前哨戦10-2
「近付いてきませんね。何かを待ちわびているかのように」
バス海軍は大小それぞれ三隻ずつ、母艦にはミロイ大将が座する。港から少し沖に出たところで待ち構えるが動きはなく膠着が続く。
「攻めあぐねている訳ではなさそうだ。向こうも作戦を持っているようで。ふむ、では誘いに乗ってみましょう」
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バスの地形からして上陸するポイントはある程度絞られる。東側には港が一カ所あるが三方は山に囲まれ船を降りた段階で勝ち目はない。生い茂る森の中には十番隊が待ち受ける。十番隊は飛び道具のスペシャリスト集団で弓矢、ボウガン、スリングまたは様々なサイズの投石器で近付くことを許さない。
南北に海軍基地、北から北西にかけて陸軍第三駐屯地。西側に陸軍第二駐屯地。西側は切り立った崖があるため海からの上陸は不可能だ。南東の内陸寄りにバス王城があるがその周り、城下町が放射状に伸びる。王城に辿り着くには何処かしらの街道を通って城下町を抜けなければならない。他所者は正面突破するしかない。海門があるがここにはバス王城麓まで続くパブロ川が流れている。通常は通行証がないと文字通り門前払いとなる。
「さて、何処から来る。受けて立つぞ」
マークはガレオンに伝令を依頼し、第三駐屯地へ戻っていた。
やはり北側に重きを置いたほうが良さそうだ。南側は少し手薄だが彼等がいる。もうじき戻る筈だ。
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「やはり緊急事態のようだ。第三駐屯地所属の者は各配置に就け!お互いを補いながら窮地を脱するぞ!」
スマツは船上を自ら隅々まで巡回し、指揮を取り、士気を高めた。第三駐屯地は海軍との合同演習を定期的に行う。その効果を発揮する時なのだ。
「ジャンさん。あんまり考えたくないんですが、これから戦うって事ですよね…」
ミシェルは見張り台から降りてきたジャンに確認をした。
「見りゃ分かんだろ。何処のどいつか知らないが俺たち相手におっ始めようって事だ」
「ですよね…」
不安に怯えるミシェルをジャンは見つめ、言った。
「いいか。戦争ってのはよ。大体目的が食い違った者同士で始まんだよ、例外もあるが。要は喧嘩だ。厄介なのはどちらも自分達を正義だと思ってる。そしてどちらも相手を悪だと思ってる。更にどちらにも守るべき信念がある。国がある。家族が居る。残酷だよなぁ」
ミシェルは今にも泣き出しそうだ。
「お前はまず、仲間を守れ。この船の奴らだ。死にたくないとかほざくならとっとと身投げしろ。頑張りゃ陸まで泳げんだろ」
「でもそんなの急には…」
「ちょっとタンマで敵は待たないぞ。ガキじゃねぇんだ。今すぐ決めろ。軍人は誰を守る?自分か?他人か?」
ミシェルは流れ出そうな涙を必死に堪える。今まで死なない為に生きてきた。だが今は違う。死なせないために生きなくてはならない。
「命を張るのは現場の奴らだ。指揮官は机上の地図に置かれた駒を片手で動かす事しかしない。でもよ、俺たちの指揮官は一緒に戦ってくれるぜ?それはガンプーのどの隊長でもだ。しかもその軍で二番目にそれをする奴が同じ船に乗ってる。出来る奴が船に乗ってる。そいつの指示を聞いてやろうぜ」
「…二番目ですか」
「おい、突っ込むのそこじゃねぇだろ。まぁいい。ちなみに一番は我らが大将さんだ。当たり前だろ」
船上は先程の不安が嘘のように団結し、各々が出来ることを100%発揮する為に戦闘準備を進めている。その中心にはガンプー軍五番隊隊長スマツがあらゆる方面に指示を出しているのだ。
ミシェルは腹を括ってジャンに言う。
「私は何をすれば良いでしょうか」
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「とっつぁん。城を頼む!これから第二駐屯地に飛ばして行ってくるからよ」
"とっつぁん"とは騎兵隊隊長兼農夫のサンダの事だ。ガンプーの年長者は唯一自由行動を許される。それほど信頼に値する実績を積み重ねているのだ。
「今回俺の出番は少なそうだが地の利だ。万が一上陸するような事があれば掻き回してやんよ」
「若くないんだから無理すんなよ?よぉし二番隊のお前ら!駐屯地以外は任せる!避難警報と安全確保だ!終わったらまた王城に戻れ!時間無ぇかんな!」
ジャンが居ない分の埋め合わせをしなければならない。ガレオンは第二駐屯地へ馬を走らせた。




