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スピリット  作者: 猿飛
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影武者11-1

気温が下がり、宵も深まる中、二人は秘密のアジトを後にした。ノヴァは屋根伝いに王城を目指そうと思ったが、衛兵の監視が厳しく断念した。いくつもの裏道を通り今のところ気付かれてはいない。

「ちらと城が見えたが、まだ距離がありそうだ。この距離でこの警戒では、王城周辺はもっと厳しいのではないか?」

ヴィーノは不安気にノヴァに訊ねる。

「逆に言うとここまで衛兵が来てるってことは王城周辺の人員も範囲を拡げて駆り出してるんじゃないかな。騒ぎを大きくして国民に不安を感じさせてもいけないだろうし、慎重かつ迅速に終息させたいんだろう」

「わからないがもうだいぶ深い時間だろう。出歩く民もいない。見つかれば言い訳もできないぞ」

ノヴァは冷静だった。

「大丈夫。見つからないよ。もう少し行くと王城からの地下水路に入れる場所がある。民家の排水も賄ってるから迷路みたいになってる。においはきついけど」

「次期国王にその様な場所を歩けというのか…と、言いたいところだが、生憎望みもしない耐性がついてしまった」

ノヴァはもし自分がヴィーノの立場だったら、ここまで気丈に振る舞えるだろうかと考えた。想像でしかないが地下室と言うくらいだから陽の光は届かないだろう。鉄柵とごつごつした石壁、申し訳程度の寝床。勿論、床も石畳か。常に誰かに監視され続け、外部の情報は遮断され、今日は何日か、今は何時か、自分は何歳か。考えただけで押し潰されそうになる。だが、彼には悲哀も憤怒も、更に言えば歓喜も悦楽も感じられない。感情が未熟なのか、それとも成熟してしまったのか…

だが、ヴィーノの目には光がある。ノヴァは不思議で仕方なかった。


「よし。ここから水路に降りるよ。王城の敷地に入るまで大体30分くらいだ」

「分かった。私に構わず進んでくれ。時間については申し訳ないが私には分からない。時計のある生活から長らく遠ざかっていた故、昼夜の感覚でさえまだ慣れていない」

ヴィーノは真剣に答えたつもりだが、それを聞いたノヴァは悲しみに包まれた。

ノヴァは話題を変えた。

「ヴィーノ。君は"国王"になったら何がしたい?」

「ほう。んん。そうだなぁ。まぁ待て。えーと。あー」

彼は純粋だ。何気ない質問だが真剣に未来を想像している。

「まずは我がマルベス国を全て回ろうと思う。この足で歩きこの目でしかと見てみたい」

「その他は?」

「ほ、他か。そうだな…はぁ。いざ考えてみるとあまり思い浮かばないものだな。意外と望むものはないのかもしれない」

「例えばさ。外国を旅して冒険してみるのは?」

「それもいいが国王でなくともその気があれば出来るだろう。君が聞いたのは"国王になったら"という質問だ」

「ならマルベス国一周だってそれこそ誰でも出来るじゃないか」

「"国王"と言う立場で周る意味があるのだ。政治は寄り添う事で支持を得られる。王が自分の街に来た!と大はしゃぎするだろう。海に出れば私はただの人間だ。違うか」

「そりゃそうだけど。俺の聞き方が悪かったな。もっと単純に考えてみてくれよ。あそこに行きたい、あれを食べたい、この目で見たい。そんなのないのか?」

ヴィーノは歩みを止めた。しっかりとした眼差しでノヴァを見ながら一言、言った。


「この世の全てがそれに値する」

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