前哨戦10-4
ドォォォォォン!!
船の真横にそれはそれは大きな水柱が立った。爆音と共に船は大きく左に傾く。
「隊長!攻撃されてます!先程の船団です!」
「見なくても分かる!気付かれたか。砲撃準備!」
幸い直撃は免れたがここから一気に激化する。
ドドォォォォォォン!
多勢に無勢。まともな装備もないこの船じゃ話にならない。そんな事は誰もが感じていた。ただ少数派が声を荒らげ必死に抵抗する。
「形振り構ってらんねぇぞ!こっちも打ち込め!」
ドゴォォォォン!
こちらの一発が一隻に命中し、煙と炎を上げ始めた。
「いいぞ!偶々じゃねぇよなぁ!?かましてやれ!」
ジャンはどんどんヒートアップしていく。
「向こうに優秀な狙撃手はあまりいないようだ。いいニュースじゃないか?こっちは狙撃手だけじゃないだろう?」
スマツの指示で荒れる海原を利用し相手から遠ざかる。
パァン!
「あああぁぁぁ!」ドスン!
見張り台から一人看板へ落ちてきた。もう息はない。
「…挟み撃ちか。それなら接近戦だ」
反対方向から近づく船よりピストルとライフルの弾が撃ち込まれる。いつの間にここまで寄った?船団に気を取られすぎたか。
ジャンは今にも突っ込んで来そうな敵船へ爆弾を投げ込む。恐ろしく強靭な肩から放たれた爆弾は見事敵船に届き、散った。
「そのまま乗り込んでやる」
「ジャンさん!待ってください!一人でですか!?」
「お前は何やってんだ?戦ってんのか?逃げてんのか?助けんのか?怯えんのか?」
ミシェルは震える拳を握りしめ抑えようとする。震えは止まらない。自分の弱さに苛立ち、床板をダン!と殴る。指の付け根が血で滲むーーー
今まで人の為に生きてきたつもりでいた。病を看て、食料を確保して、抱きしめ、共に涙を流した。寄り添った気でいた。しかし今、何のためにここに居る。彼等の為に槍となり盾となる。生きるため、生かすために戦うのだ。
「私も行きます!接近戦なら戦えます!」
ジャンは振り返らず背中で応えた。
「船酔いすんじゃねぇぞ。泥棒猫」
マストから垂れ下がったロープで振り子の様に敵船へと流れ込む。弓矢での応戦に遭い敢え無く海へ落下する者や失速し敵船の側面にぶつかっていく者。その中でミシェルは何とか移乗に成功した。敵の武器は大体サーベルだ。スピードなら負けない。ミシェルは両手に短刀を握り態勢低く走り出す。今にも倒れそうな低さで敵の間を斬りつけながらすり抜ける。"猫"の異名よろしく機敏に左右を行き来しながら駆け回った。狙うは足首のアキレス腱だ。ここを傷付ければ立ち上がるのもままならない。ミシェルは吹っ切れたように数多の敵兵を倒していく。それを見ながらジャンはニヤつき得意のレイピアで突き進む。緩急を使った剣術はひらりと相手の攻撃をいなし、一気に踏み込み強烈な突きを食らわせる。そこまでの強敵ではなさそうだ。ただ数では圧倒的に不利な状況で休む暇はない。
「どこのどいつかは知らねぇが今ならこっちに寝返って命を拾うチャンスをやる。嘘はつかない。命の保証はしてやるよ。この場で武器を捨てる勇気がありゃな」
「乗り込んだ敵船を鎮圧するまで周りの船団を近寄らせるな!そこまでの戦力はない!囲まれたら一気に終わるぞ!集中を切らすな!」
スマツは砲台を操りながら士気を上げ続ける。
敵船から逆に乗り込んでくる兵士を撃ち落とすはラーク。弓の扱いは一級品だ。
「矢の補充早くしてください!討てるものも討てませんよ!」
ラークの射るテンポに何とか追い付く様、矢を持った兵士が列を成した。
ふと冷静になったミシェルは足を止め、立ち上がって後ろを振り返る。何人もの敵兵が足を押さえ倒れ込んでいる。相当数切っていた様だ。あと一押し…
と、思った瞬間背後から殺気を感じた。両手の短刀を頭の上でクロスして何とか斬撃を受け止めた。
「おぉ。いい反応だな、お嬢ちゃん」
受け止めたが余りに重い攻撃で両手が痺れる程だった。
「こんな攻撃くらい跳ね返してくれよ、退屈しちまうじゃねぇか」
大柄の男は大剣を幾度となくミシェルへ振り下ろす。ミシェルは堪らず片膝を付き受け止める。




