前哨戦10-5
「お嬢ちゃんの腕と、短刀二本、どっちが先に折れるかな?いや、お嬢ちゃんの心が先に折れそうだな。はははは!」
他の兵士より一回り大きいこの男。見かけ通りの力強さだ。男の言う通り、今にも心が折れそうだった。腕の力が無くなってきた。
「もう限界じゃねぇか。これで楽にしてやるよぉっ!」
思い切り振りかぶった男の大剣がミシェル目掛け降ろされる。
…しかし、衝撃を感じない。あぁ、腕ごと無くなったか。続く攻撃で腕の感覚は麻痺しほぼ何も感じられなかったから、気付かないのかな。
ふと顔を上げると、まだ両の手はクロスしたまま頭上にあるのが見えた。
その向こうに驚いた様子の大男が見える。男の大剣はミシェルの左側で甲板に突き刺さっていた。
「っ!んの野郎、ヒーロー気取りか、ああ!?」
ミシェルの右側でレイピアを持ったジャンが突きの体勢で立っていた。男が大剣を振り降ろした瞬間をレイピアで突き軌道を変えたのだ。
「小娘いたぶる様な奴よりはヒーローだと思うんだが。気取ったつもりは毛頭ない。相手しようか?骨がありそうだし。脂肪も多いが」
「ムカつく野郎だな!おめぇ!チビを半分に切ったらもっとチビになるぞ!?」
男は刺さった大剣を引き抜きジャンに向かっていく。ジャンは突きの体勢から立ち上がり胸の前でレイピアを構える。とても美しい立ち姿だった。
「切れればの話だ。チビに負けたくなかったら全力で来るんだな」
ますます男は怒り狂う。煽られるままに大剣をジャンに振り降ろす。しかしそれをレイピアの切っ先でさらっといなす。大剣では相性が悪い。
「どうする。切れなきゃその剣もただの硬い棒切れみたいだぜ?」
男は叫び大剣をむやみやたら振り回す。だが全てジャンに受け流されてしまう。
「あああぁぁぁ!チビが!いつまで保つかなぁ!?オラオラオラ!」
一瞬の隙を逃さずジャンは大剣を上方に弾き返した。男の懐はガラ空きだ。
「どっかの国ではこう叫んで決めるんだってよ。チェスト!」
一閃。
大剣は音を立てながら甲板に落ちた。男は胸を突かれ吐血した。
「ん、くぅ…こ、のチビが…」
「さっさと逝け」
ジャンはそう言いレイピアを男から引き抜く。血を振り払ってからミシェルを見た。
「よぉ、まだ生きてたか。もうちょいやれるか。泥棒猫」
ジャンはニヤッとしてから戦場へ戻っていった。
跪いたままだったミシェルは一度深呼吸をして再び両手の短剣を握りしめ、走り出した。




