夜明け9-7
「間もなくバスだ。眠れたか」
ミシェルは扉の向こうで問いかけるスマツの声をしっかりと認識していた。結局一睡も出来なかった。
「いえ。何か準備する事はありますか」
「いや、特に今はない。起きているなら少し外に出てこないか。まだ皆眠っている。今は見張りと私だけだ。どうだい」
ミシェルは無言のまま起き上がり扉を開けた。
「おはよう。ちょうど夜明けだ。海からの眺めはまた違っていいぞ」
スマツは相変わらず姿勢良く、スッキリとした表情でミシェルに言った。何故こうも毅然として居られるのだろう。
「初めての任務だったが、いろいろあったな」
スマツは揺らめく海面を見つめながらミシェルに話したが、ミシェルは返せなかった。
「君のおかげで問題を一つ解決出来た。ありがとう」
言葉をかけられる度にミシェルの心は更に深海へと沈み込む様だった。
「これで大将に成果は何もなかったなんて事を言わずに済むよ。君をこの任務に就かせた大将はやはり先見の明があるな。頭が上がらない」
「私は、何も…。誰も助けて上げられてないし」
スマツは心からビックリした表情でミシェルを見た。
「何を言う?君が居なければこんな晴れ晴れとした気持ちで昇る太陽を待ち望めていないさ」
「だって…ナジャさんが言う事が本当なら、指示した奴は他に居るって事ですよね。解決した訳じゃない」
スマツは再び驚いた表情で言った。
「そうかも知れないが事を実行したのはナジャだ。それを聞き出したのは君だ。君が居なければその裏の者の正体も知り得なかったじゃないか」
「それは結果論です。ジャンさんが居なかったら返り討ちに遭っていたかも知れません。力不足を感じました」
太陽が少し顔を覗かせた水平線に活動し始めた渡り鳥達の鳴き声が聞こえてきた。
「それも見越しての配置だ。君が気にする事では無い。もし何か一つ失敗があればそれは今回の場合、私の責任だ。あ、いや、一割くらいは大将の責任もあるか」
はははと笑うスマツに純粋さを感じた。生き死にの世界でここまで余裕で居られるだろうか。
「とにかくこの世は結果論だ。戦争に勝てば正義、負ければ悪党扱い。しかし、その中にそれぞれのストーリーがある。それを救うのがその時の大将だ」
「スマツ隊長は何故、軍に?」
スマツは飛び交う渡り鳥を目で追いながら言った。
「実はな。私も孤児院の出なんだよ。あんまり人に話した事はないが同じ境遇の君なら話せるな」
ミシェルは驚いたが、やはり返答出来なかった。
「お、陸地が見えてきたぞ。そろそろ皆を起こすか。新しい一日の始まりだ」




