笑う2-2
ノア国会であの日も定例会議が行われようとしていた。参加する面々は各方面へ挨拶周りをし、自分の地位をしっかりと踏み固める事に勤しんでいた。朝廷、議員、宗教団体の所謂聖職者達が一同に介し国を守り、自らを守る為に派閥を持ち、枠組みの中にまた小さな枠を作り、その頂点を目指しながら媚びへつらい今日も頭を垂れる。
結果的に暗殺者となった司教[ユティン]はラーム教内でも人望に厚く次期大司教は確実視されていた。その為ラーム教のみならず、朝廷や議員にも支持派を持ち権力は膨らむ一方だった。その様子を傍観している者もいた。名は[ラフス]。ユティンとラフスは同じ地域の出身で幼なじみだった。共に成長した。二人共ラーム教の信者であったが、ユティンは聖職者になり布教活動に努めた。ラフスは違う角度から地域貢献をするべく議員の道を目指した。議員になるのは想像以上に過酷だった。国民を代表して国会に参加するのだ。その席に座るまでどれだけ這いつくばって、どれだけ歯を食いしばってきたか、その努力はユティンには分からないだろう。
あの日、国会開始前に偶然にもユティンとすれ違った。彼の周りには十数名の取巻きが居た。すれ違いざまに彼は背中を向けたまま立ち止まって声を張った。
「ラーム教は国家、国民の心の支えになるものだ。教えを説き、慈悲を与え、優しく包み込む。信者でない者もいるがラーム教の信念が伝われば私達と同じ方向をきっと向くだろう。しかし、議員というのはどうだ。自分に付き従う者を作り上げる。それは力を使ってだ。時には首根っこを捕まえ無理矢理にでも向きを変えさせる。従う側は手をこすりながら、へこへこしながらそれをアピールする。私のところにまで来る。外から見ていると何とも無様で信念がない。いつもにやにやしていて気に障る」
ラフスも立ち止まってその言葉を背中で聞いた。おそらく自分に向けて喋っているのだろうと思った。確かに間違いではない。自分の主張を通すにはそれなりの地位と名誉が必要だ。正論で苛立つが反撃の余地はない。
「だが…」
ユティンは天井を見つめながら続けた。
「ラーム教も似たようなものか。結局ヒエラルキーが存在する縦社会だ。それを私は壊したい」
ラフスはその言葉に違和感を感じた。振り返りユティンを見たが彼はすでに歩き始めていた。共に過ごした友人はあの頃のままだと安堵し、笑った。
ユティンはにやりと笑いながら議事堂に向かった。