前哨戦10-6
「ラーク少佐!もう矢が残り僅かです!」
「そんな…無駄に放った程でもないのに。敵が多すぎる…」
ラークは休まず矢を射続けた。右手の指先は血だらけで感覚も無くなり始めていた頃。相当数倒したつもりだったが敵の勢いは衰えなかった。ジャン大佐、ミシェルを始め移乗した味方も応戦しているのにまだまだ敵兵はこちらの船に乗り込もうとしている。
「スマツ隊長。敵兵が多すぎてとても保ちそうにありません。船団はどうですか?」
「こちらも埒が明かない。とても厳しい状況ですね。万事休す、と言ったところかな」
糸が切れそうになった船上の兵士達。船にもダメージが積もり沈没も有り得る。
ドゴォォォォン!ドォォォォォン!
相手船団に集中攻撃。霧の中から新たな船団が見えた。
「やはり敵襲であったか。たった一隻でここまで耐えるとはアーミーもなかなか骨がある。総員!敵船団に集中砲撃ぃ!休ませるな!」
ジャン、ミシェルにも援軍の船が見えた。
「もうちょい早く来て欲しかったな。久々に疲れちまったよ。お前ら!船に戻るぞ!急げよ。最後に俺が目印の狼煙を上げたらこの船はターゲットだ。遅れるな!」
移乗した兵士達は再び味方の船に戻り始める。ジャンは最後までレイピアを振り続けていた。
「ヒュース副将!狼煙が上がっています。一番近付いていた船からです!」
「よろしい。最小限の攻撃で一気に沈めろ!間違っても味方船には当てるな。荒波も計算して砲撃!」
「あぁ。何とか堪えたか…味方船団に近付けそうか?動ける者は総動員で船を動かしてくれ!」
スマツは煤まみれになりながらも必死に指示を出し続ける。敵船から戻った兵士達をカバーしながら治療組と攻撃組、操舵組へと振り分けていく。狼煙を上げ終わったジャンも船へと戻ってきた。
「やはり君がいると心強い。何人力にも感じるよ」
「そういう部隊なんでね。殿は冷静でいて、ある意味鈍感な俺にはぴったりだからよ。ちょこっとだけ休ませてくれ。久々の実戦で息切れしちまった」
強がるジャンも所々に傷を負い血が滲んでいた。
「分かった。治療も受けてくれ。動けるようになったらまた頼む」
「それまで任せるぜ。隊長」
ジャンが治療室に着くと、部屋は負傷兵でごった返していた。その中にミシェルを見つけた。
「よぉ。生きてたか。何人殺ったんだ?」
ミシェルは肩で息をしながら右目は半開きで熊の人形の様に足を開き、両腕はだらんと真下に垂れ下がった状態で壁にもたれ座っていた。
「わ、私はゼロ人です。致命傷で亡くなった人はいるかも知れませんが」
「大した技術だ。あの中でよく立ち回ったな。初陣にしちゃ良い方じゃねぇか」
褒めているのか、貶しているのか真偽は分からなかったがミシェルは素直に受け止めることにした。
「ただまだ終わっちゃいない。気ぃ抜くなよ」
この一回の戦いで終わる訳がない。この先、何らかの目的で戦い続けなくてはいけない日が続くのだろう。それぞれの正義の為に。生き残れるだろうか。
世界は広い。武器も作戦も知識も何も無い。まずは真っ白いパレットに何色の絵の具を出すかだ。より沢山の選択肢があったほうが良い。キャンバスに描くのはそれからだ。
徐々に太陽は西の海、水平線に沈んでいった。




