、踏み潰し、淘汰する他ない。それによって秩序、規律、均衡が保たれる。
私が満たされるには、この世で最も高い場所から万物を見下ろす事以外有り得ないのだ。寧ろこの考えが一番まともで純粋で一貫した揺るぎない"正義"であろう。
何としてでもヴィーノを見つけ出す。




